第四章phase2 第21話「賢者の過ち」
前回のファントムブレイヴ
セリカとセレナの言葉に怒るショウスケ、だが抑え込まれていたはずのヨシヤの魂がイツキの体を動かし始める。
ショウスケは覚悟を決め、2人と協力し魂を消滅させた。
イツキの魂はギリギリ残り、残された時間でイツキはショウスケ達に何かを伝えようとするが突如現れた何者かに殺害されてしまう…
そして、ショウスケは飛び去るその何者かを睨み叫んだ…
あの日、聖地の前に俺とハヅキが着いた時には全て終わっていた。
ショウスケは兄を抱え泣き崩れ、預言者セリカとその姉だという調停者セレナが立ち尽くしていた。俺たちは事情を聞いた後、神殿内の王都兵を制圧。神殿を神の使いの2人の力で閉じた後、ショウスケ兄弟を車に乗せ、帰投した…
あれから数日、混乱が徐々に落ち着いていく中、この戦いの中心にいたサブサイドの面々が本部に集められた。
「第3支部、到着だ」
斎條支部長が扉を開ける、そこにはすでに他の支部は集まっており俺たちが最後だった。
第1支部
雷殿リョウ
第2支部
来栖カズサ、不動院リサ、氷室ツバサ
第3支部
斎條レイコ、安堂リク、月永ヒロト、発花ショウスケ、光丘ハヅキ、雷殿ダイチ、麗未アオイ
本部
神島ジュンヤ
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
一番奥にいた人物がお辞儀をする。
「その前にだ、来栖のおっさんよぉお前死にてえのか?」
雷殿支部長が顔をしかめながら来栖支部長を指差す。
来栖支部長を見ると車椅子に座り、何本もの管を体から出している状態だった、そばにはおそらく介助する女性が1人。
「ここに来るぐらいいいだろう?私にも話を聞く義務がある」
「てめぇ数ヶ月前にぶっ倒れてギリギリで生きてんだろうが」
「落ち着け、雷殿」
斎條支部長がなだめ、そして奥に立つ人物に問いかける。
「さて、副本部長さん。あなたの父上の容態は?ここにいないということはまだ…?」
「…その事も含めて本日、お集まりいただきました」
あれが副本部長…初めて見る顔だった。
全員が副本部長を見る。
「サブサイド本部長であり私の父、神島ムネオは…昨晩息を引き取りました」
「…!!」
本部長が死んだ。その言葉に誰も声が出ない、副本部長はゆっくりと腰掛け目を閉じる。
「父はよく耐えました。1年前の重傷と持病の悪化で、保って数週間と言われていましたから…父の性格ですから1年間は心配で死なないと思っていたのかもしれません、結局目を覚ますことなく昨晩旅立ちました」
「神島のじぃさん…」
「本部長殿…」
「…」
支部長達が皆顔を伏せる。
「皆さんお顔をお上げください、我々には父や皆さんが命を掛けて救ったこの世界を守る使命があります」
俺はグッと拳を握りしめる。
「まず、我々は知らねばなりません。何が本当で何が嘘か、何が過去に起こったのか」
副本部長の後ろから、白装束の背の低い老人が現れた。
「この方は王都七賢者の1人、ワッフルズさんだ」
王都七賢者、王と同じく普段は全く姿を出さない王位継承権を持った一族の人間…
「まず…魔導士達と同じく本当の名を明かさぬ事を許してもらいたい」
少し変な名前だと思ったがやはり本当の名前じゃなかったのか。
「王都で何があったのか、何故発花イツキが王の座に座っていたのか、何故王の死を発表しなかったのか…」
そう、俺は、俺たちはこれを聞きにきた。これから、答え合わせが始まる…
「始まりは王の急死じゃった…」
◆◆◆
約2年前
ピーと心臓が止まった事を知らせる音が部屋に響く。
「王が…亡くなられた…」
「そんな…」
「我らが王、ルヴトー11世よ。安らかにお眠りください」
それは、王が倒れてから僅か6時間後のことだった。
王の自室には4人の賢者がいた。4人は頭を抱える。
「これはまずいことになりましたな…」
「これ、王の前だぞ」
「だが早急に手は打たねばならん、王もそれを望まれている」
「このままでは奴らに次の王権が渡り、我々の浄化計画が…」
4人は王を囲み、唸る。
「王よ、我々はどうすれば…」
王都七賢者は一枚岩ではなかった。
この世界でより良い世界を保ち、この世界の人々を守らんとする“内向派”
別の世界に目を向け、別の世界を利用してこの世界をより良くしようとする“外向派”
これが4:3で分かれていた。そして、外向派は年々過激になっていき今はこの世界の人間など度外視して他の世界を侵略しようとしていたのだった。
「次は外向派、モッツェーニの一族が王を選ぶ権利を得ている」
「特に今はまずい、奴らの活動が活発になってきておる。王権が渡り後押ししてしまう事はなんとしても避けねばならん」
その時、扉が開き一人の男が入ってくる。
「僕が力を貸しましょう」
だが、問答無用で術式が展開され男は鎖で繋がれる。
「誰じゃ、ここには何人たりとも入ってはならん」
「死にたくなければ引け」
4人が睨むが男は物ともせず、鎖を焼き切る。
「!!あの鎖を…!」
「事情は知ってます、僕はただ力を貸してやると言ってるんだ」
「お主、魔導士じゃな。ということはつまり旧王族“発花家”の一族、発花イツキ…」
「よくご存知でパフェナさん」
発花イツキは4人に近づく。
「僕にも事情があるんだ、悪い話じゃないだろう?王の死の偽装を僕がどうにかしてやるって言ってるんだ。魔法の方がやれる事は多い、筆跡のコピー、ボイスチェンジ、その体を動かすこともできる」
賢者達は顔を見合わせる。
「王になる条件は揃ってる、王族の血の力…さっきの鎖を焼き切ったのが証明だ。あなた達が王の代役をどうにかするまででもいい、もちろん言うことは聞く、僕はここである研究がしたいんだ」
そして、賢者達は話し合いの末、彼を王の代役として迎え入れた…
その後イツキは賢者達の言う通りに動き、王の代役を完璧に演じ続けた。
「奴の働きは確かなものじゃ、何か変な動きをすれば即殺す予定じゃったが…」
「そちはちと殺気が強すぎるわ、エクレンさん」
賢者達には徐々にイツキへの信頼が生まれていた、だがそれはイツキの…いや、ヨシヤの思惑通りだった…
数ヶ月が経った頃イツキが4人を集める、他の魔導士を連れて…
「イツキ、なんじゃそいつらは…!」
「くっ!やはり企んでおったか!」
魔導士達に全方向から鎖が伸びる、だがそれは誰にも届く事なく消える。
「ぐっ!?」
「エクレール、全員を完全に支配しろ」
「はいはーい♡」
「賢者ワッフルズ、パフェナ、エクレン、プーリン。ここまで助かりました…もう、用済みだ」
そうして、発花イツキ率いる魔導士達が王都を支配していった…
◆◆◆
「その後奴らは外向派をも支配下においた、ワシらの甘さと王の死による焦りで奴らに王都を乗っ取られてしまった…」
「つまりはあんたら王都七賢者のいざこざのせいでこうなったって訳だなぁ」
「おい、雷殿。言葉が過ぎるぞ、彼ら七賢者が支配されようとされまいと魔導士達がエデンを狙うことに変わりはない、動きやすくなっていたのは確かだがな」
来栖支部長が雷殿支部長を制す。
「ワシらが知っているのはここまでじゃ、その後は牢獄にずっと放り込まれていたからなぁ…」
「ワッフルズさんありがとうございました。皆さん、過去はもうどうにもできない、だが過去を知ること…それはとても大事なことです」
神島副本部長がまとめる。
「我々は前へ進まなくてはなりません、前へ進むためには過去を知り、今を知り、そして未来を予見しなくてはならない。次は今を知ること、そのために今回の事件の中心にいたあなた方に来ていただのです」
副本部長は資料を取り出す。
「我々は今回でかなりの情報を得ました。知りましょう、今を…」
今を知る、それは残った傷痕も含めて全て…これが一番キツイ事だと俺は後々感じる事になるのだった…
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ではまた次回でお会いしましょう〜