第四章phase2 第8話「王の所在」
◆◆◆
ヒロトがチップと修行を始めた頃ー
「いい?剣術って言うのは、昔、侍と呼ばれる人たちがいた頃彼らが使っていた術よ」
チップは料理をしながら言う。
「俺は剣道を習ってた、それと何が違う」
「剣道は“1対1”をいかに制するかそれが重要なの、でも剣術は“1対多”…1人で何人も倒し続けられるかが重要なの。そこに月永くんが習得すべき事がある」
「習得すべき事…」
「それは“消耗を最小限にする”ことよ。1対多ということはそれだけ長い時間自分の力を発揮し続けなければいけないからね」
俺はチップに言われた事を思い出す。
「消耗を抑えるか…七天抜刀と機械籠手を封印しなきゃいけないのとも繋がるな」
「わかったなら修行開始〜!」
チップは持っていたお玉を振り上げた。
◆◆◆
うつ伏せに倒れたルヴァンの体の下から血が流れ出す。
「見えな…かった…風の予測より…も…何倍も速くっ…」
「当たり前だ、そのための二歩一撃歩法だ」
「しかも…体力の消耗が…みえない…」
俺は振り向きルヴァンを見下ろす。
「お前、ふざけてるのか?」
「何?」
「俺が速いといってもお前の渾身の一撃がこんなかすり傷で済むわけねえだろ…加減したな?まさか殺しちゃいけないからとかそんな理由で加減したなら…許さねぇぞ」
「バカ言え…わっちはお前の…右肩をえぐり取るつもりで撃った…加減なぞするかぁ…」
その時、ルヴァンの体が淡く光り始める。
「っ!なんだ?なんで光ってる!?」
「これは……どうやら…この世界の自分とどこかで会ったようだぁ…知らず知らずのうちに…“淘汰”が始まっていたのかぁ…」
「淘汰…」
グラソンが言っていた…別の世界の自分と出会うことで起こる儀式…片方を殺せば片方の力を得られる…
「お前はどうなるんだ」
「わっちは…このまま元居た世界に帰される…ここまで弱れば世界が無理矢理に戻すのだ…」
俺はルヴァンに近づく。
「わっちを…殺すか?…命乞いをするつもりはないが…淘汰が始まったわっちを殺せばこの世界のわっちも死ぬぞ…ガハッ」
ルヴァンは力なく血を吐く。
「あまり喋るな死ぬぞ、別に俺はお前に死んでほしい訳じゃない、殺したいほど憎んでもない、それにお前はそこまで悪いやつじゃない…剣の道をここまで極めた人間が悪くなるはずがねぇ」
俺はルヴァンを仰向けにし、傷口を影で縫う。ルヴァンは俺の行動に驚いていた。
「何をしている…わっちに…情けをかけるつもりか…?」
「黙れ、傷口が開くぞ。お前が喋っていいのは俺からの質問の答えだけだ」
ルヴァンの傷口を辛うじて塞ぎ、俺は質問を投げかける。
「王はどこだ、ルヴトー11世をどこへやった?」
「王…だと?…王なぞとっくに…」
次の言葉に俺は凍りついた。
「死んだと聞いたが…わっち達がこの世界に来た頃、つまり2年ほど前になぁ…」
「死…死んだ?しかも2年も前にだと…?」
意味が分からなかった、辻褄が合わない…
「おかしいぞそれは、じゃあうちの本部長は誰とやり取りしてたんだ」
「さぁな…だがひとつ言えるのは…現在のこの国の王はソレイユだ…まだ代理だがな…」
ショウスケの兄貴が今の王?この星で一番でかい国だぞ、いくら魔導士でも王族以外は王になんてなれない…誰もそれを認めない…じゃあ何故…?
そうしているうちにルヴァンがどんどん消えていく。
「月永…質問に答えた代わりに…ひとつ頼みがある…」
「…なんだ」
「次、会う時は…友として剣を交えてはくれないか…お前との戦いは…今までで一番胸躍った…」
ルヴァンは力なく手を上げる。
「バカ言え…」
俺はルヴァンの手を力強く掴む。
「友なら…先に飯でも行こうぜ」
「ふっ…そうだな…」
ルヴァンの体は完全に消え、俺は掴むものがなくなった手をグッと握る。戦いの中で僅かに芽生えたルヴァンとの友情を感じながら…
俺は立ち上がり、気術を解く。体を侵食していた影が引いていき、体のあちこちが少し痛みはじめる…
「フェイズ1ならまだ耐えられるな」
ルヴァンが言ったことが本当なら、王は死んでいる…前本部長はもうおらず空いた席にソレイユが座っている…
まずいな…ここで考えても分からないし時間もない、王がいないのならここにいる意味はないし一刻も早く聖域に向かわなければ…
その時、警報が鳴り響く。俺たちの侵入に対する警報かと思ったが次に聞こえたのは意外な人の声だった。
「全サブサイド隊員に告ぐ!!」
「支部長!?」
その声はサブサイド第3支部支部長、斎條レイコ支部長だった。
「これより気力制御リングの妨害電波を流す!己でリングを外し一般市民の安全を最優先に王都の兵を捕らえろ!」
直後甲高い音が鳴り響く。
「みんなも動いてたんだ」
ますますここにいる意味が無くなってきたな、さっさと氷室の野郎を見つけてハヅキと聖域に行かないと…
俺は玉座を背に階段を降りた。
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ではまた次回でお会いしましょう〜