第四章phase2 第23話「傷痕」
前回のファントムブレイヴ
この戦いで得た情報を開示し整理するサブサイド本部に集められたメンバー。
主様と呼ばれる者の存在…そして、賢者の話から外向派の賢者に不信の目が向けられる。
ピリつく会議が終わり、ヒロト達に吉報が舞い込む。そうして彼らは第3支部へ帰るのだった。
本部での会議の翌日、俺たちは支部長の指示通り各々の担当場所へ向かった。
「ん"〜〜!!」
俺は大きく伸びをする、そのまま椅子の背もたれに体重を預け天井を見上げる。
隊長業務、とんでも無い量の資料、報告書の作成…
「考えただけで頭が痛くなる…」
ふと外の訓練場を見るといつの間にかリクさん達がいた。車椅子に乗ったアヤカちゃんを連れてリクさん、アオイ、ショウスケが何かをやっている。よく見るとどうやらアヤカちゃんの気術の練習をしているようだった。
「そうか、1年も眠ってたんだよな…感覚を取り戻すのに時間がかかるのか…」
アヤカちゃんの付与を受けてリクさんとショウスケが走り回っている。
「というか、あいつらは寝てなくていいのか?」
リクさんは全身に包帯が巻かれ、服の間からそれが見え隠れしている。ショウスケもアオイも怪我が治りきって無いはずだった。
「まぁ元気そうだしいいか」
その時、部屋の扉が開き、ピンク色の髪が現れる。
「月永くんここにいましたか、少し荷物運びを手伝って欲しいのです」
「北潟司令長、わかりました」
司令長と支部の入り口へ向かうと大きな箱が1つ置いてあり、俺はそれを持つ。
「いやぁ支部長が不在なので助かりますよ。古いPCを新しいものに替えようと購入したのですが思ったより大きくて」
「いつもは支部長が?」
「はい、いつも手伝ってくれます。数日不在の間、私を心配して月永くんを手伝いに当ててくれたんでしょう」
支部長は本部へ出張中、身内と支部長達だけで行われている前本部長の葬儀に捕縛中の2人の取り調べにその他諸々本部での仕事があるらしい。
「ここに置いて下さい」
「はい」
司令室の前の廊下に箱を下ろす。
「助かりました月永くん、ありがとうございます」
と司令長はお辞儀をする、その時司令長の胸元からロケットペンダントがするりと落ち、ぶら下がった。
「おっと…」と司令長はペンダントを戻そうとする。
「綺麗なペンダントですね、ご家族の写真が入ってるんですか?」
「あ、これは……そうですよ」
あっこれは聞いてはいけなかったのかもしれないと、今の間で感じ取った。
「すみません、余計な事を…」
「いえ、大丈夫ですよ。私の方こそすみません」
そう言って司令長は司令室に入って行くが扉を半分開けたところで立ち止まる。
「…月永くんには話しておいてもいいかもしれません」
「え?」
◇◇◇
俺と司令長は外のベンチに腰掛ける。
「このロケットには妹の写真が入っています」
司令長はロケットを開け写真を見つめる。
「妹さん…」
「妹の名前は北潟ホノカ、王都でウィルスマーカーとして研究員をしていたんです。」
「ウィルスマーカーだったんですか」
「はい、私たち姉妹はありがたいことに早くから能力を買われ、私はサブサイドに妹は王都のウィルスマーカーチームにスカウトされました」
なるほど、秀才姉妹だったわけだ…
「私たちは時折、連絡を取り合っていたんですがある日からその連絡が途切れたんです。それが、あのワルプルギスの夜と呼ばれている1年前の事件です」
「…!」
「私は妹に何かあったのではないかと皆と王都の監視下に置かれている中、王都に何回も妹の所在を聞いたのですが反応は無く、つい先日…妹は自殺したと連絡がありました…」
「そんな…」
「正義だと思っていた王都があのような事件を起こした、自分がやってきた実験や検証が悪事のためだったと知ったから自殺したと…確かに人一倍正義感は強い子でした、でも自殺までするなんて…」
俺はなんと声をかけていいのか分からなかった…
「自殺をしたのが半年ほど前でもう遺体は無かったと言われました…魔導士達が支配していた頃に王都内で何があったかは分かりません、相当追い込まれていたのかもしれません、でももう何もしてやれないんです。ただ弔ってやることしか…ただ…だから私は前を向くことにしました。妹が自殺なんてするはずない、そう思い続けてホノカを追い続けていたらホノカは安らかに眠れないと思うんです」
そう言うと、司令長はロケットを閉め胸元に戻す。
「司令長は強いですね、でもなんでその話を俺に?」
「月永くんに話したのは発花くんと仲が良いからです」
「え?」
「今回の件の首謀者になっている発花くんのお兄さん、その事に彼はかなり責任を感じていると思います、今は気丈に振る舞っていますけど。それに私のように立ち直れる人ばかりではありません…彼に牙が剥く事もあるかもしれません。そんな時は隊長であり親友であるあなたが助けてあげてくださいね」
司令長は立ち上がる。
「はい!」
「そうそう、この話は他言無用ですよ?では」
司令長はトコトコと司令室の方へ消えていった。
「思わぬところにも傷は残されてんだな」
俺は今聞いた話は胸にしまい、大きく伸びをして自分の仕事へと戻った。
◇◇
次の日、俺とハヅキはショウスケに連れられ、あるところへ向かった。
「わりぃな、付き合わせちまって」
「いいよ全然」
「逆に私達が居ていいの?」
「あぁ、兄貴に教えたかったんだ…こんな良い親友ができたってな」
俺とハヅキはくすっと笑う。
とある墓地の端の端、そこにポツンと立つ墓石。
「墓を作ってもらえただけありがてぇよ」
ショウスケは手を合わせ、立ち上がる。ふと、何かに気付く。
「こんな花、前にあったかな…」
そこには蕾のままの白い花が一輪、墓の横で風になびいていた。
「綺麗な花が咲きそうだね」
「誰かが供えてくれたのかもな」
「だといいが」
俺達は墓地を去る。
その直後、ある少女が発花イツキの墓の前に降り立つ。
「危うくバッティングするところだったわ」
その少女はふわふわと浮きながら花を見る。
「あなたは幸せね、あれだけ悪事を働いたのにお墓参りに来てくれるなんて。そう、その花ね…月光花っていうの、月の光でしか咲かない儚くも美しい花よ。花言葉は“希望”…あなたにも希望の一部になって欲しかった、その花はヨシヤにいいようにされていたせめてもの弔いよ」
少女はお墓を背に飛び立つ。
「じゃあね、セリカは二度と来ないけど。そこで見てなさい、この世界の行く末を」
セリカは手にもう一輪の月光花を持ち、聖地へと飛び立った。
第四章「王都反逆」phase2「王都奪還」fin…
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後1話ある予定でしたが思ったよりいい感じになったのでここで第四章phase2は最終回です、次はおまけを挟んで第五章へ入っていきます。
この先も読んでいただければ幸いです。
ではまた次回でお会いしましょう〜