第五章 第6話「嘘」
前回のファントムブレイヴ
ヒロト達第4隊は預言者セリカから脱獄者達の目的と脱獄には主様の一味が関わっている可能性がある事を知らされる。ヒロトは近づく父親との戦いに不安を隠さないでいた。一方、主様と呼ばれる存在は着実に目的を果たすためにひっそりと動いていた…
翌日、朝から全員が会議室に呼び出されていた。
「全員揃いましたね、ではこれより作戦会議を行います」
北潟司令長が前に立ち会議を進める、そういえば今日帰っているはずの支部長が見当たらないな…
「まずは月永ケンスケさんから現状の報告を」
「分かった」
じぃちゃんが司令長と入れ替わる。
「タルタロスから囚人70名が脱獄し丸一日が経った。我々、取締組織・月光と神の使いの調停者及び預言者の迅速な調査により、奴らの行方と目的が判明した!」
皆が少しざわつく。
「質問は後で聞こう、まず行方じゃが…30名がここからほど近い農業の街アグリシオンへ向かった可能性が極めて高い。それは目的のものがそこにあるからじゃ、そして残りの40名じゃが…」
じぃちゃんが少し俯き、言うのを躊躇うがスッと顔を上げる。
「殺されておった」
「!?」
殺された…??誰に?主様の一味か?じゃあなぜ殺したんだ、しかも40人も…
「現場は我々月光の調査員が発見した、理由は定かではない…犯罪者同士じゃ仲違いの末そうなったのかと思ったがどうも争った形跡がない、40人が動けない状態かほぼ同時に殺されておった…つまり、これから考察できる事は、裏で糸を引いとる者がおるということじゃ」
「それは…」と長内隊長が立ち上がろうとするがじいちゃんは「それは後じゃ」と制する。
じいちゃんの背後のモニターに30人の顔写真が映し出された。
「一旦その件は別件として置いておいてじゃ、残りの30名がこいつらじゃ。相当な曲者が名を連ねておる…そして奴らの目的じゃが…自分達を捕まえた者達への復讐じゃ、そのための食糧調達などの準備のためにアグリシオンへ向かっている可能性が高い」
俺達第4隊全員がピクッと反応し、お互いをチラチラと確認する。
それはじいちゃんが嘘を言ったからだ。一般人への説明ならともかく俺達サブサイドへの説明で嘘をつく理由が無い、全員あの1年の戦いで多くの事を知った…今更隠す事は無いはずだ。
俺はダイチを見る、がダイチは首を小さく横に振った。ダイチは人によって違う電磁波を見ることができる、そして横に振ったという事は昨日のじいちゃんと今前で喋っているじいちゃんは同一人物、それ以前に偽者となったのかあるいは…
「これを阻止するためにアグリシオン防衛線を張る、司令長」
「はい」
司令長が紙を取り出す。
「支部長が未だ王都から帰ってこれない状況となりましたので、指示を仰ぎました。いくつか指示がありますので読みます。本作戦は第1隊と第4隊で構成した合同隊が出動し、現場の指揮は郷田隊長が取る事。第2隊は通常任務に着き、この期間のみ虎ノ門タイガを第2隊の隊員とする」
「おっよろしゅう」
タイガさんが第2隊に向けて手を挙げる。
「第2隊がカバー出来ない量の任務が発生した場合、最も近い第1支部に応援要請する事。そして、これよりこの作戦の主指揮は北潟司令長と月永ケンスケ殿に移る。…以上です」
「ではこれにて会議を終了する。支部長殿の指示通り第1と第4隊は合同隊を編成しアグリシオンへ向かう準備をしてくれ、質問は後ほど受け付ける、解散!」
皆が順々に出ていく、最後に第4隊が残ったが俺は怪しまれないよう「俺が残る」と言って4人を外へ出した。会議室には俺とじいちゃんだけが残った。
「じいちゃん」
「なんじゃ、質問は後じゃと言っただろう」
俺は単刀直入に聞く。
「なんで嘘ついたんだ」
「嘘?」
「4隊はセリカから奴らの目的を聞いた、じいちゃんも聞いたんだろ?俺達は魔導士って言われてもそこまで驚かねぇ、新しく産まれることを説明すればよかったんじゃないのか?」
「あぁ…預言者から聞いておったか。嘘をついた理由は情報漏洩の可能性を減らすためじゃ、奴らにわしらが目的に勘付きどんな対策をするかを知られてしまっては作戦は失敗するかもしれんじゃろ、何にでも変身できる奴が王都に出たと聞いた…警戒もするじゃろ」
「サブサイドを信用してないのか…?」
「…わしは誰も信用しとらんよ、“家族”以外はな…それが月光の監督にまでなるための秘訣じゃ」
じいちゃんはそう言いながら資料を手に会議室の扉に手をかける。
「じいちゃん、信用していいんだな?」
「言ったじゃろ、わしは家族は信用しておるし、家族のために動いておる…ほれ、アグリシオンへ向かうぞ」
「あぁ」
じいちゃんが扉の向こうへ消える。じいちゃんは偽者じゃない、それはなんとなく分かったが俺はまだ引っかかりが取れないでいた。
◇◇◇
月永ケンスケが会議室を出て廊下を歩いていると物陰から声をかけられる。
「正気か」
「犬神様、わしが正気で無かったことなど今までなかったでしょう?」
物陰から犬神が姿を現し、ケンスケを見る。
「犬神様はなぜ分かっていながら静観し続けるのですか?」
「それも世界の流れだからだ、他の世界の者が手を貸していたたとしてもこれは所詮人間の争い…いち世界の流れの中で起こり得る事象であり、神が手を出すレベルではない」
「…そうですか」
ケンスケは一度も犬神の方を向かず前を見つめたまま会話を終え、歩き出す。
「蛙の子は蛙、その逆も然りということか…」
犬神は小さく呟き、姿を消す。
様々な想いが交錯し、最悪の戦いが始まろうとしていた…
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ではまた次回でお会いしましょう〜