第四章phase2 第16話「爆炎を裂く」
前回のファントムブレイヴ
イデアルと相まみえるアオイ。激化する戦いの中、イデアルは自分が元いた世界で災厄の魔女と呼ばれていた事を明かす。
アオイはイデアルの爆発魔法に翻弄され、ついに巨大な爆発に呑み込まれてしまう…
大きな川の辺り、暗闇の中突如轟音と共に大きな爆発が起こる。
だが、その爆炎を裂くように一閃の水の柱が立った。
「どうしても抗ってくるのね」
「あたし達は、負けない!!」
あたしは鋭い水の気弾を放ちながら駆ける。イデアルはそれの軌道を簡単に変え背後へ受け流す。受け流した気弾は地面を貫いた。
「どんどんいくよ!!」
次はさっきより大きな水の気弾を放ち続ける。イデアルは杖をかざし防御魔法でそれらを防ぐ。
あたしは気弾を撃ち続けながらイデアルとの距離を詰める。
「正面から来て私を突破できると思ってるのかしら」
あたしの周りがキラリと光る、イデアルの爆発魔法だ。…あたしはこれを待っていた。
「リヴァイア!!」
その瞬間、イデアルの足元の地面から小さめのリヴァイアが現れそのまま腕へ噛み付く。
「なっ!!?」
そして、爆発が起こる、あたしはそれを推進力とし瞬時にイデアルの目の前へ詰める。一瞬の隙、腕が上がり空いた腹へあたしは拳を叩き込んだ。
「龍拳突き…!!」
「うぐっ!!」
イデアルはそのままぶっ飛んだ。
足を踏ん張り地面をえぐりながらイデアルは飛ばされる体を止める。
「こういうこともできるんだよ」
リヴァイアが弾けながら水になりあたしの元へ帰ってくる。
「あのやけに鋭い気弾はあの龍を仕込むためのブラフ…この私に一撃お見舞いするなんてね…」
イデアルはお腹を押さえながら姿勢を正す。
「だけど、こんな奇襲戦法は二度と通じないわよ?」
「わかってる…でも、今の一撃は可能性の一撃。あたしがあんたに勝てる可能性のねっ!」
「私に勝てると…」
「ええ、勝てる…勝たなきゃいけない…!」
「私を他の魔導士と同じと思わないことね」
イデアルは杖を振り、魔法陣をいくつも展開する。
「格の違いってものを見せてあげるわ」
あたしはリヴァイアと水を纏い再度構えを整えた。
◇◇◇
アオイとイデアルが戦闘を始めた頃、聖地の入り口前ー
腕を組み羽織った上着をたなびかせ立つ男の視線の先、真っ直ぐ男の方へと歩く影がひとつ…
「…」
「…」
無言でお互いを見る2人。
沈黙を破ったのは歩いてきた男だった。
「久しぶりだな、アニキ」
「…あぁ」
歩いてきた男、発花ショウスケは持っていた荷物を放り投げる。
「まずは、話がしてぇ」
「僕もお前に話がある」
ショウスケは兄、ソレイユこと発花イツキへ問う。
「なんで、家族を殺した」
「その質問の答えが、僕がお前に話そうとしていたことだ」
「…!」
「今こそ話そう、僕らの家族の話を…」
◆◆◆
15年前
当時11歳の発花イツキ少年は学校からの帰り道をトボトボと歩いていた。
「イツキー!」
後ろから走ってくる車に乗った人に呼び止められる。
「父さん、母さん、ミサキの病院は終わったの?」
「ああ、何も問題なかったよ」
「あれ?ショウスケは?」
「ショウスケは家で遊んでるよ」
イツキ少年が後部座席を覗くと母親に抱かれたまだ2歳になったばかりの発花ミサキが眠っていた。
「乗って帰るか?」
「うん」
イツキ少年が母親の隣に乗り込むと車は発進した。
「イツキ、また学校で何かあったの?」
母はイツキ少年へ優しく声をかける。
「いつものことだよ、みんな僕の魔法が怖いんだ」
「大丈夫よ、みんな勘違いしてるだけなの。あなたの力はすごいのよ?まだみんな知らないだけ、いずれみんな分かってくれるわ、そして母さんや父さんのようにあなたを慕い信頼してくれる人が必ず現れるわ」
「うん…だから僕泣かないんだ」
「そう、イツキは偉いわね。母さん達はずっとあなたの味方よ」
当時、イツキ少年は虐められていた。魔導士として生まれた彼はその力のせいで周りに馴染めず恐れられ、結果1人になった。
この発花家はごく普通の家族として生活していた、大きな問題もなくただ平凡と…この日までは…
その夜、イツキ少年は両親の話し声で目を覚ます。彼は、話し声のするリビングへ向かうと驚かしてやろうと物陰に隠れた。ただの少年の悪戯心だった。だが、隠れたことで両親はイツキ少年に気付かず、話を進める。
「よかったわ…ミサキは出なくて…」
「あぁ、まだ確定じゃないが可能性はかなり高いそうだ」
イツキ少年は妹のミサキの名前が出た事で、物陰から出ず聞き耳を立てた。
「イツキやショウスケのように私の先祖の血が色濃く出てしまわないかとずっと心配だった…ミサキは私達とずっと一緒なのね…」
「おい、イツキとショウスケもだぞ」
「だって、色濃く血が出てしまった以上力が発現すればあの2人は王都へ引き渡さないといけない…イツキなんて特に魔法が使えるのよ?私達の手に負えないわ…」
「もうやめないか、子供たちに聞こえてしまう…今日はもう寝よう」
イツキ少年は震えていた。声も出せず、ただ両親の話していた事がぐるぐると頭を回っていた。
誰よりも信頼し心の安らぎだった母親が自分を必要とせず、そして自分を手放そうとしている。しかも、それを母親本人から聞いた彼の心は一瞬で崩れた。
この日から彼の中の黒いモノがじわじわと確実に大きくなっていった。
翌日、早くに帰ったイツキ少年は父親の書斎を調べる。そして、発花家について全てを知る。
発花家は昔この大きな国を統べていた王族の1つであったこと。悪事を働き賢者との戦争で敗北したこと。現在はその賢者の子孫が現王族となっていること。旧王族となった一族の産まれた子供は王族の血の検査をし報告しなければいけないこと。そして、その血は王族のみが使える自己強化の術の媒体となること。
どんどんと調べていくうちにイツキ少年は家族だけでなく現王族が統べる国、そして自分をこの運命に導いた世界をも恨み、大きな殺意を抱くことになる。
そして、5年後…発花イツキは自分と同じように旧王族の血が流れるショウスケ以外の家族を殺害する。
そこから彼の計画が始まった。
◆◆◆
「その後僕は、自分は死んだこととしお前に王族の血が流れていると言うことも隠蔽した」
「俺が旧王族…?」
「僕はお前を仲間へ引き入れるつもりだった。だが、事実を知らぬお前は反発した」
ショウスケは混乱していた。
「お前に改めて問う、事実を知った今僕と一緒に来る気はないか?一緒に来ればさらに上をみせてやる」
「……」
ショウスケはグッと目を閉じる。
「俺は難しい事は分からねえけどよ、アニキが今そうしている理由はなんとなく分かった、気持ちも少しだけど分かる…だけど…!!」
ショウスケは炎を纏う。
「俺はサブサイドの隊員だ!この世界を人を守るのが仕事だ!てめぇは家族を殺し、国を乗っ取り、世界をも滅ぼそうとしている!発花イツキ!お前をサブサイドの隊員として!弟として!ぶっ飛ばす!!」
「お前はいつまで経っても、バカだな」
イツキが手をグッとかざす、その瞬間ショウスケの目の前で大爆発が起こる。
「おおおおおぉぉぉぉ!!!!」
だがその爆炎を金色の炎が裂く。
「来い…ショウスケ…!」
「イツキィィィイイ!!!」
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ではまた次回でお会いしましょう〜