第四章phase2 第4話「王都へ」
夕暮れの広野を走る俺とハヅキ。太陽はもう地平線へ隠れようとしていた。
「そろそろ日が暮れちまう、今日で王都の近くまでは行きたいところだけど…」
「王都ならもうすぐ見えてくるはずなんだけど…」
小高い丘を登り、俺は立ち止まる。
「見えた…!」
日が沈み、明かりを灯し始めた巨大な都市が眼下に広がる。その中央に鎮座する城がライトアップされた。
「月永くん、どうするの?もう今から潜入する?」
「いや、少し休みたい…結構気力を使っちまったからな、だが今日中には突入する」
もう時間はない…封印が解けるまであと48時間を切ろうとしている。
「作戦を立てよう、まずどこから入るかだな…」
「…もし、私が捕まってた場所が王都なら牢獄が外と繋がってたはず」
「なるほど、牢獄か…回り込んで確認するか」
俺とハヅキは王都の裏手へ回り込む。
そこには、小さな門と車が数台止まっていた。
「あそこなら城下町を通らずに城へ直接入れそうだな」
俺たちは門が見える位置で少しの間休息を取った。そして、夜もふけ城下町の明かりが少し減ってきた頃俺たちは行動を開始した。
◇◇◇
「門の前の警備は4人、一度空いた時に見えたが中にも2人…カメラは射程範囲なら俺が切る、行くぞ」
「うん…」
俺たちは門の端にバレないように位置取る。
「4人を端から一瞬で気絶させる、気絶を確認したら鎧を拝借するぞ」
俺は刀を造り、峰打ちの形に持つ。
そして、1人2人…3人4人と首筋に峰打ちを瞬時に放った。4人がほぼ同時に倒れる。
「よし、変装して中に入るぞ」
俺とハヅキは兵から鎧を脱がし、それを着て門を開けた。
だが、そこにいた兵士2人に阻まれる
「どうした、交代の時間ではないぞ」
「これを見てくれ」と声を変えたハヅキがごそごそと何かを出そうとした瞬間、その2人に再び峰打ちをお見舞いする。
「すまねぇな、今は寝ててくれ」
「私の男声上手くなかった?」
「いや、あのまま喋ってたらバレてた」
「えぇ!?」と言うハヅキをなだめながら俺たちは先へ進む。
少し進むと牢屋がズラリと並んだ通路に出る。
「案外簡単に入れたな」
「月永くんが強いからね」
「…いや、もう聖域へ多くの兵が駆り出されてるからな…」
「!!?」
突如牢屋の中から俺たちに向かって話しかける声が聞こえる。
「誰だ!」
「久しいな…光丘ハヅキ…」
「あなたは!」
牢屋の窓から月の光が差し込む。
「グラソン!」
「こいつ…!魔導士じゃねえか。なんで知ってんだハヅキ」
「私が1年前会った魔導士だよ…死んだと思ってた…月永くん!グラソンを助けよう!この人は魔導士の中の反乱軍なの!」
「反乱軍?」
「1年前、グラソンはソレイユを止めるために戦ったの、でももう1人魔導士が来て負けちゃって…でもここでまた一緒に戦えば…!」
ハヅキが必死に俺に訴えかける、がそれを彼が止めた。
「気持ちは嬉しいがな光丘ハヅキ…俺は戦える体じゃない…最低限の治療しかされずにここに放り込まれている俺の体はボロボロだ」
「そんな…」
「だからお前たちに頼みがある…これは賭けだがな“氷室ツバサ”という人間を知っているか?」
俺は知っている名前が急に魔導士の口から出たことに少し反応してしまった。
「知っているんだな…そいつは戦えるやつか?」
「待て、ハヅキの言葉と今お前がこうして捕まっていること…反乱軍だという事は確かなようだが俺は全てを信用はしていない、目的を全て言え話はそれからだ」
「月永くん…」
「…分かった結論から言おう、“淘汰”を行い俺の力をそいつに託す。魔法は使えないが魔導士と戦えうる力を…」
「待て待て!淘汰?なんだそれは?」
グラソンは一瞬キョトンとした顔をする。
「知らないのか?神の器の人間なら知っていると思ったが…なぜこうもこの世界の人間は世界の理について無知なんだ…」
「くっ…説明を聞いてる暇は無ぇ!簡潔に要点だけ教えろ」
「…同じ世界に同じ人間が存在し、出逢った時に始まる儀式だ。片方が片方を殺せば死んだ方の力を得ることができる、それが淘汰だ」
「同じ世界に…同じ人間…だと?じゃあお前は…」
「あぁ、俺の本当の名は“氷室ツバサ”だ…!髪型や肌の色等後天的なものは違うが身体つきや声はこの世界の俺と同じなんじゃないか?」
◇◇◇
地下を走る俺とハヅキ
「くそっ探し物が増えちまった!」
「氷室くんはこの城にいるのかなぁ」
「わからねぇがいたら対魔導士の戦力になるなら探すしかねえ!」
俺たちは階段を駆け上がり城内へ入った。
◇◇◇
歪みの聖域を見下ろす2匹の犬。
「チップ、なぜ全てを教えなかった?小僧は器だ知る権利はある」
「それはいけませんわ犬神様、私から全て教えてしまったらそれを知るに至るまでするはずだった成長が出来なくなってしまいます…だからヒントだけ教えてあの城に向かわせたんですよ」
「やはり、人間のやる事はわからぬ」
「あらやだ犬神様、私は犬よ♡」
「犬とはいえ人間に化け、人間世界に長居し過ぎて結局人間として死んだのはどこのどいつだ」
「でも魂を拾ってくれたのは犬神様よ?」
「お前がすり寄って来たのではないか!」
犬神が高台を降りていく。
「どちらへ?」
「我も準備を始める、お前も例の準備を始めておけ」
そう言って犬神は消える。
「はーい♡」
チップもまた高台から飛び降りながらその姿を消した。
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ではまた次回でお会いしましょう〜