第四章phase2 第11話「穢れた魂」
壁に叩きつけられたリクさんはそのまま倒れ込む。そして、その衝撃で壁に飾ってあったレプリカの剣や槍が落ちてくる。
「リク!」
「くっ…」
リクさんは何とか転がり、それを避ける。
「どうやら傷は完全には治ってないようデスね、落下してくる物を避けるのもやっとではないデスか」
リクさんの包帯からは血が滲み、転がったまま立てずにいた。
「くそったれ…!」
「後2人…」
どうする…僕がなんとかしなくては、グラソンから受け継いだ力を発揮しなくては…!
「フーーーッ」
僕は息を吐きながら集中する。
感じろ…グラソンから受け継いだ力を…掴むんだ、僕のものにするんだ…この力を…!
じわじわと力が湧き上がってくる、それに伴って僕の周りは冷えていく。
「このパワーは…まさかあなたグラソンの…」
「氷室くん、髪が…」
見ると僕の髪が毛先だけ白くなっていた。
「グラソン?違うな、彼の名前は氷室ツバサ…そして僕も氷室ツバサだ!」
床を蹴りタマシイビトへ接近する、僕の通った後には氷の道ができていた。
「ユキさん、援護をお願いします!」
その時、タマシイビトが少し肥大する。そして、僕に高温の空気の波がぶつかる。
「ぐっ!熱波!」
だが、僕は耐えタマシイビトへ向かう。また、タマシイビトが熱波の構えを取った。
「熱波…なら、魔力があるのは熱源のみのはず!だとすれば私の術でも掻き消せる!」
僕の背後から吹雪が吹く、そしてそれは熱波を完全に相殺した。タマシイビトに到達した僕は剣を振るう、だがそれは呆気なく防がれ、双剣同士の鍔迫り合いが始まる。
「淘汰…したのデスね、その力。魔導士を淘汰したことによって失った気憶に近い能力となっている」
「お陰であんたを倒せるかもなぁ」
「無理デスね、それを修得したばかりのあなたの気力、一体どれほど保つでしょうか?」
タマシイビトの力が強くなる。
「ぐ…」
「僕の気術は武具造形でも纏着でもない原初だ…氷のスペシャリストなんだよ…!」
床、天井、壁から氷の柱がタマシイビトへ伸び、くっつく。だが、それを溶かそうとタマシイビトは熱を発する。
「この氷の柱は中は空洞になっている、それがどういうことかわかるか?」
タマシイビトは熱を発しているにも関わらず凍っていく。
「何!?」
「熱交換だ、こいつが熱を発しても発しても僕の氷のパイプで熱を奪う!」
しかし、そこへ電撃が走る。タマシイビトは氷のパイプを全て破壊し、炎で氷を溶かし僕を跳ね除けた。
「言ったでしょう、タマシイビトはいくつもの能力を扱えると」
僕はそんな事関係ないと言うようにニヤリと笑う。
「いやぁ…ひやひやしたよ全然起き上がらないから、いつまで時間稼げばいいのかと」
「?…何を言っているのデスか?」
僕は床を全て凍らせる。
「アイス・リンク」
「今更何を…」
その時、デスの背後で氷に押し上げられ何かが飛び上がる。それは燃え盛る剣を持ち、振りかぶった。
「まさか!?」
デスはその気配を感じ取り、振り返る。
「まだそれだけ動けましたか、デスが二番煎じデスね」
デスはまたもリクさんの焔剣へ魔力波を当て炎を掻き消す、だが…
「二番煎じはてめぇだ、俺がヤケになって何の策も無しに突っ込んでくると思うのかよ!」
「それは!?」
消えた炎の下からその物体が姿を現す。
それは、リクさんが壁に叩きつけられた時に落ちてきたレプリカの剣だった。そして、まるで野球のバットのように振られた剣は、デスの腹へヒットした。
「ボガァッ!?」
デスはぶっ飛ばされ、ぶつかった壁が衝撃で破壊される。
「やはりお前のその義手ではまともな魔法は使えないらしいな…もし使えるならよぉ、既にその義手で魂の能力を自分に宿してるはずだよなぁ?お前は魔法を使う時に手を必要とする、だからタマシイビトに左手を使ったお前は魂を扱えず魔弾を放つ程度しかできない!」
リクさんの腕の包帯部分から血が吹き出す。
「腕の傷が思いっきり開いちまうくらい本気でぶん殴ったんだ…起き上がってくるなよな…くっ…」
「リク!」
ユキさんがリクさんのもとへ駆け寄る。そして、いつの間にかタマシイビトは消えていた。
「大丈夫!?とりあえず止血しないと」
その時、壊れた壁の方から物音がする。
「氷室!警戒しろ!このレプリカの剣、思ったよりも鋭くねぇ、体が真っ二つになってるだとか死ぬほどのダメージは入ってねぇはずだ!」
僕は瓦礫に近づく。
「私…は…また…負け…る…のデス…か…?神よ…」
デスは天井を向いたまま倒れていた。修道服から見えるその体のラインは華奢で、恐らく今の一撃で身動きひとつできなくなっているはずだ、その時ゆっくりとデスが左手を上げる。
「っ!」
だが、デスはこちらを見ずにぶつぶつと何か呟くだけだった。
「神よ…私の魂は…魔法という力に囚われ…未熟なまま…穢れてしまいました…どうかお許しを…そして…この魂を…神の元へ…戻し…浄化させて下さい…」
「おい、何言って…」
「魔導士などでなく…普通のシスター…として…生きたかった……デス」
デスの上げた左手が力なく地面に落ちた、その時頭上でブツンと何かが切れる音がする。
「氷室!離れろ!」
リクさんのその言葉に咄嗟に離れる、その直後デスの上に巨大なシャンデリアが落下してくる。
「なんだって!?」
まるで断末魔のようなガラスの割れる音が教会に響き渡る。瓦礫の間から血が流れ、教会の床を染めた。
「自殺…だと?!」
僕ら3人はその衝撃にただ赤く染まる床を見ながら硬直していた。
そして、シャンデリアの下から恐らく魂と思われる光の球が無数に溢れ出てきた。
「兄貴の仇は取った、アヤカちゃんの魂も取り返した…だけどよ…後味悪いぜ…!!」
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ではまた次回でお会いしましょう〜