日本食
(さ、入って。)
エリカのお部屋に初潜入。
(へぇ・・きれいにしてるんだねぇー。)
部屋に入って驚いた。私の想像からして食い散らかしたものがそこらじゅうにあり、たばこ、ビールの空き缶など散乱している、いわゆる(片付けられない女、ゴミ部屋)を想像していたが、机と小さなテーブル、整理整頓された戸棚・・・・部屋にあるのはそれくらいで広くきれいになっていた。
それに、ベットというのがない。アメリカ人には必ずベッドで寝ると思い込んでいたけど・・
(私は布団派よ。笑。日本の布団って柔らかいし暖かいし、夏は涼しいし、最高!お祖母ちゃんからの直伝だからね。)
(妹とか、みんなそうなの?)
(パパとママだけベット。チカとお祖母ちゃんは布団よ。)
アメリカ人が布団を敷いてなんて信じられん。 それにこの部屋の質素さ。私の世代なら、アイドルや歌手などのグッズやポスターなど壁に貼り付けてあったりするものだけど。
(私、ごちゃごちゃしてるの嫌いなのよ。子供のころから。すっきりと何もないほうがいいの。窓もこうして開けといて。風通しも良くしとけば部屋も気持ちいいでしょ?)
なるほど。日本にいるときも、瞳がよく私の家に来て掃除をしてくれたが、エリカを見てるとまるで瞳のようで距離がさらに近くなったような気がする。
ふと、小さな出窓を見ると・・・
(あれ、これは・・・)
(あ、それ? B-29とカミカゼ。お祖父ちゃんが作ってくれたの。)
飾ってあったのは、日本のゼロ戦とアメリカのB-29のプラモデル。
(お祖父ちゃん、戦争のとき、B-29を操縦していたの。日本にも行ったんだ。)
(じゃ、空襲とか原爆とかも?)
(・・・・ま、その話は・・さ。 あ、そろそろディナーだから下にいこう。)
私の祖母もそうだけど、その年代は(戦争経験者)だ。それも当時まだ幼いか、それでも10代、そこそこなはずだ。 仮に10代だとして、戦闘機など操縦できるものなのか・・・
下に降りると、ご両親も祖父母も妹も、テーブルに食事の用意をしていた。
(今夜は、すき焼きだからね。これ、みんな大好きなの。)
すき焼きですか??? 私は、それこそナイフとフォークでワインなど飲みながら、ゆっくりと・・なんて思っていたが、これにはビックリ。
(さぁ、準備できたから。 日本の食事も久しぶりでいいだろう?笑)
お祖母ちゃんが手際よく食卓の準備をしてくれている。
(私も、日本食のときはこれだよ。)
お祖父ちゃんが手にしてるのは、日本酒。
(私はこれ。朝と夜には必ず、食べるの。)
チカがそういって見せるのは、納豆。まじ?
エリカの家族は、みんな日本人だぁ。
(さ、食べましょ。)
お母さんの音頭で、エリカ邸のディナー、スタート。
お父さんもお祖父ちゃんも、日本酒を呑みながら、肉を野菜を卵に漬けて食べ、チカも納豆を箸で混ぜながらご飯の上にのせ、食べている。 エリカも私も、白菜、ネギ、それに肉、遠慮なく頂く・・・
(お祖父ちゃんも日本にいたとき、日本酒を知って、食事も日本のものを食べていたからアメリカに帰ってきたときも、日本食ばかりよ。特にお祖母ちゃんと結婚したからね。
(私も父と母から、幼いころから日本食だから。今でも、この食事は好きなんだ。だからアメリカ人でもジャンクフードは食べないよ。笑)
お父さんも、日本色になっている。
でも、こうして家族で食卓を囲むなんて本当にしばらくなかった。 昔でこそ当たり前の光景だが、今の時代、日本でもそうないのに、このアメリカでは普通にしていることなのかもしれない。
ディナーも終わり、片付けもみんなで一緒にした。食後には、お茶が出てきた。それも日本の(ほうじ茶)。
(お肉とかボリュームのある食事の後は、このほうじ茶がいいの。これもお祖母ちゃん直伝よ。)
(みなさん、本当にありがとうございました。とても美味しかったです。)
私がお礼を言うと、
(何言ってるんだい。愛はもう私たちの家族だよ。エリカとは姉妹みたいだねぇ。)
お祖母ちゃんにそう言われるとちょっと恥ずかしい・・・ ちょっと落ち着いたとこで先ほどの(ゼロ戦とB-29)のことを聞こうと思った。
(さっき、エリカの部屋に、ゼロ戦とB-29の模型があったんですけど、あれは・・・)
(あぁ、あれは主人が戦争のとき操縦していたの。)
(ゼロ戦は?)
(・・・・私の兄。 フフフ。 神風特別攻撃隊よ。)