間章 第1節「追憶のマザー」
ー某所
ソファでうなだれたままのセリカの横にセレナが優しく座る。
「セリカ、あんたに話しておくよ…母さんが死んだ時…この世界が崩壊しかけた時何が起きたのか…」
「……」
◆◆◆
120年前ー
とある家のドアが勢いよく開く。そして、女の子が1人飛び出てきた。
「パパ!はやくはやく!」
「そんなに急がなくてもいいだろう」
「だって!今日はマザー様のところへ行くんだよ?急がなくちゃ!」
「サクラは本当にマザー様が好きだな」
「うん!だって優しいしおっぱいもおっきいもん!」
「あんまりそういうことを大きい声で言うんじゃない…」
女の子とその父親は車に乗りある場所に向かう。
2時間後、彼らは聖地ウルファルスに到着する。
「さっ!行くよ!」
「はいはい」
2人はウルファルスの神殿へと入っていく。
父親は神殿内のとある壁に手を触れる、すると壁の文字が順番に光りそして次に2人を光が包む。その瞬間2人は消え、聖域ウルファリオンの神殿にワープしていた。
ウルファリオンの神殿に着くやいなや走り出す女の子。
「マザー様!」
そこで待っていてた女性に女の子は抱きつく。
「サクラちゃん、こんにちは」
女性は優しく微笑み女の子を撫でる。女性の名は“マザー”この世界の調停を図るために神に遣わされた人間。
「お茶をいれましょうか、カシュウさんもどうぞ」
「いつも娘がすいません」
「いえいえ、私もサクラちゃんと会えるのを楽しみにしてますから…ヨシヤさんお茶を用意して」
そういうと奥から男が1人顔を出し「はい」と一例して階段を降りていった。
「彼もすっかり神殿の守人ですね」
「えぇ、私に拾われた恩は必ず返すと言ってもう何年になるやら…とっくに恩は返してもらいましたのに」
そんな他愛のない話をしながら一行は部屋に入る。そして、父親と女の子とマザーはお茶を飲みながら談笑をした後、神殿の地下に降りていった。
特殊な術式を解き階段を降りたそこにあるのは、巨大な球体。圧倒的な存在感、近くにいるだけで息が詰まる、それは淡く光を放ち自転している。
「少し待ってくださいね」
マザーはそう言うとその球体に向けて両手を広げる。するとマザーの手の中で結晶が出来上がっていく。
「はいっ魔力結晶です」
マザーは父親に魔力結晶を渡す。
「ありがとうございます、この世界のために使わせていただきます」
「マザー様もお疲れ様!」
「はい、ありがとう」
そうして、月に一度の魔力結晶の供給を終え。親子は帰路についた…
ーその夜、神殿地下
時計が0時を指す頃階段を音もなく降りる人影。術式を突破し階段をさらに降りる。
「フッフッフ…準備は整った…この力は私のものだ…!」
コアに近づく男の影…男はコアの周りに術式を描き始めた。
「ヨシヤさん何をしているのですか」
男はユラリと階段を降りてくるマザーを見る。
「これはこれはマザー様、もうお休みになられたのかと」
「この階段の術式が解かれたと思い来てみれば、あなたそれ以上コアに近付いてはなりません!」
「残念ですがそれはできない相談ですね…あなたに助けられ確かに最初は恩を返そうと思ってこの神殿の守人をかってでました…ですがこの神殿にある書物や遺物を見て世界の仕組みや全貌を知った私の気は変わりましたよ…このコアの力を手に入れ全世界を私のものにするとね!」
ヨシヤは腕を大きく広げて笑う。
「あなたを少しでも信用していた私が愚かでした、調停者の名においてあなたを排除します!」
マザーは光のムチを作り出しヨシヤに向けて放った。
◇◇◇
「パパ!パパ!」
突然飛び起き、横で眠る父親を起こすサクラ。
「どうしたサクラ…」
「コアが危ない!神殿に行こう!!」
「え!?」
父親もそれを聞き目を覚ますが一瞬冷静になる。
「夢じゃないのか?」
「何言ってんの!“神の器”の私が言ってるの!早く!」
そう言ってサクラはベッドから飛び降りた。
◇◇◇
「きゃっ!!」
ヨシヤに向けて放ったムチはその手前で弾かれる。
「言ったでしょう、ここの書物を読んだと…私だって気術士だあそこに書いてあった術はある程度使えるんですよ」
「では、分かるでしょう私への抵抗は無駄だと」
マザーの身体の周りに浮かぶ紋様、圧倒的なオーラを放ちヨシヤを睨む。
「私が使うのは神力、あなたでは到底及ばぬ神の力」
その瞬間ヨシヤの足元の地面から光のツルが現れヨシヤを雁字搦めにし壁へ叩きつけた。
「ぐふっ!」
「術式は消させていただきます」
「残…念…術式はもう完成してるんだよ!」
すると、コアの周りに描かれていた術式が光り始める。
「うっ!やめなさい!その力は並の人間が扱える代物ではありません!」
光のツルのひとつが鋭く針のようになりヨシヤの心臓を貫こうとする、が
「もう遅い!!」
そのツルは弾かれ、ヨシヤにコアから力が流れる。
「あぁ…そんな…」
「ははハハハはハハ!!こレが世界のチカラ!!」
ヨシヤは力を実感し悪魔のような笑い声を上げる、しかし…
ピシッ…
「ア?」
ブチッバチッ
「嗚呼アアあああア!!??」
ヨシヤの身体は肥大し身体のあちこちが悲鳴を上げる。
「言ったでしょう…並の人間では扱えないと…」
四肢がもげ、首があらぬ方向を向く。もはやヒトの形を成してはいなかった…
「くっ…!なんと愚かな、今楽に…」
マザーは光のツルでトドメを刺し、術式で完全にヨシヤを消滅させた…
だが、それで事は終わるはずは無かった…
「これは、まずいですね」
マザーの目線の先には不純な者から触れられた影響で黒ずんでいくコアの姿だった。と、その時
「マザー様!!」
危機を察知し駆けつけたサクラとその父親カシュウが現れる。
「あなた達!」
「サクラがコアの危険を察知して駆けつけました!これは一体…」
マザーはことの経緯を説明する。
「あの男が…」
「私の甘さが原因です…彼をもっと早く…」
「そんなことよりも!コアはどうするの!?このままじゃもしかして…」
「えぇ…崩壊が始まる…」
崩壊…コアがなんらかの影響で力を無くすと起こる言わば世界の終わり、終焉…それが今まさに起ころうとしていた。
神殿が揺れ始める。
「うっ!マザー様!何か手はないんですか!」
「…代替のコアを作るしか策はありません…」
「代替のコア…?」
「えぇ、ですがそれをするには…」
マザーはとても申し訳なさそうな顔でサクラを見つめる。
「神の器の体がいるんです…」
「私の体…」
「はい…崩壊を防ぐ最終手段、神の器を媒体として気力・魔力・神力を結晶化…その超高密度の力の結晶を代替のコアとします…そして、ここには丁度神の器と魔導士と神の使いがいます…」
3人の間に沈黙が訪れる、しかし、それを破るコアの衝撃波…
「私やるよ…」
「……っ」
「サクラ…」
カシュウとマザーは歯を食いしばる。
「だって私じゃなきゃダメなんでしょ?私は神の器よ?この世界を守れるなら本望…」
サクラは少し俯いたまま込み上がってくるものを飲み込む…
「マザー様やパパがやらせるんじゃないの!私がやるって言ってるの!!」
カシュウはサクラを抱きしめる。
「こんな小さな体でなんて大きなものを背負って…」
カシュウの頬を涙が伝う。
「パパ、ごめんね…ママの分まで私生きるって言ったのに…パパを1人にさせちゃう…」
「いいんだ…お前を守れないパパを許してくれ…愛してる…」
「うん…私も…」
残酷にもコアは大きな音を立て、衝撃波が一層強くなる。
「パパ、マザー様!やろう!世界を守らなきゃ!」
3人はコアを前に並び立つ…
「方法を説明します、サクラちゃんは気力を放出、魔導士であるカシュウさんは、私がコアの力を徐々に魔力に変換しますそれを受けサクラちゃんへ放出、私はさらに神力をサクラちゃんに放出しながらその3つの力を結晶化させます!魔力量が多くなりますが問題はありません」
サクラがカッと目を開く。
「準備オッケーだよ!いつでもきて!」
サクラは震える体にギュッと力を込め一歩前に出る。
そうして、気力を放出し始めた。
マザーはコアへ魔力変換の術式を発動させカシュウへ流す。そして、自分は神力を放出しながらサクラを中心として結晶造り始める。
カシュウは左手でコアからの魔力を受け、右手から魔力を放出する。
「カシュウさん!コアからの魔力は体内に滞らせてはいけません!入れた分全て出してください!」
「はあああぁぁぁぁ!!!!」
サクラを完全に結晶が包む。カシュウは歯を食いしばり、涙を流しながらそれでも魔力を放出し続ける。
数十分後、汚れたコアが縮み、結晶はかなりの大きさに成長、代替のコアに相応しいオーラを放っていた。
「カシュウさん!後は私が…!」
そう言ったマザーの体は痩せ細り、震えていた。
カシュウはマザーを支えに行こうとするが力が入らず倒れてしまう。
「マザー様!」
「最後の仕上げです!あああぁぁ!」
結晶の周りに紋様が浮かび上がり、神々しい光を放つ。しかし、崩壊が止まる気配は無かった…
「何故です…っ!まさか!」
マザーが縮んだコアを見るとそれは真っ黒に染まり先程より強い衝撃波を放っていた。
「あれを消滅させなければ…うっ…!」
マザーが膝をつく、マザーの力も限界が近づいていた…
「くっそぉ!!」
カシュウは震える足を叩きながら立ち上がりコアだったものに飛びかかった。
「カシュウさん…!」
カシュウは衝撃波を全身で受け止め、コアに直接術式を書き込む。
「これでどうだぁ!!」
カシュウはコアの力を吸収し始める、不思議なことにカシュウの体はヨシヤのようにはならずコアを全て吸収し切った…その瞬間、結晶が大きく輝きを増す。
その光は神殿を駆け、地上へ放たれる…崩壊しかかっていた世界を徐々に抑えていく。
「崩壊が…止まった」
カシュウは結晶の中で眠る娘の姿を見る。
「やったぞ…サクラ…お前のお陰で世界が救われた…!」
その時、ドサっと何かが倒れる音がする。
「マザー様!」
カシュウはまるでミイラのようになってしまったマザーを抱える。
「よかっ…た…成功…しました…あなたが…コアを受け入れられたのは…魔導士でかつ先程…コアからのエネルギーを体…に通していたからでしょう…よかった…」
「それ以上喋ってはいけない!」
「これ….を…」
マザーは鍵を取り出す。
「神…殿の…ある部屋に…私の力を…継ぐ…子達が眠っています…どうか…あの子たちをお願いします…そしてこれからも…この世界のために生きてください…“月永カシュウ”さん……」
そう言ってマザーは力尽きた…
「そんな…マザー様!!」
彼、月永カシュウは打ちひしがれた…しかしマザーから受け取った意思を継ぐため、鍵を手に神殿のとある部屋を開く。
「ここは…」
そこには、3つのカプセル…そしてその中には女の子が3人…それぞれ“セレナ”“セリカ”“ステラ”と名付けられているようだった。
「彼女たちがマザーの子ども…」
カシュウはまず長女と書かれたセレナのカプセルのボタンを押した…
◆◆◆
「そうして私が産まれた…メビウスさん、いやカシュウさんは私たちを育ててくれて、この家もくれた、あんたやステラが物心つく前には出て行っちゃったけど」
「たった1人のせいで世界が崩壊しかけてたった3人で世界を守ったの…?それにセリカとんでもない勘違いを…」
「あんたには昔一応伝えはしてたけど…どうやら随分勘違いしてたみたいね」
セリカは壮絶な過去に戸惑いを隠せずにいた。
「私は調停者の力を使って過去を見たわ、カシュウさんに言われてその過去をね…そこには母さんからのメッセージもあった、私は母さんの言う通りあんた達を育てたよ、魔法があったからそんなに苦じゃなかったわ、過去を見れば母さんに会えたし…」
「待って…」
セリカがセレナの話を止める。
「その、月永って…」
「月永カシュウ、またの名を魔導士メビウス…旧コアの残りを吸収して無限とも呼べる魔力を手にした男。あの月永ヒロトは月永カシュウの弟の家系よ…なんの因果か今は彼が神の器になってる…運命ってほんと不思議よね〜」
「……」
「もうひとつ」とセレナは指を立て話を続ける。
「あんたも知っての通り、エデン…月永サクラはまだ生きてるわ、それもしっかりね。彼女は結晶内の気力と神力を使って命を保ってる…魔力は今と同じで魔導士の体じゃないと扱えない、だからあのコアは高密度の魔力結晶になってるのよ」
「確かに…」とセリカは頭の中の点と点を繋ぐ。
「これから何かもっと大きなことが起こるわきっと…だからこそあんたに話したのよ慎重に行動して欲しくてね」
セリカはいつになく真剣な表情を浮かべる。
「…さっ掃除手伝って?しばらくやってなかったから」
「え?」
「根詰め過ぎてもだめよ、1年猶予はあるんだから…さぁさぁ掃除掃除〜」
セレナは動かないセリカを引っ張り、家の掃除を始めた。
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ではまた次回でお会いしましょう〜