第四章phase2 第9話「氷室ツバサの覚悟」
広い廊下をひたすら走る。
「こんな広いのに!月永くん絶対迷ってる!」
私は一抹の不安を抱えながら広大な城の中を彷徨う。
「というか…私も迷ってきちゃった…月永くんは玉座に行ってるはず、玉座って言うくらいだから上のほうだよね…」
私は階段を見つけ駆け上がろうとした、その時突如警報音が鳴り響く。
「わっ!なに!?」
その後に聞き覚えのある声が流れてくる。
「全サブサイド隊員に告ぐ!!」
「支部長の声だ」
「これより気力制御リングの妨害電波を流す!己でリングを外し一般市民の安全を最優先に王都の兵を捕らえろ!」
直後甲高い音が鳴り響く。
「みんなも動いてるんだ…!」
私は階段を駆け上がり、周囲を見渡す。すると、目の前の廊下の奥から兵士が3人走ってくる。
「いたぞ!やっかいになる前に捕らえろ!」
私はクロス・バレッズを展開して応戦しようとしたが、その時にはもう兵士達は壁に叩きつけられていた。
「まず3人!」
脇の廊下から現れた3人組は全員見たことのある顔だった。
「ユキさん!リクさん!氷室くん!」
「あ?」
「あっ!ハヅキちゃーん!」
篠森ユキさんがこちらへ駆け寄ってくる。
「無事だったのね!」
「なんでこの3人が一緒に?」
「向こうがね医療棟なの、私と氷室くんはそこに配属されてて、氷系の気術は怪我の止血とか色々役立つらしいの。で、リクは全身大怪我で病室に」
安堂リクさんを見るとまだ腕や体に包帯を巻いているようだった。
「その様子じゃあヒロト達も無事そうだな」
「月永くんもこの城にいます、リクさんは大丈夫なんですか?」
「当たり前だ!」
「どこがよ!全然大丈夫じゃないでしょ!?動けるようになったのもついこのあいだでしょ!」
この2人は相変わらずのようで私は安心する。そして、兵士達を氷で動けなくさせている氷室くんへ声をかける。
「氷室くん!」
「なんだ」
「突然だけどあなたを探してたの!」
「僕を?」
「今すぐ地下牢へ行って!グラソンって人があなたを待ってる!理由は行けばわかるから」
「突然すぎる!誰だそれは」
「詳しく私から説明できないから直接行って確かめて、私は月永くんを探して聖域に行くから!」
「おい!」
私は何か聞かれる前に走り去る、これでいい、彼がグラソンを見ずに理解なんてできないだろうから。
「なんなんだ…」
◇◇◇
僕は走り去る光丘の背中を見ながら困惑する。
「地下牢に行け、だと?もう少し何か情報を置いて行けよ…」
「どうするの氷室くん」
「とりあえず、行きます。待ってる人間がいるなら行くしかない」
僕たち3人は地下へと向かった。グラソン…どんな人間で僕に何の用が…
僕たちは地下牢へ辿り着く、この城での生活も長い、迷わずに辿り着くのはそう難しくはなかった。
「誰かいるか!」
僕は声をかける、すると一番奥の牢屋でカチャンと音が鳴る。
「安堂さんと篠森さんは後ろを警戒していてください、僕が行きます」
「わかった」
僕は音のした牢屋の前に立ち中を覗く、そこには白髪で褐色肌の男が1人下を向いて座っていた。
「お前がグラソンか?」
「どうやらちゃんと連れてきてくれたらしいな」
僕はその声に違和感を覚える。
「すまないがお前のような男に覚えはない、用があるなら手速くしてくれ」
「覚えはない…か、だろうな…」
グラソンは少し笑う。
やはりこの声、僕の声だ!似てる、なんてレベルじゃないほぼ同じだ!
「お前何者だ…怪しい動きをしたら叩き切るぞ!」
「そうしろ、俺はそうしてもらうために呼んだんだからな…氷室…」
「何?」
グラソンはゆっくりと顔を上げる、徐々に露わになるその顔に僕は震えた。
「僕だと…!?」
僕は後ずさる、だが踏み止まった。
「顔を変える能力か?そんなもの…」
「本当にそう思うか?」
「っ!」
「俺のコードネームはグラソン、そして本当の名は氷室ツバサだ」
「まさか…別世界の僕…でも、髪や肌が…」
「肌の色が違うのは俺はサーフィンが好きでな、日焼けってやつだ焼けすぎて元々褐色肌みたいになってるがな。髪は単に白髪にしただけだ、元は肌も髪もお前と同じ色だったぜ?」
この1年でいろいろ知った、別世界が本当に実在すること、そこから世界渡航者が来ること、そして世界渡航者達の中には何らかの目的を持って世界を渡っていること…
「目的はなんだ」
「単刀直入に言う、俺を殺せ」
「なん…だと…?」
「淘汰という儀式を行う、お前は俺を殺し俺の力を手に入れる、そして魔導士と戦え」
「さっぱりわからん、お前を殺してその力を得る?」
「それが、淘汰だ。別世界の自分同士が出逢った時、片方が片方を殺せば死んだ方の力が殺した方に宿る」
それが、世界渡航者達が世界を渡る目的…!
「ではなぜお前は僕を殺そうとしない、それにそのコードネーム、魔導士だな?なぜ仲間に不利になることをする?」
「…俺は奴らに背き、そして敗北した」
「!」
「俺は瀕死の重症だった、だが奴らは俺を生かした。魔導士である以上何か利用価値があると思ったんだろ、最低限の治療だけ受けさせられ今こうして牢屋にぶちこまれてるって訳だ、俺はもう戦える体じゃねぇどうせ死んでた人間だ、だからお前に託すんだ力を…」
「…僕は、お前を殺したくない…誰だって人は殺したくはない…だが僕はお前を殺す運命にあるんだろう、そう感じる…」
僕はしっかりとグラソンの、いや別世界の自分の目を見つめる。
「…だから、お前を殺す理由をくれ」
グラソンは少し僕を見つめた後答える。
「俺はいずれ奴らに反撃するとはいえ計画に加担していた、人を殺してはいないが村を氷漬けにもした、理由はそれで十分だ…それに…俺はこの世界に来た時点で奴らに背き、死ぬ覚悟もできてる」
僕はグラソンの目に確かな覚悟を感じた…その目は僕と同じようで違っていた…そして、気術を発動する。
「僕は、“だからって人は殺せない”とかそんなことを言うお人好しでも優しい人間でもない、だが…人の覚悟を無駄にしてしまうような人間でもない」
「あぁ、知ってる…お前は俺だからな…」
「一思いに…」
僕は刀身のない柄に氷の刀身を作り出した…
ファントムブレイヴを読んでいただきありがとうございます!
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ではまた次回でお会いしましょう〜