第五章 第2話「近づく闇」
前回のファントムブレイヴ
預言者セリカに突然聖域の神殿に連れてこられたヒロト。そこで、メビウスの本名が月永カシュウであり月永の家系の人間であった事、エデンの少女が月永カシュウの娘であった事を知らされる。
ヒロトはその事実に動揺しながらも、先祖達が守ってきたこの世界を自分も守らなければいけないと再認識したのだった…
俺はモバイル端末でニュースを見ながら寮からサブサイドへ向かっていた。
・新たな王が就任
・前王を襲った病気とは
・犯罪件数が数日で増加傾向
・農業の街アグリシオンで子ども達による田植え行事
・先月の新生児
…
変わらぬニュースの中、トップに新王の事が流れていた。一部の人間しかしらないが、新王は外向派ではなく内向派の賢者の一族から選ばれた、今回の事件による信用のガタ落ちで外向派が王権を拒否したらしい。
「もう悪い事が起きなきゃいいけどな…」
外向派が気になるものの、信用を回復するために下手なことはできないはずだ。
俺はサブサイドに到着する。
「さぁてと、資料作成ももうすぐだし支部長も明日には帰ってくるし。やっと通常運転に戻りつつあるなぁ」
サブサイドの扉を開き中に入る、すると入り口で第4隊のみんなが集まっていた。
「あっ月永くん!」
ハヅキが俺に気付き呼ぶ。そして、その中から意外な人物が現れる。
「え?じいちゃん?とチョコ」
「チョコと呼ぶなと言っただろう小僧」
チョコが喋る、俺は周囲に目をやった。
「なっなんでみんな驚かないんだ!?」
「もう既に一回驚いたからな」
ショウスケがチョコをまじまじと見ながら言う。
「というか神様がこんな人目の触れるところに堂々といていいのかよ」
「ここの人間には姿を見せても良いと判断した、その方が話が早そうだからな、我は面倒が嫌いなんだ。それに、我は守護神であって小僧達の思う全知全能のような神ではない、言ってしまえば我々は下っ端なのだ」
「そうなのか…というかなんで2人がここにいるんだ」
「ヒロト、お前に話さなければならない事がある」
じいちゃんが、真剣な顔になる。だいたいこの顔の時は良くない事があった時だ。
「お前の父親がタルタロスから脱獄した」
父親が脱獄、その言葉が頭をぐるりと回り理解しようとするが無理だった。
「はぁ?」
「それは意味がわからんぞヒロトのじいさん、ヒロトの父親は死んだんじゃなかったのかよ」
ショウスケもツッコむ。ショウスケの言う通り、父親は死んだと聞かされて育った、だがその父親が果ての監獄タルタロスから脱獄したなんて意味がわからなかった。
「どの道死ぬまで出てこないはずの男じゃ話す必要も無いと思っておったが、こうなった以上話さなければなるまい…お前の父親、月永シュウジは自ら犯した大罪とその危険すぎる気術で極刑を受け、タルタロスの最下層に放り込まれておった」
「本当なのか…」
「ここまで来て嘘は言わん、すぐに受け入れられないのは分かる…受け入れられないのならそれで良い、奴はそれほどのクズじゃ、父親と思わん方がいいかもしれん」
俺はひとつ気になる事があった。
「じゃあ、母親は…母親も生きてるのか…?」
恐る恐る聞く。
「いいや、すまんが母親は本当に死んでおる…」
「じゃあ…その父親の罪っていうのは…もしかして」
じいちゃんは俺に背を向ける。
「あぁ…」
「っ…!」
父親が母親を殺した…俺はどんな感情でいれば正解なのか分からなかった。
「ねぇヒロト。あたしたち席を外すよ」
アオイがそう言い、その場を去ろうとする。
「いや、大丈夫」
俺はみんなを止める。
「今まで、俺は両親を恨んだ事もあった、なんで先に死んでんだよって…それで泣いたこともあった。でも、父親は生きてて、両親がいない原因がその父親で、急展開だけどさ…俺、父親に会いたいんだよ…会って、今までの俺の想いも罪も含めて、ぶん殴ってやりてぇんだ」
「少しは強くなったみたいじゃな」
「まぁな」
「どの道、父親をぶん殴れるのはヒロト、お前しかおらん」
「どういう意味だ?」
「奴の気術を攻略できるのは神力しかないからじゃ」
◇◇◇
ー王都、サブサイド本部ー
「斎條支部長!」
本部の調査係の賄井ジュンが斎條レイコの元へ走ってくる。
「なんとか今日の尋問許可降りました!しかし、時間も遅いので少しだけとの事です」
「まぁいいだろう、いくぞ」
斎條レイコは歩き出す。
「でもなんでそんなに急ぐんですか?別に明日でもじっくりできますよ」
「あいつがもし情報を持っているとすれば何者かが早々に消しにくるはずだ、ならば何か起こる前に少しでも情報が欲しい…それにここの警備はザルだからな」
「殺されるって事ですか…?」
「最悪の場合の話だ」
警備員の立つ扉の前に2人は到着する。
その警備員に名札を見せ、扉を開けた。
「もう尋問なんて早いわね」
質素な部屋の中の質素な椅子と机、そこに囚人服を着た女が待っていた。
「エクレールだったな」
その女は魔導士エクレール、先日の戦いの後、本部が身柄を拘束していた。
斎條レイコはドカっと椅子に座る。
「今日は時間がない、単刀直入に聞く。主様と呼ばれる人間を知っているか」
「主様?何それ知らないわ、どこかの王様か何かかしら」
斎條レイコはエクレールを睨む、そこへ賄井が耳打ちする。
「彼女、嘘はついてません」
「へぇ、あなた嘘が分かる能力なのかしら?それにこの期に及んで嘘はなんてつかないわよ」
「無駄口を叩くな、では質問を変えよう。イデアルの事で知っている事を話せ」
「そうねぇ、私たちがこの世界に来る前からいたのは確かよ、こそこそ何かやってるみたいだったけど興味なかったから何も知らないわ」
斎條レイコは賄井を見る、が賄井は首を振る。
「イデアルは徹底していたようだな…では最後に、なぜお前たち魔導士はこの世界に来た?」
「来た理由ねぇ、生きる場所を探しに…かしら」
「…お前のポエムを聞いている暇は無い」
「本当よ?世界に1人しかいない魔導士はね、道具として使われるか、ただただ虐げられるか…どちらしか無いのよ…だから私は逃げ出した、世界を渡る方法を調べてね」
「それで仲間を連れてここまで来たのか」
「えぇ、なんせ世界を渡るには相当な力が必要だからね…そして、次の世界でデスと会ったわ。彼女は魔法で汚れた魂を浄化したいとかなんとか言ってたわね、その次はルヴァン、彼もその世界で虐げられていたわ…その次は、グラソン…彼は上手く生きていたみたいだけど私たちに同情して着いてきたの。その次とその次は魔導士はもういなかったわ。それぞれみんな、深く理由は聞かなかったし聞けなかったけど、それなりに生きにくかったのよ」
斎條レイコは突然立ち上がる。その拍子で椅子が倒れた。
「そうか、お前の持っている情報はだいたい分かった」
「斎條支部長?」
明らかに斎條レイコの声色が変わる。
「主様の事は何も知らぬようだ…だが主様はどのような能力であれ魔導士が敵に渡る可能性を危惧されている」
「あんた…何者…?」
賄井が扉を開けようとする、が斎條レイコの姿をした何者かから棘が伸び、喉を突き刺す。
「がっ!?」
「お前に2つの選択肢をやろう、ここで死ぬか主様のもとへ行くか…選べ」
「私は……」
「何事だ!」
その時、異変に気付いた警備員が扉を開ける。しかし、それも棘が襲う。
「ぐぉっ!?」
「少し騒がしくなってきた、さぁ選べ」
エクレールのそいつが迫る、だが突如そいつが壁に叩きつけられた。
「何者だ、貴様」
斎條レイコが扉から現れ、睨みつける。
叩きつけられたそいつは黒い液体のようになりもぞもぞと動く。
「賄井…」
変わり果てた賄井と警備員の姿を見て歯を食いしばる。
黒い液体のようなそいつはスルスルと小さな窓の方へ動いていく。
「私の重力下で動くか!」
「建物やほかの人間に危害を加えぬように局所的に重力をかけたお前の甘さのお陰だ」
そいつは窓から外へと出る。
「待て!!」
「あぁ、やる事はやって帰らねばな」
その瞬間、壁を貫通して黒い棘が現れそして…
「あがっ!!」
エクレールの左胸を貫いた…
「この魔導士は主様のもとへ行くと即答せず迷った、よって我らの仲間となるべきでない」
「っ!!!貴様ァ!!」
「やるべき事は果たした、さらばだ」
斎條レイコは壁を重力でぶち破りそいつを追う、だが既にその姿は無かった…
「許さん…!!」
主様とその一味達の闇が確実に近づき、実害をもたらし始めている事を斎條レイコは再認識する。
そして、奴らが確実に討たねばならない敵であり、それを自分たちがやらねばならない事も…
ファントムブレイヴを読んでいただきありがとうございます!
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ではまた次回でお会いしましょう〜