第五章 第3話「課題」
前回のファントムブレイヴ
ヒロトが朝、サブサイドに到着するとそこには祖父とチョコ(犬神)がいた。そして祖父から、ヒロトの父親が生きていること、その父親が大犯罪者であり先日タルタロスから脱獄したことを知る。さらに父親を倒せるのはヒロトだけだと告げられる。
一方、王都では捕縛中のエクレールが斎條レイコに化けた主様の一味に襲撃されてしまう。斎條レイコが到着するも捕らえられず、そのまま逃亡されてしまった…
じいちゃんの口からまたしても理解し難い言葉が放たれる。
「攻略できるのは神力だけってどういう事だ、使うのは気術じゃないのか?」
じいちゃんが一層険しい顔になる。
「気術じゃよ…じゃが気術であるからこそ気術や失った気憶、魔法ですらも勝てんのじゃ」
「ますますどういう事だ」
「ひとまずここにいる人間を集めてくれ、恐らくじゃがサブサイド…いや国全体で対応せねばならんかもしれん」
◇◇◇
1時間後、サブサイド第3支部会議室
「これで全員か」
会議室には司令長を筆頭に斎條ナナミさん、清水メグミさん第1隊〜第4隊までの人が集まった。ここまで人が揃っているのは初めて見るかもしれない。
「司令長、録音して他の支部にも送ってくれ」
「はい」
今更だが、いち個人がこんなにまで介入していいのか?と疑問に思ったが、それは次の言葉で撤回する事になる。
「わしの名は月永ケンスケ、国より命じられ“犯罪者取締組織【月光】の監督及び対月永シュウジ特化員”をやっておる」
前々から不思議だった、ボロい機械工房だけでなんで生活のやりくりができているのか…別で仕事を持ってたんだ、しかも国からの…
「今朝早く、国から連絡があった。タルタロス地下層から大量の囚人が脱獄したと、その中には月永シュウジも含まれるとな」
第2隊隊長の長内さんが早速質問する。
「早々で悪いですが、それは国の仕事では?我々サブサイドは犯罪者を取り締まる組織では無いはずだ」
「あぁ、本来はな。じゃがわしの肩書きにもあるように月永シュウジ…奴は別格じゃ。20年前の話じゃ知っている者もいるじゃろうが奴を捕らえるだけに何十人と人が殺された…国の気術士では力不足という事じゃよ」
「ヒロトの爺さん、逆にどうやってそんな強え奴を捕まえたんだ?」
ショウスケが投げかける。
「まずは奴の気術から説明せねばならん、奴の気術は“生きているもの以外の全てを分解できる能力”、それもただ機械の部品を分解したりだけでなく、分子レベルまでも分解できる…そして失った気憶で魔法すらもその範囲とする…つまり、気術や魔法では分解し無力化されるんじゃ」
なるほど…だから完全上位の存在である神力でなければ完全な攻略は不可能と…
「20年前、奴を捕らえた時はわしの物質を組み立てる気術と前サブサイド本部長の気術、そして大量の人間で囲み、奴が気力切れになったところを捕らえた…そこでも何人もの兵を失ったよ…」
「神島前本部長の力を持ってしてもそれだけの被害が…」
郷田隊長が「うむ…」と腕を組む。
「神島前本部長殿ほどの武術の達人でも勝てぬほどの腕っぷしがあるということか…?」
西園寺ケイウンさんが問いかける。
「いやそうではない…さっき、奴の能力は生きているもの以外を分解すると言ったが、人間の中の気力は別じゃ…奴は5秒触れるだけで触れた相手の体内の気力を全て分解し、体外に排出させ“無気力状態”にできるんじゃ」
無気力状態…聞いた事はある、生命活動に必要な気力すら無い状態の事だ、数分で死に至るらしいがそれにたった5秒で…
「最近では、病名と分けるためにノンヴァイタル状態とも言われておるが、それを恐れ簡単には肉弾戦はできんかったんじゃよ」
すると、じいちゃんはモニターに顔写真を次々と並べていった。
「さらに今回は他の犯罪者達もいる、それも大勢な。国が全ての力を使い行方を追っておるが皆基本的にはバラバラに動いておるらしく詳細を把握するのは困難、じゃから各街にあるサブサイドに協力して欲しいんじゃよ」
そして、じいちゃんが頭を下げる。
「全く関係のない一般市民を守りたい!それにはサブサイドの協力が必要なんじゃ、頼む!」
◇◇◇
俺たちは顔写真のリストを渡され一度解散となった。
「目的不明、過去脱獄者を一人として出してないタルタロスからどうやって逃げたかも不明、なんで今なんだろうねぇ」
アオイがリストを見ながら言う。
「私…一応脱獄したけどね…」
「それはノーカンでしょ」
「僕たちがやれる事はやらないとね、月永くんのお爺さんに頭を下げられちゃあ断れないよ」
ダイチが笑う。
「なんか悪いな」
「月永くんが悪いわけじゃないよ」
「あぁ、悪いのは…」
ショウスケがそう言うと全員が静かになる。みんなの脳内で“主様”の名前がチラつく。
「関係あると思うか?ヒロト…」
「正直、五分五分だな。証拠もなければ目的も分からねぇんだから」
その時、物陰から俺を呼ぶ声がする。
「小僧」
「ん?あっチョコ」
「はぁ…お前は我を犬神と呼ぶ気は無いようだな」
「条件反射だよ、その姿じゃあしょうがないだろ」
「まぁいい、お前に話しておくことがある…神力についてだ」
「神力…」
「まだ小僧が扱えぬ神力、これを扱うにはまだ必要な条件が揃っていない」
1年の修行で感じることすらなかった神力、使うには条件がいるのか…
「我々守護神は器を選ぶ際、その者に課題を課す。ひとつは“力の扉”、神力を扱うための肉体と気力を体得していればその扉は開く。もうひとつは“精神の扉”、神力を扱うための精神力を持っていればその扉は開き、持っていなければ神力に触れた瞬間暴走する…小僧、お前は精神の扉が開いていない。今、神力に触れれば過去あったような暴走状態に陥る」
「ヒロトの暴走は神力が影響してたのか」
「過去の暴走は世界の変動によるものだ、成長途中で敏感になっていた小僧の体は世界渡航などの大きな変動に反応し、防衛本能が働き気力から足りない神力を生成しようとし、結果暴走状態になっていた」
「チョコ、気力から神力を生成できるのか?」
「我の魂が宿らなければできない、それ故に気力が異常をきたし暴走するのだ。我の魂があっても扉の開いていない状態ではどの道暴走するがな」
「どうすればその扉を開けるんだ?」
チョコはスタスタと歩き出す。
「それを言えば課題を課した意味がないだろう。行く先に必要な能力だ、知恵を絞り肉体を鍛えよ」
そう言ってチョコは透明になり消えた。
「神力…」
「ヒロトは大変だな、まぁ焦ってもしかたねぇよ」
「心配しなくても私たちがついてるから」
「あぁ、ありがとう」
必ず体得してやると心に刻み、俺はグッと拳を握りしめた。
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ではまた次回でお会いしましょう〜