間章 第5節「麗未アオイの転生」
あたしは歩き歩いて生まれ故郷の獣主の里に帰ってきていた。
「……もう、着いちゃった」
獣主の里…ビースト使い達が暮らす山の中にひっそりと佇む場所、ビースト使いの修行の場でありここで産まれた子は皆ビースト使いの気術に目覚めるという不思議な場所、ここがあたしの故郷…
里の入り口へ歩いていくと門のところに1人の女の子が立っていた。
「そこの者!止まりなさい!」
あたしはその子に止められる。門番か…あたしも小さい時にお父さんと1度やったなぁ
「あたしは麗未アオイ、ババ様に用があって来たの」
「え?ア、アオイ姉さん!?」
その子は目を見張り駆け寄ってくる。
「アオイ姉さんだ!私だよ!ミト!桜木ミト!」
「分かってるよ、大きくなったねミト」
「7年ぶりだね!あっ!早くババ様に知らせないと!」
ミトは里の奥へ走っていく。
ミトはあたしが里にいた時にあたしを姉さんと慕ってくれていた4つ下の子だ。7年ぶりに見たミトは大きくはなってるけどあの慌てん坊なところはそのままで、あたしはとても懐かしくなった…
あたしは里に足を踏み入れる、その景色は昔と同じだった。里の中心にあるババ様の家へ向かう。
「あら!アオイちゃん?綺麗になったわね〜」
「ありがとう葛木さん、お久しぶりです」
7年経ったとはいえこうやって覚えててくれて話しかけてくれる…やっぱりこの里が好きだ
「アオイ姉さん!」
ミトがババ様の家の前で手を振っている。
「ババ様が待ってるよ、私は門番あるからまた後でね!」
そう言ってまた走っていってしまった。
「アオイや…」
家の中から声が聞こえる。
あたしは暖簾をくぐり中へ入る。
「お久しぶりです、ババ様」
あたしは座りながら礼をする。
「ほぉほぉ…これはまたべっぴんさんになって…」
「ありがとうございます、ババ様もお元気そうで」
「…おぬしは元気がないようじゃのぉ」
「……」
あたしは黙ってしまう
「なぁにここへ来た理由は分かっとる…おぬしが何と戦っているかもな」
「ババ様っごめんなさいあたし…リヴァイアを…っ!」
あたしは思わず泣き出してしまう。
ババ様は優しくあたしを撫でる。
「ほれほれ、大丈夫じゃ。泣いてしもうたら美人の顔が台無しだで」
「でもっ!あたし…」
「リヴァイアは死んではおらん」
「…え?」
その言葉にあたしはババ様を見つめる。
「ふぉっふぉっふぉ!わしは嘘はつかん、そもそもリヴァイアが死ねばおぬしの体はただでは済まんで」
「じゃっじゃあ今もどこかで!?」
「いいや、リヴァイアの体は消えてしもうとるようじゃ…残っとるのは魂だけ」
「魂…」
「話は早い方がいいじゃろう、明日転生の儀を行う…今日はもう休みなさい疲れておるじゃろ?おぬしら家族の家は空けておるそこを使いなさい」
疲れ果てて今にも倒れそうだったあたしはババ様の言う通り里の自分の家へ向かった。
「アオイ姉さーん!!」
「ミト」
ミトがあぜ道を走ってくる。
「アオイ姉さんの家は私が掃除してるんだよ?いつ帰って来てもいいように!」
「ありがとうミト…そういえばミトはなんで里に残ってるの?みんな外に出ちゃったんじゃない?」
「ふっふっふ〜それには理由があるのです」
ミトは得意げな顔を浮かべる。表情も昔と変わらず分かりやすい。
「実は私、次期里長候補なの!」
「え?ミトが?」
「そうだよ!これでもババ様の一番弟子だからね!」
「だから、1人で門番を任されてたのね」
「そっ!門番も弟子の仕事だからね〜っと着いたね」
気付けば家の前だった。
「アオイ姉さん、しっかり休んでねまた明日!」
「うん、ありがと」
ミトは手を振りながら走っていく、途中で転びそうになりながら。里に帰ってきてからずっと懐かしい感じが抜けない、良いことかもしれない、けどこんな時にこんな感情になっていいものかともどかしさを覚えていた。
あたしは布団に横になる、眠れないと思いきや一瞬で深い眠りについた…
ーその夜
「ババ様、本当にやるのですか」
「あぁ、今世界がどういう状況でアオイ達がどれだけ追い込まれているかわしには分かる…そのために何をしなければいけないのかもな…」
「でも、ババ様…」
遮るようにババ様が続ける。
「ミト、おぬしにはほとんどの事を教えてきたつもりじゃ、そして最後に転生の儀を教える…これでわしの教えるべきことが無くなるわけじゃ…頼んだぞ」
「…はい」
桜木ミトは師匠の覚悟を受け入れ、己の覚悟も決めた…
ー翌朝
ババ様の家の前、里の中心に大きな術式が描かれる。
里の人々もたくさん集まっていた。
「アオイ、よいか?使い手と使い魔を繋ぐのは魂じゃ。使い魔は使い手の魂を自らの魂の拠り所とする、そして魂の波長が合えば合うほど力を発揮する、それがビースト使いじゃ」
あたしは胸に手を当てる
「リヴァイアの魂は今おぬしの魂と共におる、じゃが具現化する体が他の力によって消えた今、体を作るために一度魂を引き剥がさねばならん。引き剥がし、眠っている魂を覚醒させる、そしてもう一度体を作らせるのじゃ」
「あたしは何をすればいいの?」
「おぬしはただ耐えるそれだけじゃ」
「耐える?」
「よいか?今から行うのは魂の分裂、残念じゃがおぬしに何かできるような余裕はない…意識を保ち魂が抜けないように耐えていなさい」
そういうとババ様は術式の方へ向かう。
魂の分裂…あたしとリヴァイアの魂が分かれる…
「ババ様、分裂した後は…その後はどうなるの?」
「またリヴァイアがおぬしの魂へ戻る…はずじゃ」
「はず?」
「今までのおぬしとリヴァイアの絆を信じなさい…ほれ、術式の中へ」
あたしは言われるまま術式の中心であぐらをかき、意識を集中させる。
「ゆくぞ、ミト」
「はい!」
ババ様とミトが呪文を唱え始める。術式が光り、何層にもあたしを囲むように空中に描かれる。
「ハァッッ!!」
ババ様の掛け声と共にミトの唱える声が大きくなる。その瞬間、意識が飛びかける。
「姉さん!耐えて!」
あたしはミトの言葉にハッとなりグッと耐える。気を抜けば一瞬で意識が飛ぶ、それはつまり魂が抜ける事を意味していた。
「ハァァアアアッッ!!!」
ババ様から聞いたことのない叫び声が上がる、
「ソノ主人ノ使魔ヨ我呼ビ声ニ応エ、ソノ魂ヲ現セ!!」
ドクンッとあたしの中で何かが脈打つ、それは次第に早くなっていく。
「汝、魂ノ声ノママ二ソノ姿ヲ形作レ!」
ババ様の言葉の後、あたしの体から光が生まれる。その光は徐々に水を纏い大きな水の球となる。
「アオイ、その球に触れなさい。そして、呼びなさい使い魔の名を」
あたしは立ち上がり、手を伸ばす…水の球に触れその名を呼ぶ
「リヴァイア!!」
その瞬間、水の球は崩れ渦になり徐々に小さくなっていく、それと同時に渦から放たれた光があたしの中へ入っていく。
「これにて、転生の儀は終了じゃ」
渦が消えるとそこには小さな水の龍がこちらを見つめていた。
「リヴァイア?」
呼ぶとその龍はあたしに飛びつき腕に絡み付いた。
「リヴァイアなのね!」
あたしは耐えられず涙が溢れる。死んだと思ったリヴァイアがまたこうして一緒にいるんだ耐えられる筈がなかった。
「魂の分裂後、魂がちゃんと戻るか心配だったがその心配は無用だったようじゃな。その姿は言わば幼体、おぬしらのことじゃすぐに以前のような姿に戻っていくじゃろ」
「ありがとう!ババ様!ミト!」
「へへへっアオイ姉さんが嬉しそうで何よりだよ!元気のないアオイ姉さんなんてアオイ姉さんじゃないからね!」
「うっ…」
その時ババ様が倒れ込む。
「「ババ様!!」」
「ふぉっふぉっ…やはり相当体にくるのぉ…」
「ババ様!喋っちゃだめだよ!」
「アオイや…おぬしに、おぬし達に世界の命運はかかっておるようじゃ…わしは役目を果たした…おぬしとリヴァイアも役目を果たしておくれ…」
「ババ様!?しっかり!」
「大丈夫じゃ…死にゃあせん…じゃがわしも歳じゃもう体がもたんわい…ミト、里を頼むぞ?」
「……はい!」
そうして、大人達にババ様は運ばれていった…
「私が里長…」
「頑張んなよ?」
「当たり前だよ!私はババ様の一番弟子!他の大人に負けないくらい強いんだから!」
あたしはひとつ決めたことがあった。
「あたし、決戦までここで修行するよ…」
「ほんと!?やったー!私も姉さんの修行の手伝いするね!」
「あんたは里長の仕事があるでしょ…ってそういえばミトもビースト使いでしょ?相棒は?」
ミトはニヤッと笑いあたしの後ろを指差す
「その小さめの山見てて?」
「え?」
里のすぐそばにある標高200mほどの山、山のどこかにいるのかと見ていたその時…
ドドドドドド
地面が揺れる。まさかと思った時にはその顔が見えていた。
「山亀、乙姫ちゃんだよ!」
「え?ええええええええ!!?」
ずっとひっかかってた、一番弟子にしてもあたしより年下のミトが里長に選ばれるなんてと…だけどこれを見てそんなものは吹き飛んだ…この子天才だ…
ミトは驚くあたしを見て照れながらもドヤ顔を浮かべていた…
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ではまた次回でお会いしましょう〜