第四章 第17話「価値もない」
確実に俺は翻弄されていた。
やつはゆらりゆらりと先ほどより強く吹き始めた風と共に読めない動きで斬撃を飛ばしてくる。
「鬱陶しい!!」
俺はやつの斬撃を全て弾きながら一気に間合いを詰める。
「残念だが、そこから先は暴風域だぁ」
「っ!!」
突如吹く突風、まるで蹴り上げられたかのように俺は吹き飛ばされた。
「外套機械籠手・空!!」
ジェットパックのように背中に機械籠手を造り圧縮空気を噴き出しながら空中で体勢を立て直す。
「そういえば…名を名乗っていなかったなぁわっちのコードネームは“ルヴァン”…風の魔導士だ」
「ご親切にどうもっ!!」
空を上空へ向け、ドンッという音と共にルヴァンへ急降下する。
「七天抜刀…!!」
刀身のない柄を造り左の手の鞘に合わせ、剣を抜く。
「風天【極】!」
「カマイタチ」
ルヴァンは何もないところを数回斬る。数秒後、その技名の意味を俺は知ることになる。
一瞬、左で鋭い風の音がした。そちらをチラッと見た時には俺はバランスを崩しきりもみのように地面へ落下した。
「くっ!?なんだ!」
俺は背中を見る、そこには本来なら2つあるはずの空が1つしか無かった。
「まさか…カマイタチ…そういう意味か、見えない風の斬撃…」
しかも、この外套機械籠手を俺から引き剥がす威力と繊細さ…ルヴァン、やつは何回剣を振るった?今どれだけのカマイタチが飛んでるんだ…
「っ!!」
右で風を切る音、その次は左、そして背後ギリギリを斬撃が飛んだ。
遊んでやがる…野郎…ふざけやがって
「遊んでられるのも、ここまでだぜ…機械変靴!」
足に造ったのはこの1ヶ月で思いついたブーツ型の機械籠手、できることは空と同じだが地上での機動力は空を遥かに凌ぐ。
俺は機械変靴を動かし地を蹴る。
「ほう、速い」
「この辺りだな!暴風域は!」
俺は風天【極】を構え先ほど吹き飛ばされたあたりへ剣を振るう。
「風間切除っ!」
風天が暴風域を裂く、そして俺にはしっかりと見えていたルヴァンへの無風の道が。
一瞬で間合いを詰める、しかし四方から風を切る音。
「無駄だ」
その音は俺に触れる直前で消える。
「なんだと?」
ルヴァンの剣と風天がぶつかる。
「なぜカマイタチが消えたんだぁ」
「教えねぇよ」
そう、風間切除は風を斬る技じゃない、無風の空間を作る技だ。当然風の斬撃、カマイタチは風がなきゃ存在できない
だが、問題はここからだ…結構なスピードで詰めたんだがな、受け止められた…それに風間切除はそう長くは効果は続かねえ、一気にいかないと!
「そうかぁ、ならば…」
「!?」
鍔迫り合いをしていたが俺は押され始める。
「ぬん!」
「なに!?」
ルヴァンは剣を振り切った、俺は耐え切れずに背後へ飛び退いた。
「どうしたぁ?わっちはただ剣を振っただけだがぁ?」
なんだと、この重みが振った“だけ”だと?
見るとルヴァンは魔法陣を展開していた。
「トルネィド」
その言葉の後に地面のいたるところに魔法陣が現れる。そして、その上で風が起きだんだんと成長していく。遂には50mほどの竜巻があちこちで発生していた、風が乱れ吹く。
俺は風天をしっかりと握り身構えた。
「一体何をする気だ…」
ルヴァンがゆらりと揺れた…ように見えた…
「っ!消えた!」
「消えた…と言う表現は変だなぁ」
「!?」
背後…俺は間に合わないと即座に腕に影をコーティングし剣を受け止める。
「ぐっ…!どうやって…!」
「わっちは風に乗っただけさぁ…ふん!」
俺は吹っ飛ばされた、ルヴァンはまたいなくなっていた…まずい、俺は即座に立ち上がり機械変靴で走り出す、どこにいるかがわからねぇ…この竜巻がなんかしてるのか?
「遅いなぁ」
「!!」
ルヴァンが目の前に現れる。
「この風の中で俺より速く動けるものはいない」
「…じゃあよぉこれならどうだ!!!」
俺は風天を地面に突き刺した。
「大風間切除!!!」
半径100mほどの範囲の風が跳ね退いていく当然竜巻も。そして風天の刀身が割れた、その瞬間眩暈が襲う。
「ほう…」
「ふぅ…夜天【極】…」
俺は新たに剣を引き抜く。
「なんだもっと苦戦するかと思ってたが、魔法も気術と対して変わらなぇな…」
「確かになぁそこはあまり違いはない、だが違うのはその原動力、魔力と気力だからなぁ」
そして、ルヴァンは腕を組みうーんと首を傾げる。
「しかしだぁ、情報によればお前が一番強いとのことだったんだがなぁこの程度か?」
「なんだと?」
ルヴァンは剣を構える、そして足元に魔法陣が現れた。
「なにせお前は、これを防ぎきれない」
ルヴァンの周りに風が渦を巻き始め、剣に纏わり付いていく。
「なっ!まだ風間切除は残って…」
「乱気流・竜螺旋!」
その瞬間、俺を無数の乱れた風の斬撃が襲った…何か抵抗する前に…俺はそのまま倒れた。
「残念だが風はわっちを中心に吹く…わっちが風を産むんだ、この程度でわっちの風は止まん」
ルヴァンは倒れた俺に剣先を向ける。
「お前は殺すなと言われている、ソレイユが何を考えているかは知らないが運がよかったなぁ…まぁ殺す価値もない強さだったが…どの道この世界は崩壊する、そこでこの世界とともに消えるんだなぁ」
ルヴァンは剣を収め歩いていってしまった。
負けた…完全に、何も勝機すら感じず惨敗した…1ヶ月、修行した現に気力切れはしていない…ただそれよりも奴ら魔道士は遥かに強い…“殺す価値もない強さ”その言葉は俺に重く突き刺さった
「終わ…るのか…このまま…」
体が動かない、骨も何本か折れている、俺は立ち上がる事も出来ず目を閉じた…
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ではまた次回でお会いしましょう〜