第四章 第22話「メビウスの賭け」
ワルプルギスの夜が始まった30分後、某所
「おっぱじまってるなぁ…」
調停者セレナは空中に映し出された映像を椅子にどかっと座りながら見ていた。
その時、背後のドアが開く。
「…おはよぅ」
「ん?ステラ今起きたのか、セリカなら今いないぞ」
「…え?」
予言者ステラが目をこすりながら頭にハテナを浮かべる。
「セリカいないのぉ?でも…ステラ、一度セリカに起こされた気がするんだけどぉ」
その途端セレナの眉間にシワが寄る。
「ステラ、それほんとか…?」
「ぅんだと思う…」
セレナは椅子を跳ね除け立ち上がる。
「あんのバカッ!!やたらと自信があったのはこれかっ!!!」
魔力結晶をひとつ取りセレナは外へ向かう。
「ステラ、留守番頼むわね」
「ぅん」
セレナは魔力結晶の魔力で魔法を使いセリカを探しに消えた。
◇◇◇
数分後、聖地前平原高台
「…いたっ」
セレナは高台の上で座り込むセリカを見つける。
「っ!…セレナおねぇちゃん…」
「…セリカ」
セリカは今にも泣き出しそうな顔でセレナを見つめる。
「あんた、ステラを起こしたでしょ」
「…!…うん…」
「少し前にステラが起きてきた、あんたに途中で起こされた気がするって」
「途中まででもいいから予言を聞こうと…」
セリカは俯きながら言う。
「バカが!!」
「ひっ!」
「ステラの予言は時系列や話の組み立てに時間がかかるの、そんな途中のバラバラの予言を聞いたって意味ないのよ…あんたにはもっと言い聞かせておくべきだった、母さんに怒られるね…」
セリカはわなわなと震える。
「この世界が崩壊しちゃう…セリカの所為で…」
「かもね」
セリカの頬を涙がつたう。
「でも、メビウスさんがいる。今回ばかりはあの人に頼るしかないね」
セレナは眉をひそめ、聖域の方を見つめた…
◇◇◇
業火と共に何がか落下し地面を転がった。
「きゃっ!!」
神島本部長と一緒に階段を降り最下層にいた私は思わず悲鳴を上げてしまった。
「グラソン!!!」
落下してきたのはグラソンだった、私は駆け寄ろうとするが階段をソレイユが降りてきた。
「ギリギリ防御はできたみたいだなグラソン…もう虫の息だが」
ソレイユとその後ろには黒い修道服を着た女がいた。
「増えてる…2対1じゃ無理だったんだ…」
「…っわ、わしが行く…!!」
壁に寄りかかり座っていた本部長が立ち上がろうとする。
「ダメですよ!」
「ふっ…神島の本部長もグラソンもそこの女も戦力外、とすると後はお前だけだ…メビウス」
超高密度魔力結晶の前に立つメビウスさんが振り返る。
「ソレイユよ、何が何でもこの世界のコアを奪うというのだな」
「当たり前だ、そして我々魔導士が全世界を統べる」
「そうか、私もお前と戦い止めたいところだったが…私には魔力はあるが力がない…そこでだ」
メビウスさんがバッと両腕を広げる。
「最大限お前達の足止めをしよう、そしてこの世界の彼らに賭けるっ!」
その時、メビウスさんの背後から超高密度魔力結晶を覆うように複雑な術式が展開していく。
「なに!?」
「…これより超高密度魔力結晶“エデン”を封印する!」
「クソっ!メビウス貴様ァ!」
ソレイユがメビウスさんへビームを放つ、がそのビームはメビウスさんをすり抜け背後の展開しつつある術式に触れ弾けた。
「!?」
「残念だが私の肉体は既にこの術式の媒体となっている、お前達が見ているこれは思念体だ」
「なん…だと…!」
「魔導士は各世界に1人、そしてその1人はその世界のために魔法を使わなくてはならない…私は、ソレイユお前が生まれその1人から外れてしまったかもしれんが、やっとその責務を果たせる」
そう言うとメビウスさんの思念体はすぅっと消えていく。その瞬間頭の中に声が響く。
「聞こえるか、サブサイドの戦士達よ…我々は敗れ魔導士軍をエデンの目の前まで近寄らせてしまった、私は最終手段として準備していた術式を使いエデンを封印した…」
各地のサブサイドのメンバーの脳内にメビウスの声が流れる…
「しかし、この封印も長くは保つまい。奴らはすぐに解除にかかるだろう…保って1年…1年あれば奴らは確実に封印を解く、これは私の賭けだ…1年後この世界を再び守ってくれ…頼んだ…!」
そこでメビウスの声が消える…
「デス!すぐに解読班を呼べ!」
ソレイユは術式に拳を叩きつける。
「…やってくれたな…メビウス!」
◇◇◇
俺は目を開ける
「ショウスケ様!」
「1年か」
「…さっきの、私たち負けたんですね…」
リサは俯く。
「あぁ、けど1年ある…正直今のままじゃ兄貴には勝てなかった」
俺は立ち上がり拳を打ち付ける。
「上等だ!1年後必ず兄貴をぶっ飛ばす!!」
◇◇◇
「1年か…」
僕は風に吹かれながら胸の前で拳を握る。
「この封印の謎を解くのと力をつけるには十分だね…!」
明るくなり始めた空を背にダイチは進む。
◇◇◇
「……1年、あってもリヴァイアは…」
あたしはうなだれ、膝をつく…
「…でも、ずっとこんなじゃリヴァイアに示しがつかないね…」
あたしはある場所へと歩き出した。
◇◇◇
「惨敗だな、みんなは無事だろうか」
俺は未だ動かない体で平原に倒れていた。
「なにをしておる、ヒロト」
「っ!?その声は!」
突如聞こえたその声に驚き声のした方を見る。
「じいちゃん…とチョコ!?」
そこにいたのは俺の祖父、月永ケンスケと愛犬のチョコだった。
「何してんだよこんなとこで!」
「それはこっちのセリフじゃバカタレ!とにかく今は場所がまずい移動するぞ」
「え?」
そういうとチョコが俺に近づき手で俺に触れた。その瞬間、周りの景色が一瞬にして変わった…
そして、その直後ヒロトが倒れていた場所に降り立つ光…
「…少し遅かったか」
その光は舌打ちをした後、またどこかへ飛び去った…
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ではまた次回でお会いしましょう〜