異世界1
男は吉人の手首を掴むと何やら呪文を唱え始めた。
「傷ついた者の心を癒す世界へ。この者を導け。希望ある未来へ我を届けよ」
そう言って、男は目の前から右へ一回、そのまま上に一回。そして、そのまま斜め下へ一回。最後に、左から右へ大きく直線を引いた。
すると、その線を光が浮かび上がらせた。
「さあ、弱虫君。一緒に行こうぜ?新たな人生の始まりだ」
「えっ・・・?」
男は強引に吉人を引っ張るとその線に向かって歩きだした。
キランと音がしたかと思ったら、次の瞬間、二人は光に包まれて消えた。
「おーい。おーい」
遠くで誰かが自分を呼ぶ声がする。
しかし、意識を戻すのが億劫なためこのまましばらく意識を失っていることにしようとした・・・。
「おいってば!いい加減、起きろよ!!」
その声の主は、声をかけても起きようとしない吉人に腹を立て、ついに顔をグーで殴った。
「痛ってえ!!」
あまりの痛さに、吉人は飛び起きた。
「起きてるじゃん。最初に声かけた時に起きろよなー」
目の前の彼は、どこか違和感を覚える格好をしている。
どうしてなのかは分からないが。
「まず、殴ったことを謝れっっ」
吉人にそんなことはどうでもよく、本当は謝ってもらっても許せるかわからないが謝ってもらわないと気が済まない。
本気で痛くて、吉人は涙目で目の前の彼を睨んだ。
「な~んだ。全然平気じゃない。メイメイが弱虫君だからなかなか自分を出さないってたから、僕もそれ相応の対応をしようかと思ったのに」
悪びれもせずに男はそう言った。
「だから、謝れっっ。どうでもいいだろっ俺に個性があるかないかなんてっっ」
今、大事なのは目の前の彼が謝るか謝らないかだ。
吉人に個性があるかどうかじゃない。
「あ~悪い悪い。ごめんね~。ちょっとね~。なかなか起きないからさ。何回も呼んだんだけどね」
ちっとも反省の色が見えない。そればかりか、腹が立ったとむしろ逆に吉人に怒りだした。
「一回しか聞こえなかったよ」
「何回も呼んだよ。君、意識を失っていたからじゃない?」
爽やかな顔をしているが、目の前の彼は邪悪なオーラを纏っている。
本当に怒りが積もっているようだ。
「ひっ」
「な~んてっ。大丈夫だよー。僕は、そんなに怒ってないよ。君を試してみただけなんだよ」
にっこりと満面の笑みを浮かべて、怯えている吉人に笑いかけた。
「・・・・・・」
その笑顔があんまりにもウソ臭かったので何も言えなかった。
それに、何か言い返したら余計に怒りを増幅しかねない。賢明な判断を吉人はとった。
(でも、やっぱり俺は人に嫌われるんだ)
初対面のこの彼にも、やっぱり嫌われそうになっている。
だから、期待するだけ無駄なんだ。
「あら~もしかして自虐思考っていうか諦めモード入ってる?」
「えっ」
「やっぱり。メイメイに忠告されたんだよね~。だからさ、大丈夫。俺は、君を決して嫌わない」
「・・・・・本当?」
「ああ。勿論、本当だ。僕は頼まれたからじゃなく、僕自身がそうしたいから君を嫌わない」
さっきとは打って変わって、目の前の彼は雰囲気を変え、真面目な顔して吉人に言った。
新しく出てきた彼は、真黒い男と親友でして。吉人君の事を快く引き受けてくれたんです。
まあ、彼にかかってますね。吉人君が変わるのは・・・。なーんて。今後、どうなるかは私にもわかりません。




