第五章 第1話「月永家」
前回のファントムブレイヴ
最果ての監獄タルタロス。その最下層に不穏な影が現れる。
主様の下へ帰還するイデアル、その本名は意外な名前だった…
ひっそりと、だが確実に闇が蠢き始め新たな戦いが始まろうとしていた
ふと気がつくと俺は宙を舞っていた。
地面に向かって手を伸ばす、がその手はあまりに幼くただ空を切るだけだった。
どんどん俺は上昇していく、まるで何かに吸い込まれるように…そしてそれに気づいた女性が俺を見上げる。その顔が一気に青ざめた。
「ヒロト!!ヒロトーー!!」
必死に俺の名前を呼び、走る。
俺も手を伸ばすがその体は上昇し続け、あるところで俺の視界は真っ暗になった…
◇◇◇
「っだぁ!?」
俺はベッドから飛び起きる。
「はぁ…はぁ…」
心臓がバクバクと音を立てる。
「夢…か…」
俺は洗面台で顔を洗う。
「また変な夢を見てしまったな」
こういう起きた後も心臓がドキドキする夢はしばらく落ち着かなくて嫌いだ。
俺は服を着替え、朝食のパンを食べながら部屋を出、男子寮の出口の扉を開いた。
「なんでお前がいるんだ」
俺はパンを食べながら言う。
「案外早いのね月永くん、じゃっ行くわよーレイコちゃんには許可取ってあるから」
「俺は何も聞いてないが」
預言者セリカが指をパチンッと鳴らすと次の瞬間には俺は聖域の神殿にいた。
「朝から展開が早いなぁ…」
手に持っていたパンを口に押し込む。
セリカは神殿の階段を降りていく、ここには少し前に来たばかりだ。
階段を降りた先には調停者のセレナさんが待っていた。
「来たね、神の器くん」
「…月永です」
「知ってるよ、今日来てもらったのは少し話があるんだ」
そう言って神殿最下層の扉を開く。
その先には淡く光る巨大な結晶、その中には少女が眠っている。それを見て俺はある事に気づく。
「あれ…?まだ結界が…」
結晶の周りをよく見ると薄っすらとだが結界が貼られている。
「そう、メビウスさんの結界。消えるもんだと思ってたんだけどカウントが消えた後も結界は残ってる、相当な力をかければ壊れるみたいだけど」
「月永くんに来てもらったのはこれを神の器として見て欲しかったのともうひとつ…」
セリカが俺に何かを手渡す。
「メダル…?」
「それはメビウスが持っていた物よ古い家には良くあった“家紋”ってやつね、なんて書いてあるか分かるかしら」
「月…永…?」
かなり崩されて書かれているが確かに月永と書いてあった。
「そう、それは月永家の家紋。今のあんたの家には無いかもしれないけどね」
「なんでこれをメビウスさんが…」
「彼が…月永家の人間だからよ」
「え!?」
セレナさんが空中に映像を映し出す。そこには4人の顔が映し出されていた。
「あなたが顔を知ってるのはこの4人くらいかしら」
そしてそれを家系図のように並べていく。
「これがあなた、これがその父親の父親、あなたの祖父ね…そしてそのさらに祖父の兄が…」
「メビウス…」
「そう、メビウス…本名を月永カシュウというわ。そしてその娘が今このコアの中にいる女の子、月永サクラよ」
俺は理解するのにいっぱいいっぱいだった。
「あなたから見ると、高祖淑父って言うらしいわ」
「つまり、月永家はそういう…?」
「さぁね、神の器が選ばれる一族なのかそれとも偶然か…神のみぞ知るってところね」
メビウスさんとエデンの女の子が俺の先祖で…朝から急にこんな事を言われても頭がついていかなかった。
「今日は、月永くんを混乱させるために呼んだんじゃないの、セリカ達が言いたいのは…月永くんの先祖が命を掛けて守ったこの世界を月永くんにも守ってほしい…それだけ伝えたかったの」
「この世界の危機はまだ去ったわけじゃない…プレッシャーをかけるようで悪いけどあなたにはこの世界を守る責任がある、先祖の意思を継ぐ責任もね…」
俺は月永の家紋を握りしめる。
「あぁ…分かってる、この1年で力もその覚悟もできてる」
「まだ神力使えないけどね」
セリカに言われ、力が抜ける。
「もうすぐ使えるようになるんだよ」
「そんなもんじゃないわよ〜、さぁ月永くんは仕事あるんでしょ?転送してあげる」
勝手に連れてきたんだからそうじゃないと困ると内心思ったが言葉にまでは出さなかった。
セリカの後を着いて神殿の地下を出ようとしたところである物が目に入る。
「あの花…」
コアの側に蕾のままの白い花が一輪佇んでいた、それはショウスケの兄貴の墓にもあった花だった。
俺はなんとなく察しがつき、セリカの背中を見る。
「じゃっまたね」
俺は転送される寸前、セリカに言葉をかける
「少し見直した、いいとこあるんだな」
「は!?」
俺の視界が歪み、気づいた時にはサブサイドの寮の前にいた。
「さて、仕事だな」
◇◇◇
「なっなに…?」
「ふふ…」
狼狽え、少し頬を赤らめるセリカを見てセレナは笑う。
「さっセリカ、扉閉めるわよ」
「うっ…うん」
神殿最下層の扉が閉められ、神力の封印が施される。
「あんたの頑張りや気配りはちゃんと伝わってるわよ、セリカ」
「……うん」
「また忙しくなるわよ、ステラの件もあるし…」
2人の顔が少し暗くなるが、その目には闘志が宿っていた。
「もうミスはしない、この世界はセリカ達が守り抜いてみせる…絶対に」
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ではまた次回でお会いしましょう〜