第四章 第23話「ワルプルギスの夜~夜明け~」
「ふんっ!!!」
サブサイド第3支部第1隊隊長、郷田コウイチロウが中型の自然の怒りを吹き飛ばす。
「これで最後か?」
斎條レイコ支部長が全員に号令をかける。
「全員の無事を確認しろ!動ける者は残党の捜索を始め!念のため街も捜索しておけ!小型中型が入り込んでいる可能性はある急げ!」
次はインカムに向かって話しかける。
「カスミ、救護班をここへ。あと清水を街へ行かせろ残党の捜索にウィルスマーカーの能力が要る。他の支部との連絡も取り続けろ」
長内第2隊隊長がメモをめくりながら郷田隊長が吹き飛ばした消えていく自然の怒りを見て言う。
「これで、あの時の数体の人工の自然の怒りがある一方向へ進み続けていた謎が解けましたね…」
それに斎條支部長が応える。
「あぁ、この大量の自然の怒りを送り込む準備をしていたようだな」
「しかし先ほどのメビウス第4支部長からの言葉…彼らは負けてしまったのですね…それに、安堂くんの姿も見当たりません」
「安堂や第4隊の捜索はこちらが落ち着いてからでないとどうにもいかん、やはりセリカの話に乗ったのが間違いだったか…」
暗かった空が徐々に明るくなっていく。
「ひとまず、夜明けは迎えられたか…」
◇◇◇
ー神殿最深部ー
解読班を読んだソレイユはそれの到着を待つ前に術式をいじり始めた。
「…っ!なんだこれは!」
「あんまりイジると〜解けなくなっちゃうかもよ〜?」
「エクレール、お前は解けないのか」
また1人サキュバスのような女が増えた。
「ん〜そうね〜」
エクレールと呼ばれた女が術式に手をかざす。
「あらっすごぉ〜い❤︎」
「なんだ」
「完全完璧彼自身のオリジナルの言語を使ってるわ、まずはそれを解読しないと無理ね〜それは専門外だわ〜」
「チッ…エクレール、あいつらを動かなくしておけ」
あいつらとは私たちのことだった。
「はぁい」
そう言ってエクレールが近付いてくる。
「あらグラソン、失敗したのね」
「…き…づいてた…の…か」
「あら、私を誰だと思ってるの〜?」
「…くっ」
「私たちをどうするの?」
エクレールは私に顔をずいっと近付ける。
「ふーん可愛い子ね❤︎心配しなくても取って食おうなんて考えてないわよ。言葉通り動けなくするだ〜けっ❤︎」
次の瞬間ピリッと身体に電流のようなものが流れる。
「立ってみなさい?」
その通り私は立とうと足に力を入れるが…
「動かない…!」
「そういうこと〜じゃっ大人しくしててね〜」
しばらくしてまた魔導士が何人が現れ私とグラソンと神島本部長は何処かへ連れていかれた…
◇◇◇
「何処だここ…」
突然景色が変わったかと思うと俺は全く見覚えのない場所に連れてこられていた。
「ここに来れば一旦は大丈夫じゃろ、ヒロト起き上がれるか」
「立てはしねぇな」
よいしょと痛む身体を持ち上げあぐらをかく。
「なんで、じぃちゃんとチョコまでいるんだ意味がわからねぇ」
「説明は…」
「我からしよう」
俺は聞き慣れない声に周りを見渡す。しかし、それらしき人影はいない。
「誰だ今の」
「我だ」
その声の後、チョコがトコトコとこちらに歩み寄ってくる。
「………」
なんとなく久々に見るチョコを撫でる。
「撫でるな」
「………????」
「物分かりの悪い小僧だ、喋っているのは我だ」
その瞬間やっと俺は理解する。
「チョコが喋ってるーー!!!!!??」
「我はチョコなどという名ではない“犬神”だ」
「どういうことだ!なんで喋れるんだチョコ!!」
「チョコではない犬神だ」
「意味がわからん!なんだ犬神ってチョコ!」
「チョコと呼ぶな!!!!」
興奮する1人と1匹の間に一瞬の間が生まれる。
「…犬神?」
「…そうだ、我はこの世界の守護神、犬神だ」
「バカ言えよだってお前は俺が小さい時に拾ったただの黒い犬だぞ」
「お前が拾ったのではない、我が近付いたのだ神の器であるお前に」
「っ!」
神の器…その言葉に少したじろぐ…
「実はお前が気術を発現…つまり神の器として生まれた瞬間、我の魂を宿していた神獣の寿命が尽きたのだ…そうして仕方なくお前が神の器として我の魂を扱えるようになるまでこの犬の身体に乗り移ったのだ」
「……」
「しかし、お前が神の器に相応しい力をつける前にこの緊急事態となったわけだ」
俺にひとつの疑問が浮かぶ。
「でもよ、俺の前の神の器はあのエデンって子だろ?あの子はあんな小さかったぞ」
「あれは天才という他あるまい…生まれ持っての神の器、気術を得た瞬間から失った気憶、世界、神を理解し我の魂を扱えるほどの力を持っていた…それ故にああやってこの世界のコアの代わりが出来ているのだ」
「そんなのありかよ……それで、俺は何をすればいい」
「力付けるそれだけだ、正直言って魔導士なぞ捻り潰す程の力が無いと困る、奴らはいわば前座なのだからな」
「前座?」
「直に分かる、さぁ立て骨折は今治した行くぞ」
俺に背を向けチョコがトコトコと歩いていく。
「すっすげぇ…ほんとに治ってる…!それで、どこへ行くんだ?」
「魔境…禁足地…地獄…様々な呼び名で呼ばれておる場所じゃ、わしも遠目からしか見たことはないがあれはまさに異世界じゃった…」
じぃちゃんが神妙な面持ちで答える…
「光があれば影もある…この世界の闇や影、黒い部分が結集した地、その名は“歪みの神域”…そこは定期的に浄化せねばならん、神獣の寿命が尽きた今お前に浄化を頼みたい」
「浄化って何をすれば」
「自然の怒り、幻獣…とは違うがそう言って差し支えないだろう、そこで歪みによって発生するそいつらを倒し続ける、それだけだ」
徐々に周りの景色が暗くなってきていた。枯れた木や草が増え空気は淀み、水は黒く濁っていた。
「さぁ着いたぞ、この結界をくぐれば歪みの神域だ。我はお前に死の危険が迫った時だけ手を貸そう死んでもらっては困るからな、それ以外は一切手出しはしない…いいな」
俺はチョコをわしゃわしゃっと撫でる。
「それはもう慣れっこだぜチョコ」
「撫でるな!!チョコと呼ぶな!!」
俺は興奮するチョコを見て笑いながら結界の奥を見る。
「体が勝手に震えやがる…」
「ヒロト…」
じぃちゃんが何かを持って俺の前に立つ。
「これを持っていけ…わしの最高傑作じゃ」
「これは…!鬼丸!!」
それは綺麗な装飾をされた刀身のない柄だった。俺はこれに見覚えがあった。
昔からじぃちゃんの工房の奥に飾ってあった機械柄、よく自慢話を聞かされていた…
「いいのか?」
「あぁ、どの道お前にやるつもりじゃったからな…頼んだぞ」
俺はその鬼丸をぐっと握りしめ、結界を通った…
第四章「王都反逆」phase1 fin…
Continue to the next phase…
ファントムブレイヴを読んでいただきありがとうございます!
興味を持っていただけましたらブックマーク、評価等してもらえると励みになります!
さて、今回で第四章“phase1”が終わりになります…第四章はphase1と2、そしてその間の間章からなる章になっております。
なので次話は間章の1つ目、修行に出た主人公達の様子を各1話ずつ書こうと思っております。
ということでまた次回でお会いしましょう〜