第四章phase2 第22話「情報」
前回のファントムブレイヴ
サブサイド本部に集められた今回の戦いの中心メンバー
突然の本部長の訃報…だが彼らは前を向くしかなかった。
王都七賢者ワッフルズから語られる発花イツキとの過去、賢者の過ち…
彼らは“今”を知るため失ったものと引き換えに得た情報を力とするため会議を続ける。
神島副本部長が全員に椅子に座るよう促す。
「こちらにあらかじめ資料はいただいてます、これを再確認しながら情報を共有していきます。ではまず、現在の魔導士の所在ですが…」
ソレイユ
本名:発花イツキ 死亡
ルヴァン
本名不詳 元いた世界へ戻る
グラソン
本名:氷室ツバサ 死亡(淘汰)
エクレール
本名不詳 サブサイド本部にて捕縛
デス
本名不詳 死亡(自殺)
イデアル
本名不詳 逃亡?
「3人が死亡、1人がこの世界から追放、1人が行方不明、1人が捕縛…メビウスさんはここには記載してません、そして“淘汰”というものに関してです」
淘汰
別世界の同一人物同士が出逢う事で発生する現象。
一方が一方を殺害する事で一方の力を吸収できる。
淘汰が始まっている人間を第三者が殺害すると、もう一方も死亡する。
淘汰が始まっている別世界の人間は瀕死のダメージを負うと世界が干渉し元いた世界に戻される。
「…以上が皆様からの情報をもとにした淘汰の解説です、何か問題ありませんか?」
俺、ショウスケ、氷室がお互いを見た後、頷く。
「なるほど、つまりは魔導士や王、王都七賢者などの人間が本名を隠している理由がこれ…ワッフルズさん合ってますね?」
「…そこまで知っているのならよかろう、その通り、本名を明かさないのは淘汰から自分を守るためじゃ」
「じゃあ、どれだけ強い奴が別の世界から来たとしても、この世界の同一人物に合わせてそいつを殺せば勝てない相手でも勝てると…まぁ倫理に反するけどな」
雷殿支部長は眉をしかめながら言う。
「お前が“倫理に反する”なんて言葉を使うとはな、少しは利口になったか?」
「張っ倒すぞおっさん」
雷殿支部長と来栖支部長、この2人は仲が良いみたいだな…
「ワッフルズさん、他に淘汰に関して情報はありませんか?」
「そうじゃな、わしらが他に知っている事はふたつ。淘汰した者が手に入れられる力、そして“自殺”した場合じゃ」
自殺…確かに、その場合どうなるんだ…ただ死ぬのか?
「そこの発花の弟は既にその力を得ているようじゃが、淘汰した相手がある程度以上の力を有していた場合、その者の能力を上の段階へ引き上げる事ができる…会得にはかなりの時間を要するがな。そして、淘汰が起こっている人間が自殺を謀った場合、その人間は死なない」
「死なない?」
「あぁ、何をしてもな。心臓を貫こうが頭を切り落とそうが粉微塵になろうがその人間は死なん」
「ワッフルズさん、粉微塵と言いましたがその場合どう生き返るのですか?」
「修復されるんじゃ、まるで何もなかったかのようにな」
その時、今まで腕を組み黙って聞いていた斎條支部長が口を開く。
「信憑性に欠けるな」
「何?」
「斎條さん」
「まどろっこしい会話でなく資料で示せ、王都七賢者の持ってる物を出す、そういう約束でここに呼んだんだ、それともまた隠すのか?」
「んんっ…」
「斎條さん、少し落ち着いて」
「私は至って冷静だ。副本部長、あなたは優しすぎる」
斎條支部長の言葉にワッフルズさんはたじろぐ。冷酷のレイコ、その一片を見た気がした。
「ぬしの言う通りじゃ…じゃがなわしはぬしらサブサイドの持っている情報を見た時、驚いたよ…わしら内向派の持っている情報と大差なかった…いや他を入れれば持っている情報が少ないのはわしらの方かもしれん。さすがは前王がトップにいた組織じゃと感心したわい」
「つまり、これ以上の情報はないと」
「あぁ、わしは過去の話をしに来ただけの老ぼれじゃよ」
そう言ってワッフルズさんは去ろうとする、だがそれを斎條支部長が止める。
「待て、あなたは今“内向派の”と言ったな。ならば外向派ならもっと情報持っているということか?」
「さぁな、わしらも奴らの隠し持っているものは分からんが、確実にわしらより外の世界の情報は多く持っとるはずじゃ…じゃが奴らの口を割らせるよりも己らの力で探した方が早いかもしれんぞ…?」
そう言い残し、ワッフルズさんは部屋を出て行った。
「外向派は曲者揃いみてぇだなぁレイコ」
「あぁ…」
「斎條さんにはいつもひやひやさせられますね、こっちの気も考えて欲しいものです」
「ふん…話を続けろ」
さすがに俺もヒヤヒヤした、気が強すぎやしないか支部長…
「さて、次も重要です。イデアルの行方と“主様”という者の存在です。麗未さんがイデアルから聞いた話から考察するに…イデアルは他の魔導士とは違い主様と共にこの世界に来た可能性が高いということ、そして発花くんの話から、発花イツキも主様と関わりが合った可能性があること、彼を殺害したのも主様と関わりがある者の可能性があること…」
「つまりは主様ってやつのことはほぼ何も分かってねぇってことだ」
「はい、ですがかなり強大な敵である事は間違いないでしょう。神の使いの力を持ってしても追跡できず、かつ気付かれずに潜伏し続けていますから」
「捕縛中の魔導士から聞き出すしかあるまい…情報を持ってないかもしれんがな…ゴホッゴホッ」
来栖支部長が咳き込む。
「今日はこんなもんか?早くしねえとおっさんが死んじまう」
「おい、ただ咳をしただけだろうが」
「では最後に、亡くなってしまったメビウスさんに現在捕縛中の龍田ハヤト…現在最前線の二支部の支部長が不在となっています。こちらは、各支部から皆さんの意見を混じえて選出したいと思います…そして、本部長ですが…」
言いかけたところで雷殿支部長が立ち上がる。
「あんた以外誰がやんだよ?」
「私ですか?いえ、私はそのような器では…」
「異論は無い、本部長殿の代わりは貴方しかいない」
「親父さんと同じ気術、息子であり一番弟子、“鉄拳”の異名を持つあんたを差し置いて誰もいやしねぇし、誰も文句はねぇよ。なぁレイコ」
「…あぁ、私も異論は無い」
「斎條さんも…」
斎條支部長が立ち上がり扉へ向かう、俺たちもあたふたしながら着いていく。
「異論は無いが、その謙遜し過ぎるところは直しておくんだな、本部長」
「はっはっは!言われてしまいましたな」
皆、立ち上がり部屋を去っていく。
「皆、忙しいんだあんたの謙遜に付き合ってる暇はねぇんだよ、じゃあな本部長さん」
雷殿支部長が扉を閉め、全員が本部を後にする。
◇◇◇
終始、俺たち下っ端は支部長達の雰囲気に気圧され何も言葉を発する事ができなかった。
「すごい迫力だったね…」
ハヅキとアオイがげんなりしている。その時ここぞとばかりに知っている声が近付いてくる。
「ショウスケ様〜!ご無事で良かったです!」
ショウスケの顔が引き攣る。
リサが駆け寄りショウスケに抱きついた。
「おい!くっつくな!お前は向こうだろ!」
「はーい♡ご無事を確認しに来ただけです!またねっショウスケ様」
リサはショウスケに引き剥がされると第2支部の車へ向かった。
「あいつは通常運転だな」
「それじゃ困るんだが」
「なんだ、可愛い子じゃないか発花!」
安堂リクさんが笑う。
車に向かうと先に行っていた支部長が電話を終えるところだった。
「何かあったんですか?」
「…相馬アヤカが目を覚ましたそうだ」
「!!」
俺たちは顔見合わせて喜ぶ。
デスから解放されたアヤカちゃんの魂は無事体に戻り、回復を待っていたところだった
「お前達に指示だ。安堂リク・発花ショウスケ・麗未アオイはまだ療養期間中だ。相馬アヤカの面倒を頼む」
「「「はい!」」」
「速さ…いや雷殿ダイチと光丘ハヅキは一時的に第2隊に配属、月永ヒロトは隊長業務と北潟司令長の手伝いをこなせ」
「「「はい!」」」
そうだ、ダイチはもう“雷殿”なんだった…聞いた時は驚いたが言われてみれば似ているかもしれない。
「では、これより第3支部へ帰投する」
俺たちは車に乗り込む。すると運転席にはウィルスマーカーの清水メグミさんがいた。
「えっメグミさん!?」
「別に驚く事ないでしょ、私も王都に用があったのよ」
「メグミ、早く出せ」
「はい!では、しゅっぱーつ」
車は俺たちを乗せ、走る。俺は長かった戦いを思い出しながら第3支部に着くまで眠りについた。
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ではまた次回でお会いしましょう〜




