第五章 第8話「森の中の家族」
前回のファントムブレイヴ
アグリシオンへ出発する第1隊とヒロト達第4隊。第1隊の面々と話している中で自分達第4隊が魔導士の一件でかなりの信頼を得ていた事を知る。そして、車内でピリつく空気など全く感じぬままアグリシオンへ到着する。
そうして、彼らは脱獄者達が到着する前にと森へ向かった。
広大な畑を抜けながら森を目指す。
その道中、じいちゃんがふと何かを思い出したように立ち止まる。
「そうじゃ、わしはアグリシオンの市長に会ってくる。戦える者がおれば協力してくれるやもしれん」
そう言ってきた道を戻り始めた。
「おい!」
勝手に戻るじいちゃんを止める。
「なんじゃ?」
じいちゃんは振り向かずに言う。
「いや…その、一人で行くのか?」
「わしを舐めすぎじゃヒロト、それに奴らがくるのは森の方向から…逆を行くわしの心配がいるのか?」
「…そうだな」
俺は、これ以上止めるのは不自然だと思いじいちゃんを行かせた。
だが、もしじいちゃんが魔導士の子供のところへ行くかもしれないと思うと気が気ではなかった…
悶々としていると、郷田隊長が突然話し始める。
「案ずるな月永、我々第1隊が何も気付いていないと思ってるのか?」
「え?」
「元より第3支部は王都を信用してはいない、身内の家族であっても王都の組織の人間は警戒する。その様子だと、お前達も預言者から聞いているんだろう?当然その話は支部長にも報告が入っているし、その内容をこの作戦に参加する第1隊も知っている」
前を歩く第1隊のメンバーが振り返りニッと笑う。
「そしてこれは知らないかもしれないが、魔導士の子供の家は森の中にある数軒の内のひとつだ、逆へ行った月永さんが我々より先に辿り着くことはない…ただ逆へ行き何をしに行ったのかは分からないが…」
「第1隊と組むと安心感がすごいです」
「それはこちらも同じだ、魔導士を打ち負かしたお前達と一緒で心強い」
そして、森へのゲート前に到着する。
「では、虎ノ門と光丘はここで待機だ」
「「はい!」」
2人を残し森の目の前まで行く。
森の前に着くとまず霧ヶ峰さんとダイチが森へと入っていった。
「まず、敵が来ていないかと魔導士の子供の位置の把握だ、インカムに連絡が来次第4人に森へ入ってもらう」
やはり、森はかなり広い…いくら霧ヶ峰さんとダイチといえど限度がある。その時インカムから声が聞こえる。
〈霧ヶ峰っす、家を4軒見つけたっすよ…まとまって3軒少し離れて1軒、やっぱり森の入り口からはあまり離れてないっす〉
〈雷殿です、その離れた1軒から魔力を感じます〉
〈郷田だ、まずはその家の避難からだ〉
〈雷殿です、まとまった3軒からは人の気配は感じません、この時間なのでみんな仕事へいっているのかも…周辺にも人はいません〉
〈郷田だ、分かった!4人を行かせる、避難が最優先だ〉
〈了解〉
「では、西園寺、両断、月永、麗未、頼んだ」
俺たちはその言葉を背に森へと入った。ダイチからの情報を頼りにその家へと辿り着く。
「では、避難を…」
と西園寺さんが家の方へ歩いて行くがそれを両断さんが止める。
「なんだ、両断」
「その死神みたいな格好で行かせるわけないだろう?子供もいるんだぞ」
確かに、仮面に全身黒装束…サブサイドの隊員と言っても怖い…
「月永と麗未が行ってくれ、私も鎧を着ているからな」
「分かりました」
俺とアオイが行くことになり、郵便受けに“折原”と書かれた家のインターホンを押す。
「すみませーん、サブサイドの者なんですが」
家の中でドタドタと走る音が聞こえ、次の瞬間勢いよく扉が開く。
「うわぁーーーー!!!」
「え!?」
扉を開けて出てきたのは子供だった、その子供はおもちゃの剣を振りかざし飛びかかってきた。
俺はその剣を掴み、止める。
「うわぁ!止められた!!」
「ちょっと!落ち着いて!?どうしたの?」
アオイがしゃがみその子供と目線を合わせる。
「くぅぅ〜」と子供は歯を食いしばり、また剣を構える。
その時、家の中から「レンジ〜?どうしたの?」と声が聞こえる。
「母さん!こいつらきっと悪い奴らだ!サブなんとかって言ってた!」
「おいおい….なんでそうなるんだ」
「コラ!レンジ!いいからその人達を中に入れなさい!」
「え!?」
母親にそう言われ、しぶしぶ俺達を家の中へ入れる。
玄関を通り、リビングと思われる部屋に入ると大きなベッドが置いてあり、そこに女性が赤子を抱えて座っていた。
そして、その赤子から魔力を感じた…まだ小さなあの子が魔導士だ。
「おじゃまします、折原さん…で合ってますか?」
「はい、私は折原マミといいます。その子が息子のレンジ、この子が娘のホダカです…サブサイドの方ですか?」
「はい、月永ヒロトと」
「麗未アオイです」
俺はのんびり話している時間は無いと早速本題を切り出す。
「何もかも突然で申し訳ないんですが、今すぐここから避難してもらいます」
折原マミさんは少し驚いた顔をした後、何かを言おうとする。が、レンジが立ち上がる。
「無理だ」
「離れるのは嫌かもしれないけど、ここはもうすぐ危なくなるの」
アオイが言い聞かせようとするが、レンジはそれを振り払う。
「違う!母さんはここから動けないんだ!」
「「え??」」
「見て分かるだろ!母さんは病気でしかも足も悪いんだ…それに…お前達もホダカを狙ってきたんだろ!この前も変な女が来たぞ!」
「変な女?」
「なんか…こう…フリフリの服着た生意気な奴だ!」
セリカか…とその聞いた特徴だけでなんとなく予想はついたし当たっているだろう。
「あ〜まぁそいつも悪い奴じゃない、俺達もだ。君達を守りに来たんだ、そいつが来たなら聞いてるかもしれないがこれからホダカちゃんを狙っている奴らがここに来る、その前に3人で避難するんだ」
「だから無理だって!」
「んな…」
「レンジ…」
頑なに無理と言うレンジをなだめるようにマミさんが名前を呼ぶ。
「すみません、サブサイドの隊員さん。実は私が患っているのは心臓の病気で、避難は出来ますが急いでというのは難しいんです…」
「心臓の…分かりました。ではゆっくりでいいので避難を…」
とその時インカムに連絡が入る。
〈雷殿です!森への侵入者を確認!南から2人、西から2人、東から3人!ほぼ同時に森へ入ってきました、敵の可能性が高いかと!〉
「くそ…まずいな」
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ではまた次回でお会いしましょう〜