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Prologue〜heroine side〜
それは何のきっかけもなく、不意に訪れた。
いや、訪れたことすらその時には分からなかった。
連日の曇天に、いつ止むとも知れない不快な雨。
この時期特有の、それでいて今の私の心をうつしだしているかのようでもある。
そんな6月、そこから全ては始まった。
いや、すべてが終焉へと向かい始めたのかもしれない。
歯車は少しずつ、回り始めたのだ。
長谷川孝輔。
彼はそう名乗った。
短髪で、少し筋肉質な身体。
それでいて少し知的で、なのに冗談混じりに自己紹介をする。
不思議な空気をまとった人だと思った。
その空気がどこから漂うものなのか、分からなかった。
興味深いとは思った。
しかし調べてまで知りたいとは思わない。
その程度の印象でしかなかった。
この時、既に歯車は回り始めていたのだろう。
しかし、当時の私は、歯車が回り始める時のあの、きし軋むような音に気付けなかったのだ。