幕間
「そして――」
その先を聞いた若者達は、顔を青ざめてうつむいていた。
「――この悍ましい蛮行は、男が魔物として討伐される5年後まで続いた」
あまりにも惨たらしい話だった、酷い話だった。
――ああ、これは確かにあの幼く無垢な少女には到底、聞かせられまい。
若者たちの一人、王子よりも少し年上の女騎士がとうとう耐えられなくなったのか顔を蝋の様に白くさせて、口元を抑えその場にしゃがみ込む。
「……そこな女、吐くなよ」
喪服の少女がしゃがみ込んだ女騎士を睨めつける。
「抑えろ抑えろ、私の屋敷をこれ以上汚してくれるな、ただでさえ穢れた血で汚れているというのに」
悪態をつく喪服の少女を、女騎士は涙で湿った目で見上げる。
「だがまあ、安心するがいい。これよりも酷い話はこれ以降にはない。これが女の人生において、最も酷かった時期だからな」
あれだけ悲惨で惨い話を語った少女の顔色は、彼らがこの場に訪れた時から微塵も変わっていなかった。
そういえば、この少女はこの話を寝物語に育ったといっていた。
喪服の少女は王子と同じ年だと聞いている。
そんな年端のいかぬ少女が、自分よりも幼い少女が、こんな酷い話を平然と語り続けている。
それもまた――途轍もなく酷い事なのではないか。
女騎士がその考えに辿り着いた直後に、喪服の少女は話を再開した。
記憶の断片
人間は普通、ある程度壊れると"死ぬ"らしい。
死ぬと身体が動かなくなり、何も感じなくなるらしい。
死んだ後、心とか魂とかいう意識の塊が地獄とやらにいくらしいけど、本当かどうかは誰にもわからないんだって。
そんな事を知ったのはいつのことだったっけ?
思い出そうと思えば思い出せるけど、別に重要なことではないからいいか。
いつ覚えたのかはわからない、だけど知っていた。
生き物は壊れると死ぬ。
だけど私はどんなに壊れても死ぬことができない。
それは私が不死身だから。
壊れても壊れても元に戻ってしまうこの身体を皆は凄いと褒め称えて、羨ましがっていた。
だけど、私からしたら死ぬことができる身体を持つ皆の方がよほど羨ましい。
――ねえ、誰か教えてよ。どうすれば私は死ねるの?
――ねえ、誰でもいいからさあ……私を殺してよ。
教えられた方法で媚を売ってみても、誰も正解を教えてはくれなかったし、誰も私を殺してはくれなかった。