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第5話、魔法は想像力

2015/05/10:ステータスのHPを修正しました

2015/05/15:ステータスのMPを修正しました

2015/05/18:誤字を修正しました

 ダグラスに教えてもらった通り、俺は街の東へやってきていた。赤い屋根の家とやらもすぐに見つかった。


「ごめんくださーい」


 玄関を軽くノックし、中へ声をかける。するとしばらくして腰の曲がったおばあさんが出てきた。たれ目で優しそうな印象を受ける。


「おやおや、珍しいこともあるもんだねぇ。私に何か用かえ?」


「ダグラスさんの紹介で魔法を教えてもらいに来ました。これはダグラスさんから預かったものです。お時間は大丈夫でしょうか?」


「あらあら、ご丁寧にどうも。ちょっと拝見させてもらうわね」


 紙切れを手渡すと、おばあさんはどこからか取り出した老眼鏡をかけて手紙を読んだ。


「確かにダグラスちゃんの紹介のようね。いいわよ、時間はたっぷりあるの。どうぞ中に入ってらっしゃいな」


「お邪魔します」


 ダグラスちゃん……?

 年齢的にダグラスが子供扱いされてるらしい。


 家の中は本で埋め尽くされていた。天井まである本棚は2つとも満杯で、それでも入らなかった本が床に平積みになっている。

 何冊か題名を読んでみたが、どうやら全部魔法について書かれているらしい。


「椅子に座ってちょうだい。今、お茶を淹れるわ」


「ありがとうございます」


 俺は部屋の真ん中にあるテーブル、それとお揃いの4脚の椅子に座った。ほどなくしておばあさんがお茶を目の前に出してくれた。


「いただきます」


 出されたお茶を口に入れる。これ、緑茶だ。


「それで、魔法について知りたいのだったわね?」


「はい。あ、申し遅れました。俺は異世界からやってきました、キーシュといいます」


「この街で薬剤師をしているラーマよ。そう、あなた異世界人なのね」


 おばあさん、ラーマが生暖かい視線を向けてくる。なんだろう、この視線。少しむず痒くなってくる。


 ラーマも俺と同じお茶を飲んで一息つくと、嬉しそうに喋り出した。


「この街は異世界から来たばかりだと大変でしょう。ダグラスちゃんから指導は受けたの?」


「はい。ダグラスさんには良くしてもらいました」


「フフ、あの子も世話好きだものねぇ」


 うん、世間話だな。というかダグラスをあの子って。そしてこの視線、たぶん孫みたいな感じに見られてるぞ。


「あらあら、やだ。魔法を教わりに来たのだったわ。そうねぇ、キーシュちゃんはどの魔法が使えるのかしら?」


 キ、キーシュちゃんか。呼び方なんて人それぞれだけど、これも言われるとむず痒くなってくる。


 えっと、使える魔法だったな。


「一通りは使えるようにしました」


「まあまあ。全部使うのは大変よ?」


「とっちゃったからにはがんばりますよ」


 万器使い(マルチウェポン)の時点で器用貧乏は確定だし、なんならこのままなんでもできるようになったらそれはそれでかっこいいじゃん?


「フフ、やる気があって何よりだわ。なら、攻撃魔法として【火炎魔法】、それと【回復魔法】と【付与魔法(エンチャント)】について教えるわ。他の攻撃魔法は自分でやってみなさい」


「はい、よろしくおねがいします」



『「ラーマの魔法指南」のクエストが発生しています。受注しますか?』

 ⇒ Yes / No



 Yes.

 さて、それじゃあ魔法訓練を始めようか!






「では、まずは媒体を装備してくれる?」


 媒体、俺の場合だと本だな。

 Equipを開く。右手には鎌が装備してあるので、左手に本を装備させる。そして本が出てくるように念じると何処からともなく本が手の中に現れた。


「媒体は魔力を魔法に変換する効果があるのよ。それで、まずは何からやりましょうか」


 一番早く覚えたいのは【回復魔法】だな。有り余ってるMPを使えばポーションなど回復アイテムの節約になるし。

 という旨を伝えるとラーマは、なら【回復魔法】からやりましょう、と言ってくれた。


「魔法は覚えるとレベルによって使える種類が増えるようになるの。今使える魔法はAbilityで見れるわよ」


 ラーマに言われて素直にAbilityの画面を開いた。Abilityは現在、取得済みと取得できる一覧に別れている。取得済みを開き、その中から【回復魔法】を選択してみた。



【回復魔法】

ヒール:一体のHPを小回復する

キュア:一体の状態異常を低確率で回復する



 表示されたのは2つだった。まあ、まだレベル1だし、これぐらいが妥当というものだろう。


「確認できたかしら? じゃあ少し失礼するわね」


 何を失礼するのか、と聞く前にラーマは俺の手の甲をナイフで切りつけてきた。


「いたっ!」


「では、この傷を治してみなさい。コツは元の綺麗な皮膚を想像することよ」


 ちょ、ちょっと待とうぜ。

 何、なんでもなかったかのように話が進んでるんだ? 人が良さそうな、人畜無害そうな雰囲気をしておいて、この人もしかしてかなりスパルタ?


「あら、やらないの?」


 そんな目で見ないでください。もう孫を見ている時の視線だ、なんて言えない。

 やります、やりますからそのナイフをおいてください。


「ヒ、ヒール……」


 体から何かが抜ける感覚を味わう。【魔装月牙】を使った時と同じ感じだから、きっと魔力が減っている証なんだろう。

 予想通り、左のMPバーが徐々に減っている。


 そして、手の甲から傷が消え去るとMPバーの現象は収まった。減った、と言ってもバー全体に対して1割も削れていない。


「ヒールはあまり高等な魔法ではないわ。だから、大きな傷を治そうと思ってヒールをかけると、ものすごく長い時間を使ってしまうの」


 つまりだ、ヒールは回復速度が遅い、だから治すまでに時間がかかってその間ずっとMPが消費されてしまう、ということだ。

 おそらく、ヒールよりも高等な魔法は回復速度が速いんだろう。


「キュアの方は健康的な体を想像して使うのよ。ただ、絶対に治るというわけではないわ。それに、一度キュアを使ってからもう一度使用するのに少し間を置かなければならないの。でないと効果が出ないから気をつけてね」


 ふむ、キュアに失敗すると次に状態異常を治せるまでに時間がかかる、と。


「では、確実に状態異常を治す方法はないんですか?」


「キュアよりも高等な魔法を使うか、薬を服用することね。薬は少し値が張るけど、確実に回復できるわよ」


 なるほど。となると、保険としていくつか状態異常を回復する薬を常備しておいた方が良さそうだ。


「この街で薬は私が扱ってるの。欲しいものがあったら言ってちょうだい。作ってあげるわ」


 でも、お高いんでしょう?


「お近づきのしるしに一つずつあげるわ」


 な、なんと! それはありがたい。

 俺はもらえるものはもらっておく主義です。


「ありがとうございます!」


「喜んでもらえて嬉しいわ」


 そうやって笑顔を見せながら、今度は俺の目の前に一束の弓矢を置いた。


「次は【付与魔法】について教えるわ。さあ、なんの魔法があるか確認してちょうだい」


 言われたとおり、俺は再びAbilityを開いて【付与魔法】を選択した。



【付与魔法】

属性付与:物理攻撃に属性を与える

攻撃強化:一体の攻撃力を増加させる

防御強化:一体の防御力を増加させる



 自分にも味方にも効果がある優れものらしい。これを使えばさらに攻撃力が上がるというわけだ。


「じゃあ属性付与だけやってみましょうかねぇ。この弓矢に風属性を付与してくださいな。付与する属性を正確にイメージするのがコツですよ」


 風をイメージってかなり難しいな。

 木々がさわさわと揺れる様、周囲を巻き込んで立ち上る竜巻、耳を撫でる音。目に見えないけどそこにある、それを俺はいつも感じているはずだ。


「属性付与」


 ふわりと小さな風が吹いた。


「あらあら、お上手ねぇ。風属性は見えないからイメージするのが難しいのよ。そうそう、風属性を付与すると遠くまで飛ぶのよ、投げナイフでも使えるから試してちょうだい」


 ラーマは弓矢をどこかへしまってしまう。すると今度は少し歩いて裏口へ向かっていく。ドアの前で振り返って手招きしているので、俺もそれに続く。


「次はいよいよ攻撃魔法を使ってもらうわ。といっても、キーシュちゃんならできるはずだわ。あんなに簡単に風属性を使って見せたんだもの」


 裏庭と言うには広いスペースが広がっていた。所々クレーターのようなものができているけど、これは何なんですかねラーマさん?


「それじゃあ、【火炎魔法】を使ってみましょうか」


 ラーマが俺を見上げてくる。俺はその視線の意図を理解し、Abilityから【火炎魔法】を選択する。



【火炎魔法】

イグニッション:触れているものを燃やす

スロウ・ファイヤ:手元で発生させた炎を投げる



 レベルを上げればわからないが少なくとも今は、離れたところから着火することはできないらしい。


 今回、ラーマは特に何も言ってこない。どうやら、俺一人でやってみろということらしい。


 魔法はイメージ、想像力が大事。スロウ・ファイヤを想像してみよう。まずは炎を手元で発生させる、とのことだが。そもそもどうやって炎を出すのか。

 魔力が何らかの形で変換されて魔法になるのだとしたら、まずは魔力を右手の掌に放出させる。かなり放出したと感じたら今度は変換機能がある本を意識する。

 何となく本から反発のようなものを感じ、俺は魔法を口にした。


「スロウ・ファイヤ!」


 声と同時に魔力が炎へ変わる。それを掌から発射するイメージを頭に浮かべつつ、野球ボールを投げるように手を振るう。

 炎は球状を保ちながら、俺が投げた方向へ飛んでいった。よし、成功だ。


「あらあら、本当にできちゃったのねぇ。ビックリだわ」


 大して驚いてもいなさそうなラーマは拍手で俺を迎えた。いや、こんな歳になってもやっぱり褒められるのは嬉しいもんだ。


「もうキーシュちゃんなら掴めたと思うけど、魔法はイメージが大事。こんなにすぐにできちゃうのだもの、他の魔法もきっとすぐにものにできるわ」


「いえ、これもラーマさんが教えてくれたからこそです」


「あらそう? 嬉しいことを言ってくれるのね」


 さあさあ、一息つきましょう。と言うラーマさんに続いて家にお邪魔する。すぐにラーマさんは新しいお茶を注いでくれた。


「やっぱり緑茶は美味しいですね」


「ウフフ、そうでしょう? ここの特産品なのよ」


「え、特産品なんですか?」


「ええ。他の地域で飲んでいるところは見たことがないわ」


 緑茶、もしかしてこの街にしかないのか?


「緑茶ってどこで買えます?」


「この街でなら探せばすぐに見つかるわよ。どこも売り出しているから」


 これはあとで買っておかなければ。もしかしたら、緑茶に飢えた日本人プレイヤーが高額で買い取ってくれるかもしれないぞ。


「これからキーシュちゃんはどうするの?」


 ラーマさんはたぶん、世間話程度にその質問をしてきたのだろう。


 俺はこのあとどうしたいか。目標は人族の街へ赴いてパーティーを組むことだ。そのためにはまず、ここから旅立てることが重要だ。

 とすると、少なくとも自分一人で100レベ越えのモンスターたちを倒せるほどに成長しなくてはならない。そのために、一体どれだけの時間が必要になるのだろう。すごく不安だ。


「どうかしたの?」


「いえ。実は人族の街へ行きたいんです。日本人……俺と同じ世界から来た人達がいるはずなんで」


「そうなの。そう、人族の街へねぇ」


 ラーマさんは随分と何かを渋っているように見えた。何か、懸念することでもあるのだろうか?

 も、もしかして、やっぱり敵対してるのか?


「人族の方たちとはあまり仲が良くないの」


 やっぱり!


「それは、戦争したり、とか?」


「あらやだ、そんなことはしないわ。ただ単に交流がないだけよ。それに、一部の魔族は人族と共生しているわ」


 ただねぇ、とラーマさんは言葉を濁した。黙って続きを待つと、ポツリポツリと話し出してくれた。


「人族を襲っているモンスター、それが私たちの下僕だと勘違いしている人族が多いのよ。たぶん、私達が魔物と親しくしているのを見て勘違いしているのね」


「魔物とモンスターは違うんですか?」


「違うわよ。魔物は空気に漂う魔力だけで生きていけるから、生き物を襲うことなんてないの。モンスターは血肉を餌としているから、人族や私達のことだって襲うの」


 なるほど。たぶん、ゲーム的には魔物というのはお助けキャラという感じがする。


「だからキーシュちゃんも気をつけるのよ?」


「ええ、お気遣いありがとうございます」


 さて、そろそろ本格的に活動しよう。

 ラーマにお礼を言って家を出ると、例のピロロ〜ロンという電子音が鳴った。


◇Player's Status

 名前:キーシュ (Lv.4)

 種族:魔族

 職業:万器使い (Lv.2)

 HP:400/400  MP:2980/3050

 Str:30

 Dex:37

 Vit:4

 Int:61

 Agi:20

 Luk:3



◇Ability list

・Weapon Skill

【鎌(Lv.2)】【小剣(Lv.1)】【本(Lv.1)】


・Attack Skill

【投擲(Lv.1)】【魔装月牙(Lv.1)】


・Support Skill

【烏合一閃(Lv.1)】【知力変換(Lv.1)】


・Attack Magic

【火炎魔法(Lv.1)】【水流魔法(Lv.1)】

【地殻魔法(Lv.1)】【風雲魔法(Lv.1)】

【光彩魔法(Lv.1)】【闇夜魔法(Lv.1)】


・Support Magic

【回復魔法(Lv.1)】【付与魔法(Lv.1)】


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