間章 第7節「光丘ハヅキの拿捕」
目が覚めるとそこは冷たく暗い場所だった。
「えっ!ここどこ?」
立ち上がろうとするが、手には手錠、足は壁と鎖で繋がれていた。
「嘘…何これ…」
私はなんとか立ち上がり、辺りを見渡す。
小さな部屋、窓はなく、薄い布団と鉄格子の扉があるだけだった。
「牢獄…」
まるで絵に描いたような牢獄、私は扉まで歩こうとするがそこまで鎖が伸びず届かない。
「早く、出ないと…」
「そう急がずとも出してやる、光丘ハヅキ」
「えっ?」
扉の前に立つ王都の兵士、その兵士は鍵を開け私の足の鎖を解いた。
「お前を第一級犯罪者として、ある所へ送る」
「犯罪者…?」
「外に専用の車がある、それに乗れ」
「あの、手錠は…」
「それは気力制御の手錠だ、到着までは外さん。来い」
私が犯罪者…てことはみんなも…
「あのちなみに私は何の罪で…」
「王都反逆罪だ、これ以上喋ることはない黙ってついて来い」
「はい…」
私は従うしかなかった、少し試してはみたが手錠のせいで気術は発動出来ないし、兵士は武器を持ってる、反抗しても勝ち目はない…
「着いたぞ、あの車に乗れ」
外まで出てきた私の前に一台の車が止まる。私が乗り込むと車は発進した。
ー数時間後ー
何時間か経った頃、車が止まる。道中は運転手に話しかけても返事は返ってこず、とても暇だった。
ドアが開く。
「来たな、光丘ハヅキ。今日からお前はここで働き過ごしてもらう」
車を降りた先に私の目に飛び込んで来たのは谷の間にそびえ立つ塔と壁、塔の下には大きめの建物が2つ。
「ついて来い」
私は言われるがままその兵士について行く。
建物の前までくると中に入れられる。
「ここがこれからお前の家だ、しっかり働け」
「え、なんの説明も無し…?てか手錠は?」
「そこの機械の中に手を入れろ、後は中にいる奴らに聞けその方が早い、ではな」
そのまま兵士は行ってしまった。私はとりあえず機械の中に手を入れる。
ガチンっと音がすると両手の手錠を繋いでいた鎖だけが切れた。
「気力制御用って言ってたもんね、このリングはそのままか…」
私は目の前の扉に手をかけ開いた。
「おや…あんたが新入りかい…こりゃまた若いのが来たねぇ…」
とても広い大部屋に何人もの女性、そして一番奥でタバコをふかせている巨漢の女性がこちらを見ていた。
「なに…身構えることはないさ、ここに来たからにはあんたは家族みたいなもんだからねぇ!」
その人がそういうと周りの人達も優しげな表情を浮かべている。
「あなたも犯罪者なの…?」
「ハッハッハッ!ここをどこだと思ってるんだい?最果ての収容所“タナトス”だよ!?ここにいるのはみんな大犯罪者ばっかりさ!」
タナトス…もちろん名前は聞いたことがあった。世界中の受刑者の行き着く最終地点…
「さてはまたあのクソ兵士の野郎、何も言わずにここへ置いていったなぁ?まぁいいさ、私がいろいろと教えてやるよ」
その時、部屋のスピーカーから大きな鐘の音が鳴り響く。
「っ!何!?」
「今日は誰だったか…」
「私と…」「私よ」と2人立ち上がり部屋の奥の扉へ向かう。
「生きて帰るんだよ」
「まかせといて!」「私達だってそんなヤワじゃないわ」
そう言ってその2人は部屋を出ていった。
「どこへ行ったの?」
「仕事さ…命を賭けたね…」
その人はタバコの火を消すと立ち上がった、私は彼女を見上げる、ゆうに2mはあるだろうか。
「さっあんたの部屋を案内するよ来な」
「あの、名前は…」
「あ〜名乗ってなかったね私はバーバラ・ダズ・エリコ、バーバラでいいよ」
「私は光丘ハヅキ、よろしく…」
「ハヅキね!良い名だ」
バーバラは私にその建物の中を案内してくれた、見た目に似合わずとても優しい人だった、犯罪なんて似合わないぐらい…
私は何も分からずここに送られてきたけど、1年後私はここから出られるんだろうか…みんなは…月永くんは無事なんだろうか…
そんなことを考えているとあっという間に案内が終わり、元の部屋に帰ってきた。
「まぁあんたの事情は知らないけどさ、あんたにはもう私達がいる、一緒に生きようじゃないか」
「…うん」
「申し訳ないけどここから仕事の話だ、いいかい?」
「もちろん、それを聞いておかないと」
「ここで言う仕事ってのは自然の怒り退治のことさ」
「えっ」
「あの壁、通称タナトスの扉…その向こうに広がるのは禁忌の大地、そこで発生したバケモノがこちらが側に来るのを女から2人、向こうの男から2人出し合って戦い防ぐ…それが私ら囚人の仕事さ」
「私サブサイドにいたの、自然の怒りなら任せてよ」
「…残念だけどそう言って死んでいったやつを私は何人も見てきた、ここの自然の怒りは他のと訳が違うのさ」
私はゴクリと生唾を飲み込む。その時、後ろで扉が開く。
「バ…バーバラ…帰ったよ…」
扉から出てきたのは少し前に仕事へ行った人だった。その人はボロボロで部屋に入ってきた。
「あんた…チエコはどうした…?」
「チエコは…死んだよ…」
その言葉に場が凍る。
「今回のはなかなか手強くてね…男の方も1人…」
「…わかった、あんたは休みな…」
「ごめんよ…バーバラ…」
その人はフラフラと部屋に戻っていく。
「…ハヅキ分かったかい…これがここタナトスだ、あんたも死ぬんじゃないよ…」
少し前にここを出た人が死んだ、残酷だ…残酷すぎる。でもここにいるのはほぼ死刑囚と言っていいほどの大犯罪者ばかり…私はいろんな気持ちがごちゃごちゃになって訳が分からなくなってきていた…
「さぁ、今日は部屋に戻んな…あんたは次、私と仕事に出るよ」
「うん…」
私は部屋に戻ったもののソワソワして何もできず、睡眠もあまり取れなかった…
ー数日後ー
みんなが集まる部屋にいるとあの鐘が鳴り響いた…
「来たね…行くよハヅキ」
私はバーバラの後ろを着いていく。私はこの数日で決めたことがある、私は言わば自然の怒り退治のプロ…なら出来る限り私が仕事に出ようと…数日ここで過ごしたけど、みんなバーバラの影響なのかいい人ばかりで更生してここから出られる日を迎えられるようにと
「この機械にリングを通しな、これで一時的に気力制限を解除できる」
私はリングを通し、ドアを開く。
そこは壁の向こう側、50mほど先から森になっていた。
「いないね」
「あのアラームは2km以内にやつらが侵入した時に鳴るんだ、木の上に登ってみな見えるはずだよ。ここまで来れるのは大型以上がほとんどだからね」
「バーバラさん!」
見ると2人の男の人が私たちとは反対側の方から駆けてくる。
「今日はバーバラさんか、じゃあ大丈夫そうだな」
「その油断が死を招くよ…クソどもが」
「今日も当たりがキツいなぁ…その子は新入りかい?」
「あぁ迷惑かけるんじゃないよ」
「わかってるさ」
その時、大きな音が響く。
オオオオオオオオオ
「いるね…あんた、地面を高くしとくれ」
「あいよ」
男が地面に手をかざすと私たちのいる地面が木の高さまでせり上がる。
そして、その姿が見えた。
「なに…あれ…」
大型の人型、頭は扇のような形で顔は無く手足は細かった、それより何より胸の中心に大きな赤い球体そしてそれを守るように生えた肋骨のようなもの…今までのあんなのは見たことがなかった。
「言っただろう?別物なんだ…だが倒し方は簡単さ、あの胸のドでかいコアをぶっ壊すだけ」
「だけって言ってもあの骨みたいなのが邪魔だね」
「それは私に任せな、あんたら3人は動きを止めておくれ」
「ささっと終わらせようぜ!」「あぁ!」と男2人はあれに向かって走り出した、私もそれを追う。
バーバラさんの能力は知らないけどあれを壊せるほどのものなんだろうか
「嬢ちゃん、バーバラさんなら心配いらないぜ。バーバラさんの能力は“自分の気力で気力を練り出す”能力なんだ、チャージ時間がネックだがそれさえ俺たちでどうにかすれば確実に勝てる」
「俺たちの能力は戦いながら見てくれ!」
そう言って2人はやつの足元へ向かう。
「陥没!」「ウッドランス!」
片方の足元の地面が下がり、もう片方の地面が上がる。さっきも地面の高さを変えてた…さっきもじゃあどこかの地面が下がってたのか。
やつがバランスを崩したところをもう1人が技を出す。周りの木が槍のように変化し、やつの足や体を貫く、ダメージは無さそうだけど足は固定された。
「失った気憶解放!略奪の光姫!」
恐らく通常の気術では効果が無いと判断して、略奪の光姫を発動させる。
「略奪!目は無さそうだけど!」
私はやつへの光を全て奪う、変化は無い…やっぱり光による視力は無いみたいだった。
「すげぇ、なんかあの嬢ちゃん白くなって光りだしたぞ」
「グロウチェーン!」
私はやつの手と胴体を光のチェーンでぐるぐる巻きにする。これで手足の自由は封じた!
「バーバラさん!」
さっきから感じていたとてつもない大きさの気力…振り返るとバーバラさんは右手に気力を集中させていた。
「行くよっ!」
バーバラさんは地面を蹴り、こちらへ飛んでくる。
その時、あまり動きのなかったこいつが動く。扇型の頭から無数の触手を出し、バーバラさんに向かわせる。
「させない!」
奪い続けていた光を弓と1本の矢に変える。
「返還の矢!!」
その矢はいくつか触手を貫きながらやつの頭へ直撃する。頭は仰け反り、触手も勢いを落とす。
「インサイド・バリア!」
それでもバーバラへ向かう触手を見て、私はバーバラさんに中からの攻撃は外へ抜けるバリアを施した。
「そのまま突っ込んで!!」
「あいよ!」
あまりの気力量によって輝く右の拳を携え、バーバラさんはやつのコアの目の前に到達する。
「ぶっ飛びなぁ!!」
その拳は恐らく相当の硬度を持っていたであろうやつの骨を一瞬にして砕き、コアへと放たれた。
ズドンッ!!!!!
私は驚く、“ぶっ飛ぶ”?いや、あれは…“消し飛ぶ”が正しい…コアどころかやつの胸部全てが圧倒的な気力量によって、消し飛んだ…
「やっやばぁ…」
そのままやつは叫びをあげることもなく粒子となって消えていった。
◇◇◇
「いやぁ今日もバーバラさんのお陰でなんとかなりましたぁ」
「あんたらそれでも男かい!たまには自分らでなんとかしたらどうなんだい!」
「バーバラさんがいたらバーバラさんに任せた方が速いんですってぇじゃあ俺らはこの辺で〜」
2人は駆けていった。
「まったく…クソ野郎どもが…ハヅキありがとうね!やるじゃないか」
「バーバラさんも凄かったです!というかその能力、無限に気力を生成できるんじゃ!」
「無限には無理さ、気力を練り出すのにも気力がいる。気力を限界まで溜めてもそれを扱えるほど人の体は丈夫に出来てない…欠点ばっかりさ!」
ハッハッハとバーバラさんは笑う。
「さっ帰ろうか」
私とバーバラさんも家は戻っていく。
バーバラさんの能力は相当な潜在能力がある、たぶんだけどみんな気術の使い方が上手じゃないのかもしれない…サブサイドの人達は当たり前のように使ってたけど戦う必要の無い生活を送っていたのなら下手で当たり前だ……
私はもうひとつここでやることを決めた…
ー次の日ー
「えぇ!?あんたが気術の授業をする!?」
「うん、みんなが死なないようにみんなが自分の気術を最大限使えるように私が教える!一応プロだしね」
みんながざわざわと話し始める。
「気に入った!!」
バーバラさんが大きな声で言う。
「私らは誰からも見放され、死んでもいいとここに送られてきた!だがそれでいいのかい!私らだって人間だ!未来を生きたいと思ってるやつもいるはずだ!だったら!生きてここを出ようじゃないか!自分の力を上手く使えるかどうかで死ぬ確率が下がるんならやる価値はある!」
「私はみんなに死んでほしくない!たとえ、どんな犯罪を犯していたとしても、更生して新しい人生を歩んでほしい!」
「ここにいるやつは自分の罪を背負って生きる覚悟のあるやつばかりだ、私らの力をあのクソ看守共とバケモノ共にみせてやろう!」
そうして、私の新たな生活が始まった。正直それでも不安の方が大きいけれど1年後みんなに会うために私は覚悟を決めた…
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ではまた次回でお会いしましょう〜