第四章phase2 第13話「雷殿」
「グラヴィティ・レンジ」
そう斎條レイコが発した瞬間半径50mの範囲全ての物質に重力がかかる。
「がはっ!!」
龍田ハヤトは再び地面に沈み、ハヤトの引力で浮いていた剣も地面へと落ちた。
その範囲の物がすべて崩れ、形を保てずボロボロになっていく。
「久しぶりに見たぜ、敵味方関係無し問答無用、レイコの絶対領域グラヴィティ・レンジ」
雷殿リョウは50m以上離れた空中から2人を見る。
「なんて…重さ…!!」
「我々サブサイドは世界狂騒を対策、そして撲滅が目的の組織だ。そしてお前は魔導士側、つまり世界狂騒側へ回った…」
ハヤトは引力を使いなんとか顔を上げるがそれがやっとだった。だが、ハヤトは何かを見つける。
「おい…あれを見ろ…!」
ハヤトが斎條レイコの背後を指差す。その先にはしゃがみ込んで泣いている女の子が1人。そして、その上の建物が崩れる。
「さぁ…君はどうする…雷殿リョウは反対側…ここからあそこまで70mはあるぞ…?」
「貴様!そこまで落ちたか!!」
斎條レイコはハヤトを睨み付け、目一杯の重力をかけ気絶させる。そして、走り出した、女の子と瓦礫の衝突まではおよそ3秒…射程距離50mまで入り女の子を重力でこちらに引っ張り出せるかどうかギリギリの距離だった。
「クソッ!!」
その時、女の子が消える。
「何!?」
地面を電撃が走る、そしてその電撃は建物の上に上がりそこから人影が現れた。
「お前は…」
その人影は女の子を抱え、雷殿リョウの方を見る。
「会いたかったよ、父さん」
◇◇◇
城の裏口から出る俺とハヅキ。
「裏に車が停めてあるはずだ、それで聖域に向かうぞ!」
「月永くん!見て!」
ハヅキが空を指差す。
「なんだこれ…隕石…?」
夜空には無数の火球が現れ、こちらへ降り注いでいた。
「月永くん!なんとかしないと!」
だが俺はその言葉をよそに車のエンジンをかける。
「月永くん?」
「あれは大丈夫だ、きっとな」
「え?」
「これはあいつの気配だ、頼れる奴がここに来てる」
◇◇◇
数十秒前ー
「あの支部長の放送で街が混乱状態だ!」
あちこちで戦う音が聞こえる。
僕は逃げる人とは反対に城へ向かっていた。その時…
「うわあぁぁぁん!!」
建物の影で女の子が泣いていた、危ないよと声をかけようとした瞬間、その建物がまるで女の子に吸い寄せられるように崩れる。
「何!?」
女の子までの距離20m、僕は電気の針を連続的に地面に刺しそれを伝って稲妻のように移動する。女の子を抱きかかえ前を見たその一瞬、見覚えのある人が3人…そしてその中には探していた人がいた。
僕は家の屋根の上へ上がりその人と同じ目線になる。
「会いたかったよ、父さん」
その人は僕を見るとニヤリと笑った。
「ついに来たな、ダイチ」
「速坂…」
僕は支部長のその言葉に首を振る。
「いいえ、斎條支部長。僕の名前はもう速坂ダイチじゃありません、あの人の…雷殿リョウの息子の“雷殿”ダイチです」
「お前、記憶を…」
「戻してもらったみたいだな、母さんから」
父さんは斎條支部長に言う。
「レイコ、あの隕石は俺たち親子でどうにかする!そいつを縛り上げとけ!あとこの子も頼んだ」
父さんは風を使って気を失っている女の子を支部長へ渡す。
「どうにかするだと!?」
父さんが僕の目の前まで来る。
「父さん」
「えらくデカくなったじゃねえか」
父さんの手が僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。それは雑な撫で方だったけど、とてもやさしく温かかった。
そして、僕の顔の前に錠前が現れる。
「この雷殿リョウの名の下に、封印を解きその力を解き放て…汝に戻そうその名を…お前の名前は“雷殿ダイチ”だ」
錠前が外れ僕の体に電撃が走る。体の内側から湧き出す気力が体に纏わり付く。
「すごい…これが僕の力…」
「さぁ、ダイチ!」
僕と父さんは空を見上げる。
「あれはあのボケが呼び寄せた隕石群だ、もうこれ以上近づくと衝突する前ですら衝撃波でここは崩れる!あれを止めねぇとやべえ、だがお前ならお前の避雷針ならあれ全部ぶっ壊せる!」
僕は自信を持って答える。
「うん、できるよ!」
「よく言った!ぶっ壊した後の破片は父さんがどうにかする、行ってこい!」
「行ってきます!」
僕は上空に針を飛ばしそれに飛ぶ、それを繰り返し隕石へ近づいていく。
「失った気憶解放!天空眼!」
針を空中へばら撒く。
「隕石を全て捕捉、全隕石の脆い部分を捜索…捜索完了。全隕石の軌道予測…目標位置へ針を待機」
無数の針を目標の位置へ飛ばしそこで止める。
「予測時間まであと3…2…1…今だ!“無限・金剛杵”!!」
待機させていた針を全て金剛杵に成長させ、隕石の目標位置へ刺した。
「最高の気分だ…今ならなんでもできそうな気がする…」
金剛杵が徐々に電気を放出し始める。
「今、炸裂する無限のイカズチ…轟け!炸裂する金剛杵!!!」
轟音と共に閃光が走り金剛杵が放電する。王都上空はまるで昼間のように明るくなった。
再び空に暗闇が訪れるとそこに巨大な隕石群は無く、拳大の大きさの石が無数に落下していた。
「よし!」
「さすが俺の息子だ」
父さんは、落ちる僕の横を通り抜け空へ上がっていく。
「来るは雷雲、駆けるは電光…」
空に不自然に風が駆け抜け、分厚い暗雲が王都の空を覆う。そして、その雲の中をありえない量の雷が駆け巡る。
「そうか、あれで隕石の破片を全て砕くんだ」
「風神の風…!」
ゴウッと強力な風が吹き雲を流していく。
「あれは山奥で落とそう、もしそこに人がいたらすまないがここに砂の雨を降らせる訳にはいけねぇ」
そうして、元第4支部支部長龍田ハヤトの呼んだ隕石群は跡形もなくそして大きな被害を出すことなく消えた。
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ではまた次回でお会いしましょう〜