ダウン症のジョーイ
ニューヨークも7月に入り、本格的な猛暑となった。日本も七夕やお盆の時期だけど、祖母も一人でいて(熱中症)になっていないか、ちゃんと食事もしてるのか・・・いろいろと考えてしまう。80歳の高齢にもなり膝や腰も悪くなっている。怪我でもして寝込んだら・・・しかし、帰りたくてもすぐに帰れる距離ではない。
セギョンもティファニーもあれからどうしているのだろう・・・・
あれだけ、(毎日、連絡するから・・)と言ってはいたが、留学後は全くない。 女同士の関係など所詮、そんなものなのだろうか。
(どうした?愛。元気ないぞ。笑。)
(エリカ・・留学で離れた同級生から全然連絡がこないんだ・・・どうしたのかな・・・)
(あの・・・アイフォン?それ?)
(そう。なんで?アメリカじゃ、使えないの?)
はぁ・・・と言わんばかりの呆れたエリカの表情・・・
日本の携帯電話は、海外に出た場合、(SIM)というものがありそれを解除しなければ使用ができない。しかし、日本のアイフォンはこの(SIM)を解除できないようになっており、現地でプリペイド式かレンタルの携帯を使用するしか方法がない。
(じゃ、私のコレ、全く使えないの?)
(全くというわけではないけど、国際電話料金となるから、すごく高額になるよ。だから愛のお友達も同じ状況なはずよ。)
(じゃ、どうすれば・・・)
(wifi。 うちの大学はwifiが出来るから、みんな、PCから、ツイッターやフェイスブックなどで連絡してるよ。)
(でも、何かってときのために携帯も使えないと・・・)
(だったら、プリペイト式の携帯、購入したほうがいいよ。これなら日本の旅行代理店でも売ってるし。)
(そうか。そういうことだったのか。だからセギョンもティファニーも連絡がないんだ。)
そういえば、マンハッタンに来てからまだ、ロクにアイフォンに触っていない。現地に来て慣れなかったせいもあるが、2人から連絡が来るまで待っていた。しかし、待てど暮らせど一向に連絡どころかメールすらもないから、どうしたかと思っていたのだ。
早速、エリカが自分のPCで教えてくれた。なるほど、wifiなら料金はかからないし、だからみんなPCを持ち歩いているんだ・・・フェイス・ブックで、セギョンとティファニーを探してみた。世界的にも利用者が多いSNS。同じ名前がこれでもか!って出てくる。
(セギョンって、北朝鮮? ティファニーはどこの人?)
(セギョンは韓国、ティファニーはニュージーランド。見つかりそう?)
エリカも検索しながら探してくれている・・・とその時、
(もしかしてこれじゃない?)
どれ? と覗きこむと、
そのページには、(秋田国際大学)とあった。去年、祖母の家で着た浴衣姿がトップページにある。友達という欄を見ると、セギョンもいた。
あった・・・
(そうそう!この2人。)
(じゃ、いいね!を押すから。これで私にも更新があると出てくるから。最新の情報がわかるね。愛のPCにも設定してあげるから。ちょっと貸して。)
そういうとエリカは、あれよ、あれよとフェイス・ブックの設定を始めた。セギョンとティファニーにも友達申請をし後は連絡を待つだけだ。
(ありがとう。本当に。)
(まめに更新してるみたいだから、今夜にも来るんじゃない?)
4月にお互い離れて、もう3か月か・・・現地に着いたらすぐに連絡しようって言ってたけど出来なかったんだ。 早く、2人に元気な姿を見せたい。
(愛、アイス食べに行こう。)
私も、安心したら、甘いものを食べたくなり、エリカと食堂に行くことにした。
エリカは、ペパーミント、シナモン、アーモンドの三段重ね、私はストロベリーとバニラの2段にした。バクバクと削り取るような食いっぷり・・私も負けじとガブついた。 いやぁ、真夏のアイスは格別だ。
PCをいじくりながら、アイスをしゃぶってると・・・
(アイチャン!エリカ!)
食堂でバイトしている、ジョーイが寄ってきた。
(もう、バイトは終わり?)
(ううん、まだ。これからディナータイムの準備もあるから。ちょっと休憩なんだ。)
(なんか嬉しそうね。何があった?)
エリカが聞くと・・・
(ぼ・・僕、おばあちゃんにチーズケーキ作ったんだ。バイトのお給料が入ったら作っておばあちゃんに食べさせてあげるの。)
(へぇ・・チーズケーキ? どれ?上手く出来た?)
(ちょ・・ちょっとわからないけど・・)
そう言いながら、私とエリカに差し出してきた。
(おしゃれな箱じゃない?開けていい?)
エリカが開けると美味しそうなチーズケーキが2つ入っていた。
(食べてみて。おばあちゃんにも持っていってあげるんだ・・・)
私もエリカも早速、ご賞味。
(うん!美味しい。ほんとに美味しいよ。誰に教えてもらった?)
私も、一口。 エリカのいうとおりマジで美味しい。ほどよい甘さとフワっとする口当たり。本当にジョーイが作ったのか?
(チーフに教えて貰ったんだ。だからおばあちゃんに食べさせたくて、一生懸命に作ったんだ。)
ジョーイは、ダウン症という病を抱えている。少し、遅れをとってるがバイトをして生活をしていくだけの能力はある。おばあちゃんは高齢でもあり病院に入院をしており、ジョーイは食堂のバイトが終わると必ず病院に寄りおばあちゃんに会いにいくようだ。
(ジョーイのチーズケーキならおばあちゃんも喜ぶよ。絶対に。)
(ありがとう。エリカはいつも励ましてくれるから。好き。フフフ。)
(今日の帰りに、持っていくの?)
(うん。チーフもみんなも美味しいって言ってくれたから。おばあちゃん、喜んでくれそうだから・・・)
そういうと、ジョーイは、厨房に戻って行った。
(ここマンハッタンにも、ニューヨークチーズケーキなんてのもあるんだけど、あんまり私は好きじゃない。ジョーイの作ったチーズケーキのようなフワッとやわらかくて少し甘いのがいいね。厨房のチーフがそんなの作れるなんて・・ね。)
(でも、おばあちゃんって頻りに言っていたけど、両親と兄弟は?)
(・・・ジョーイの両親は幼いころからいないの。)
ジョーイは生まれつき(ダウン症)という病の障害者。両親はジョーイが生まれた直後、失踪している。ジョーイは施設で保護され、後に父親の母に引き取られ育てられた。障害者支援施設で学び、支援施設を退所後、このルミエラ大学の食堂施設でアルバイトを始めた。ルミエラ大学は障害者を積極的に雇用しており、食堂でも何人か働いてる。それ以外でも校内の清掃や荷物の運搬、事務的な補助などにも仕事をしている人が多い。
ジョーイは今、19歳。私とエリカと同じ年。食堂でも結構、人気がありランチでも評判がいい。その気になるおばあちゃんだが、80歳になる高齢者。これもまた、私の祖母と同じ年だ。体も弱くここ1年は寝たきりになっているらしい。そんなおばあちゃんを気遣ってか、バイトが終わると毎日、病院に会いに行っている。
(でも、おばあちゃん、ここ最近、あまり体調が良くないらしいんだ。)
(なんか病気なの?)
(ガンよ。手術もちょっと・・・ダメみたい。)
(ね、ジョーイと一緒に会いにいってみない?)
(え?おばあちゃんに?)
(そう。私たち、大学でお友達なんですって。)
(愛の気持ちもいいけど・・・かえって迷惑じゃないかな・・・)
(ちょっと、ジョーイに話してみるわ。)
私は、ジョーイの仕事場でもある、厨房に入った。