第四章phase2 第10話「死との再会」
グラソンの体が粒子となり僕の体へと入っていった。
「これが淘汰…」
じわじわと体が熱くなり、気力が湧き上がってくるのを感じる。
「どうした!氷室!」
安堂リクさんがこちらに声をかける。
「いえ、なんでもありません」
僕はリクさんとユキさんの方へ戻る。
「人には会えたの?」
「はい…いたのは別世界の僕でした…」
「「え!?」」
2人は顔を見合わせ驚く。
「詳しい話はまた落ち着いた時にしましょう…僕は彼から力とある情報をもらいました」
2人はもう一度顔を見合わせ、納得してくれたようだった。
「私たちが一般人なら今のでは落ち着かないけど、状況が状況だし、分からないことも多いから、まずその情報が先ね」
「あぁ、それでなんなんだ?その情報ってのは」
「僕たちはそこへ行かなくてはいけません」
別世界の僕は死ぬ間際に僕にある事を言い残していった、それを伝えるべくリクさんの目を見る。
「リクさん…王都教会、そこに…“デス”がいます」
「なん…だと?」
デス、とその名前を聞いたリクさんの顔が変わる。
僕もリクさんやユキさんから聞いていた、リクさんの怪我のこと、リクさんのお兄さんのことを…
「ユキ、氷室…行くぞ…!」
◇◇◇
王城に隣接する王都教会、この国で最も大きな教会。そこに祈りを捧げる影がひとつ…
真っ黒な修道服から伸びる右腕は、人間のそれではなく、ステンドグラスから差し込む月の光で白銀に輝いていた。
「立派な義手だな」
祈りを捧げていた修道服の女はその声に振り返る。
「美しいでしょう?あなたに切り落とされて良かったのかもしれないと思うほどに…」
その言葉にはとてつもない殺気がこもっていた。
「今度はぞろぞろと仲間を連れてきたのデスか」
「1年前お前にボロボロにされたからな、魔導士に一人では勝てないと思い知らされたよ」
「私はあなたを殺したつもりだったのに、あなたが生きている事を知った時は殺意で気が狂いそうでした…デスが、私は神聖なるシスター…自身の未熟さとしてしっかりと受け止め、またあなたがこうして現れた時にしっかりと…ぶち殺してやろうと決めたのデス」
最後の言葉に圧を感じる。
「ユキ、俺と氷室で前を走る。お前は後ろから援護頼んだ」
僕とユキさんは頷く。
リクさんは炎の剣を出現させ、僕は刀身のない2つの柄に氷の刀身を作る。そして、リクさんと僕は同時に駆け出した。
「3対1とは…卑怯とは思はないのデスか?」
「思わないね!一切!」
僕とリクさんはデスに左右から剣を振るう。だがそれは止められてしまう。
「俺を倒した時のやつか…!」
空中に突如現れた2つの剣はまるで人が動かしているかのような挙動をする。
そこへ、氷の礫が矢のように飛んでくる。その剣は僕たちを弾き、礫を打ち落とした。
「残念ですが私はあなた達の実力を測ったりはしません、最初から全力で…ぶち殺してやりましょう」
デスの魔力が上がっていくのが分かる、今まで感じたことのなかった魔力の感覚…これも淘汰の影響だろうか。
「魔力解放…おいでなさい、タマシイビト」
デスの前に現れた2つの剣の周りの空間が歪む、そして、人型をした何かが現れ、剣をその両手で掴んだ。
「これで、2対3…デスね。まぁそのタマシイビト1人で方はつきますが」
僕とリクさんは再び駆ける。
「まずはあのタマシイビトをやるぞ!」
「はい!」
再度、2人で左右から斬りかかる。
「炎密度130%!剛炎斬!」
「氷絶双刃!!」
2人で同時に技を撃ち込んだ、だがタマシイビトはそれぞれを片手で受ける。そして、2人は異変に気付く。
「なんだこれ!?」
「これは!!」
リクさんの剣は凍り、僕の双剣は炎で溶かされていた。タマシイビトは無言で剣を振る。その重い一撃は僕たちをユキさんのいる入り口の壁まで吹き飛ばす。
「「ぐはっ!!」」
「リク!氷室くん!」
「チッ強い」
「2つの属性だと」
「あなた達はタマシイビトを倒そうとしてますが、そのタマシイビトは私が集めた魂達を具現化したもの…いくつもの能力を持ちそれを自在に操る」
「なんだと…!?」
「そして、魂を傷付けるということはその人間を傷付けるということ…当然、“相馬アヤカ”の魂も」
「アヤカちゃんの!?」
「野郎、せこいやり方を…!」
デスは銀の義手を月の光に煌めかせながらこちらを伺う。
「あなた達はタマシイビトに何も出来ずにただ嬲り殺されるのデス」
「じゃあ本体のてめぇをぶっ倒せばいいってことだなぁ!」
リクさんがまた駆け出す。
リクさんはタマシイビトへ椅子をいくつも投げ付ける、タマシイビトはそれを電撃で全て破壊する。
「一瞬でも俺を見失うならそれでいい」
リクさんはタマシイビトの腕スレスレを通り抜けた。タマシイビトは一瞬遅れて剣を振る。
「俺はただ病室のベッドで寝てただけじゃねぇぞ!デス!」
「そうデスか、でもどうやらその足りない頭はそのままのようデスね」
「炎密度150%!滅炎斬!」
焔剣はデスへ真っ直ぐ振り下ろされる。デスはその焔剣へ手をかざした、すると、赤々と熱を発していた焔剣が揺らぐ。
「何!?」
デスから放たれる魔弾、それは焔剣を掻き消しリクさんを壁へ叩きつけた。
「魔力の前にただの気力は無力…デス」
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ではまた次回でお会いしましょう〜