第五章 第5話「主様の目的」
前回のファントムブレイヴ
会議が終わり、通常業務に戻るヒロト達第4隊。久しぶりのサブサイドでの日常に皆、気が抜けていた。体を動かそうとヒロトとショウスケが組み手をしていると、脱獄者達の目的が分かったとセリカが現れる。その目的は“魔導士の略奪”だと言うが…
俺はセリカの言葉を聞いて頭が痛くなる。
朝から即座に理解できない事をこうも連続で聞くと脳の処理が追いつかない。
「魔導士の略奪?この世界の魔導士はメビウスと兄貴だろうが、もうその2人はいないぞ」
ショウスケが全員が思ったであろう事をそのまま伝える。
「そう、いなくなったから新しい魔導士が生まれたの。メビウスは例外だけどね」
「そんな簡単に言ってるけど、そんなもんなの?あたしらの失った気憶みたいに大変なんじゃ」
「魔導士の素質を持った子は毎年産まれてるのよ、例えるなら種ね。毎年のように種を持った子供が産まれ、魔導士がいない事を感知するとその子供の中から1人の種が芽吹くの。そもそも素質を持っているから暴走とかそんな事にはならないわ」
「で、その子供がいる場所に奴らが向かってると」
「ご明察、さすが月永くん。セリカ達はその種持ちの子供は把握してる、どの子が芽吹いたかもね。だから目的が分かったってわけ」
そうなるとひとつ疑問が生まれる。
「どうして、敵は魔導士の居場所が分かったのかって言いたいんでしょ」
セリカが俺が言う前に得意げに言う。
「残念だけどそれは分からないわ、どうして敵は居場所を突き止められたのか…でもひとつ言えるのは、タルタロスにぶち込まれてた奴らの中にそんな事をできる人間はいない」
「…つまり、主様の一味が関わっていると」
「そういうこと。奴らが何なのか少しだけ掴めてきた…けどまだ分からないの…セリカ達の力でもまだ分からないのよ…!」
今度は少し俯きながら言う、分からないことにイラついているのが少し見えた。俺はセリカに何かあったのかと聞こうとするがその前にセリカはパッと顔を上げる。
「とにかく、あんた達には先に伝えておきたかったの。どうせあんた達が駆り出されるだろうからね、明日にでも話があると思うわ」
セリカはフワッと浮かび、「じゃあねっ☆」と言って消えた。
「相変わらず慌ただしい人だね…」
「目的地がどこかも言わなかったしな」
「どこだとしても移動手段があれば1日でどこかの都市には辿り着けるわね」
その時、サブサイド内に警報音が鳴り響く。
〈自然の怒り発生。自然の怒り発生。第4隊は直ちに出動準備をしてください〉
「あっ僕達だね」
「ほれ、来たぞショウスケ」
「よーし!気合い入れるぜ!」
俺達は脱獄者達の動向が気になりながらも、討伐任務へと向かった。
◇◇◇
「主様、選別が終わりました」
「そうか、何人残った?」
「30人です」
その時、主様の座る椅子の後ろからルリとルカが顔を出す。
「え〜!あんなにいたのにそんな少なくなっちゃったの!?」
「主様〜やっぱり選別いらなかったんじゃない?」
「いいか?ルリ、ルカ…我々が欲しいのは数じゃない、我々の言う事を聞きその通りに動く駒だ。我々に背き反旗を翻そうなどと考えるゴミはいらん」
「そういえばなんであんな犯罪者達を選んだの〜?」
「そうそう、サブサイドとかいうのが強いんじゃない?」
「我々の忠実な駒にするにはそれなりの対価が必要になる、あの罪人共への対価は何か分かるか?それは“自由”だ、地下牢獄で残りの一生を過ごすしかないカス共を解放し任務遂行の暁には奴らの望む自由を保障する…対価がこれほど安い奴らはそうはいない」
「でも失敗しちゃうんじゃない?」
「いいや…今回の我々の目的は果たされる…月永シュウジ、奴がいれば確実にな」
◇◇◇
ー夜ー
その日の仕事を終えた俺は寮の部屋でベッドに入り天井を見つめていた。
「明日か…」
明日、父親と会うのかもしれない…そしてその父親と戦わなければいけないと思うと当然眠れなかった。
「どんな人だろう、人をたくさん殺して俺の母親も殺して…とんでもねぇクズなのは分かるが…」
グッと拳を握りしめ、突き上げる。
「戦えるのか…俺は…迷いは無い、はずだけどいざ目の前にした時俺は何を思うだろう…」
力無く突き上げた拳を下ろす。
「それに神力はどうすんだよ…」
俺は目を閉じ、深く息をする。
「考えてもどうにもならねぇな…切り替えねぇと」
そのまま、深い眠りにつくことなく浅い眠りを繰り返し夜を明かした…
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ではまた次回でお会いしましょう〜