crossingⅠ
転入してから一週間が過ぎた。
何事も無い普通の日常を送りつつ、クラス内での立ち位置もほぼ固まってきた。
しかし、しかしながら1つ気にかかることがあった。
二条千鶴。
彼女だけ、俺と一言も言葉を交わしていない。
特徴は長い黒髪に切れ長の目、鼻筋は通りさくらんぼ色の可憐な唇、主張しすぎない胸部、くびれた腹部、女性らしい丸みを帯びた臀部、身長は160程度。
その佇まいは可憐の一言に尽きる。
まさに大和撫子を体現したような、そんな女性だというのが俺の印象だ。
クラスメイトで最も情報通であろう山内という女子生徒に、彼女の事を聞いてみた。
彼女曰く、「名家のお嬢様で文武両道、テストは常に学年上位を争い、所属している水泳部では背泳でジュニアオリンピックに参加する経験も持つ。
性格は冷静沈着というよりかは氷山を心に宿したような人で、入学当初でこそ多くの男が群がったが、全ての薙ぎ払われた。
今では女子ですら用がなければ敬遠する。」ということらしい。
この時の俺は、よほど退屈でもしていたのか。
それともちょっとしたゲームのつもりだったのか。
理由は定かではない。
長くても半年で転校する予定の俺にとって、この行動は大して意味が無いはずだ。
だが、俺はこの氷山を地球温暖化よろしく、すこしずつ溶かし、あわよくば交友関係を持ってみたいと考えた。
何故だか、そうせざるを得ないような、それが俺に課せられた使命のようにすら感じた。
これが最後の機会だったのかもしれない。
回り始めた歯車を、止めることが出来たのは…。
「よう、ちょっといいか。」
二条は少し眉をひそめながら読んでいた本から目をあげ、こちらを見上げた。