第四章phase2 第7話「リミット・ブレイク」
ルヴァンはレイピアを構えたままこちらを見ている。
「上があるなら見せてみろぉ」
「本当にこれの制御には苦労したんだ、簡単にぶっ倒れるなよ?」
俺はその能力を解放する。
足や腕を侵食した影が厚くなり装甲のようになり、さらに伸び右肩から湾曲した影の角が現れる。
「制限解除フェイズ1“影夜叉”」
「これは…すごいなぁ」
互いに同時に距離を詰める、レイピアと影の剣がぶつかる。レイピアを受け流し、ルヴァンの体へ迫る。が、ルヴァンもこれに対応しようとする、だが俺はルヴァンが追いつく前に肘打ちを放った。
「んっ!?」
そのまま、顎へ剣の柄で一撃、レイピアが動きを見せた瞬間レイピアを持つ手を掴み、足を払った。
ふらつくルヴァンへさらに突き蹴りをお見舞いする。ルヴァンは抵抗できず吹っ飛ぶ。
「うっ…速いなぁ、風が伝える前に動いている」
「お前が後の先なら俺は“先の先”、俺の技を見てからじゃ追いつけねぇぜ?」
「なれば…」
ルヴァンは玉座に瞬時に移動し立て掛けてあった剣を持った。
「お前の今の攻撃は、レイピアでは受けきれん…わっちも愛刀を持たせていただく」
ルヴァンは剣を抜く、その瞬間に2人は消える。
俺はルヴァンの動きが完全に見えるこの力に感動を覚えた。最速でルヴァンに斬撃を叩き込む、だがルヴァンもそれに対応する。
剣と剣がぶつかる、衝撃で床がヘコみ亀裂が走る。
「重いなぁ」
「お前の剣も相変わらず重いな」
俺とルヴァンの剣が激しくぶつかり合う、お互い一歩も譲らず、お互いがお互いの攻撃に対応できていた。
剣が強く弾かれ、距離を取る。
「しかし、どういう原理でそこまでの身体能力の向上ができるんだぁ?…リミットブレイクと言ったなぁ?少し考えたんだが、まさか人間が自動的に掛けている体のリミッターを意図的に解除しているのか?」
ルヴァンはこちらを指差しながら問う。
「なぁ、教えてくれよ。わっちの仮説、合ってるか?そんなことができる人間がいるなら驚きだが、そんなやつと戦えているのならわっちは嬉しいんだ」
俺は少し間を置き、答える。
「あぁ合ってるよ。この技は脳が体にかけてるリミッターを段階的に外していく技だ。それで、体がぶっ壊れねぇように影を厚くして装甲みたいにしてるって訳だ」
「驚いたなぁ、なんてやつだ」
「俺はもともとマジにブチ切れるとリミッターが外れる体だったんだ、それをこの1年で制御できるようにした」
「“段階的に”かぁ…ということはこの上があるのかぁ」
「お前には見せるまでもいかないだろうがな」
俺はまた最速でルヴァンへ詰める、剣がぶつかる金属音が響く。
「ルヴァン、お前もなんでこのスピードについて来れる?お前も種明かししろよ」
「いいだろう、わっちの秘密はこの風だ」
ルヴァンは風というがあたりにはそよ風すら吹いていない。
「風なんて吹いて無いぜ?」
「あぁ、吹いてない…だからいいんだ。無風だからこそ月永、お前の起こす風を敏感に感じ取れる」
なるほど、と俺は思う。こいつは俺が動く時の僅かな空気の動きを見ているんだ、少しの指の動き、頭の傾き、呼吸…人間の全ての動作で起こる空気の動きを…
「理解したぜ、だからお前はまるで予知でもしているかのように完璧な後の先の動きができる」
俺たちは鍔迫り合いをしながらお互いを見る。
「どうやらお互い…」
「秘密を知ったところでどうしようもないみたいだなぁ」
剣を弾き俺たちは一旦距離を取る、そして床に足がついた瞬間…消える。
部屋のあちこちで俺たちはぶつかる、床を裂き、支柱を折り、玉座をも斬り裂いた。
10秒にも満たない間に玉座の間は斬撃でズダズダになった。
このままじゃお互いの体力が切れるまでの耐久戦…それじゃダメだ、完璧にルヴァンを打ち負かす!
まだ完成してないがあの技で決める…!今ここで完成させてやる!
その瞬間、互いが同時に仕掛けた…
「“二歩一撃歩法”…夜叉斬り!!!」
「乱気流・狂突風!!!」
ルヴァンは渦を巻く激しい風を纏った鋭い突きを放つ。
俺は二歩一撃歩法で更に速度を上げ、影が噴き出すほど気力を乗せた刀を振るった…
玉座の前で俺たちはすれ違い、互いに背中を向けたまま、立ち尽くす…
「くっ…!」
ピシッっと俺の頬と腕に入った斬り傷から血が流れる、だがそれはかなり浅く、掠めた程度の傷だった。
「ぐっがはっ!」
背後で剣が落ちる音が聞こえる、ルヴァンは膝から崩れ落ち倒れた、俺の斬撃は完璧にルヴァンを斬り裂いていた。
「何を…されたんだぁ…」
「二歩一撃歩法…俺は“剣道”にプラスするように“剣術”を学んだ、これが更なる修行の成果だ!」
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ではまた次回でお会いしましょう〜