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1万ポイント超え

体を貸して欲しい?永遠にあげますよ

作者: リーシャ
掲載日:2026/08/08

 病院から出てきた時、こんな人生なんだなと諦めと失望が胸を泳いでいた。どうして自分はこんなことになっているのかと自問自答してみたが、単に生まれた家が悪かった。それに尽きるんじゃないか。

 家族から愛というものを受けられなくなったのは割とすぐだ。妹が死ぬかも知れないと生まれたばかりのとき、医者に言われた両親は死ぬのならこの子といてあげなくてはと必死にそばにいる。


 親という点でもう一人の子供をおざなりにして、放置することは褒められたことではない。転生者としては仕方ないからこちら側が大人になって許してあげた。


 別に親に構われなくて死んでしまうような生物ではない。ただ、こちらからの親孝行など恩恵を受けられる権利は、一切ないことと引き換えだけど。


 生まれただけで育てたのは使用人たちであり、育ててくれたお礼は個別にしている。親たちは何ら関与していない。親が子供に教育費を出すのは当たり前だ。

 勝手に生まれたのではなく親たちが決めて産んだのだから育てる責任があることくらい、わかる。フロエラは病院から戻るとベッドにダイブした。


「余命五年……」


 魔力が体のあちこちに詰まって、最終的に激痛が起こる不治の病なのだそうだ。この事を両親に伝えたりなんてしたら、妹にいつもやっているように部屋にすっ飛んでくるのだろうか。

 想像したら笑えてきた。だって、全くありがたくないし嬉しくなかったのだ。フロエラの人生はまさに消費という言葉が相応でピッタリな縮図。誰も助けてくれない、何もしてくれない。なのに、こちらに押し付ける言葉だけは無駄に立派なのだ。


 将来、お前が当主になる時に必要な技量を鍛えるために厳しくしているのだ、と恥ずかしげもなく本来しなくてはいけない執務を押し付ける父。


 姉なのだから、長女なのだから弱い子を守るのが家族として求められる絆なのだ、とキラキラした宝石のようなお涙頂戴ストーリーを垂れ流す母。その割にはこちらのドレスを共に選んだりお茶をしたりしないけれど。


 ごめんなさいお姉様、私が弱いばかりにと聞き飽きたいつものセリフで周りに気を遣わせる己に酔う妹。正直、明日は晴れですねと言われた方がまだ生産性がある。


 執務も女当主の役割も夜会も妹が出たい時だけ、好きなように過ごすと帰りたいと最後まで過ごさず「あとはお願いね」と母はこちらの返事も聞かずに妹共に介護の名目で大切な夜会をもほっぽり出す始末。

 次女とそこまで歳が離れていないことが、母の頭にはないのかもしれない。あとはお願いとは具体的なことを言って欲しいのだが。父に指示を仰ぐものの娘一人にできることなんて父の後ろにつき、挨拶したりされたりする程度。


 妹の役割なんて好きなだけ人と話して、好きなだけ食べ物を食べるだけ。政略のためになにかをしたりしない。スペアは次女ではなく長女なのでは?とクスクス笑う女の子たちの言葉が聞こえて「そうなのかも」と己ごとなのに納得してしまう。


 妹がダメになったら姉がやる。姉がダメになったら誰が代わりをやれるのだろう。何もできない、何かしようとしないあの子に執務も難しい言葉もついていけやしない。

 父と母は次女を生きるお人形にしたいとしか思えないのだけれど、そんなことは一々言わない。こちらだってやることが多すぎて家族のことばかりはやれないのだから。


「そうですか」


 医者に宣告された言葉にそう返して数時間後、フロエラは事実に呆然と立っていた。鏡の前に佇むと今までの人生が走馬灯のように回る。

 親に言っても「じゃあ残りの五年仕事をやれ」と言うのではないかと予想しながら、クスクス笑う。可笑しくて可笑しくて。

 彼らなら言いそうな言葉だ。今更親みたいな仕草で駆け寄られようと抱き寄せられようと嬉しくないなと、想像したらそれだけで十分が終わった。


 使用人が部屋に来て親が呼んでいると言うので、ちょうどいいとくるりと回って彼らのいるリビングに行く。揃っているのならばここで言おう。


「フロエラ、お願いがあるの」


 部屋に着くとこちらが座ってすぐに、病の話を言う暇もなく母が話し出す。珍しく妹が居た。近くに知らない男がいて首を傾げたけれど、商人などだろうと完結させる。しかし、違った。


「一時的にこの子に体を貸してあげて欲しいの」


「……え」


 心が凍りつく。


「貸す?」


「ええ、この子は病弱でしょう?この方が、体の入れ替えができる魔法を持っている方でね」


「は?」


 いくら聞いても意味がわからなかった。


「で、でも、私っ」


「構わないだろ。すぐに戻す」


「す、ぐ……戻す?」


 父が言うので三人家族を見ると三人ともすでに、相談が終わった風に落ち着いていた。は?である。当事者抜きでなにを言い張るのだ。バカにしている舐めている、いや、どうでもいいのだろうな。


 余命宣告を受けたせいで自暴自棄になっていた。けれど、同時にこの人たちは自分の人生にいらないと、きっと見えざる存在がわざわざ教えてくれているのではないか、というタイミングのよさにフッとつい笑う。


「いいですよ!もちろん!」


 前のめりに承諾したら家族たちは三人とも笑い合って喜び合った。四人で喜び合っているわけではない、と永遠に知らないままでいればいい。


「期限は?いつですか?私はいつでもいいですよ!」


 大歓迎の顔で進めると家族たちはなんの警戒もなくペラペラと話す。長くても半年、これ以上長いと入れ替わりが戻らないらしい。ここにいる知らない男が例の魔法使いで、今すぐやってくれるらしい。


「へえ、あなたが」


 男を見ると彼はスッと頭を下げた。ここまで受け入れていると本当にすぐに魔法は使われて、妹と体を入れ替えられた。妹の体を動かすと自分の体だった肉体に両親が群がる。

 今病弱なのはフロエラなのに、だ。それを見て、なるほどと納得した。彼らが好きなのは弱々しいことではなくて可愛がれる次女なのだと。ここまで割り切られて区別されていたと知るともう未練さえない。


「わあ!お姉様!体が軽いわ!」


「そう、よかったわね」


 ところで仕事をするのはあの子になるのかと疑問が過ったものの、こちらの方の虚弱体にさせることはできないから考えるのは三人だ。

 キャッキャとはしゃぐ妹がやはりなにも考えずに体を動かしている。チラッと魔法使いを見るとすでにいなくなっていた。


「部屋に戻りますね」


 体がだるいので言葉をかけるとおざなりな返事が聞こえてきて、内心乾いた笑いを浮かべたがもう親に振り向いて欲しい子供の心はどこにもない。

 余命宣告を受けた瞬間、ありとあらゆる欲が消え失せた。食べたい、寝たい、遊びたい。それを叶えたところで全て虚しいだけなのだから。


 絵に描いたような幼い子供が好む部屋に戻ると、妹付きの使用人たちもいなくなっていた。この体は今現在病弱、いや、虚弱なのに残さないとは恐れ入る。


「私の中身が私でも体が弱ってるのは変わらないってのに」


 今まで通り、長女は頑健で健康で使用人の補佐などいらないと無意識に引き揚げたのだろう。残る人数は必要最低限。使用人たちにお金を用意させ、妹に用意された専用のドレスを全て売り払う。

 どうせ、そのドレスは姉の体型に合わないから半年後となると成長していたり流行遅れなので処分される。今売って旬の時に高く買い取ってもらうのが正しい。


「さて……」


 目をゆったりとさせると、だるい体を押して立ち上がった。


 五ヶ月後、二日間だけ療養の湯に行った次女の体に入った長女がそれ以降行方不明になった。当然、フロエラの両親たちは驚いたがそこまで慌てなかった。


 死ぬような病気ではないと知っているので、羽を伸ばして他のところに行っているだけだと思ったのだ。それに万が一妹と体を交換できなくても妹が継げばいいと簡単に考えていた。その計画と予定が破綻したのはそれから三年後。


「お母様……お父様、体が痛い」


 フロエラの体に入った次女が訴えるので病院に連れて行くと、不治の病が見つかる。三人は唖然となり、長女を今更探したりしたがすでに体の交換不可になっているので探しても無意味であった。それでも体を返して欲しいと新聞の探し人欄に載せたりして、必死になっていく。


「どうした、楽しそうだ」


 声をかけられたかつて長女だったフロエラは、妹の体のままの顔に笑みを浮かべる。他国の病院に行くとあっさり療養を指導され、時間をかけて通った。妹が積極的に病院などにかからなかったのか、甘やかしたい親が動かなかったのか。

 健康になった体は普通に生活していく分には問題ない、と太鼓判を押されて今現在祖国から離れた王城で、公務員として働いていた。今まで学んだことが生きているのは苦しみの実務経験が報われた心地だ。


「探し人欄の内容がおかしくって」


 同じ部署で働く男性がカフェにいたこちらに声をかけてくる。


「どれ?」


「これ」


「なんだこれ?体を返して欲しい?」


 妹からの言葉が新聞に書いており、切実な文面なのに不気味だ。


「ね?」


「ああ……あ、カフェのメニューが新しいのに変わったんだな」


 彼が好意のある瞳を隠しながら大きい独り言をわざと聞かせてくる。きっと買いに行ってここに座って食べるつもりなのだろう。レジに向かった男を見送ってから、紅茶を一口飲んだ。


「だったら私の体をまず返してくれればいいのに」


 今戻ったところで体を交換できないのに無駄なことをしている。相変わらずだ。両親たちはきっと親族から当主を下ろされるだろう。

 理由は長女に私欲で体交換をさせて、出奔させたことなどで。継ぐ子供が二人ともいなくなった責任は重い。まだ死んでいないと言うのかもしれないが時間の問題だ。


「体を交換してあげるとは言ったけど、返すなんて言ってないのにね」


 家族の前に、長女の前に、人が喜んで体を差し出すわけがないといった歪さに気付かなかった彼らの負けである。彼らは知らないうちに、余命五年しかない貴重な生きられる時間である半年を寄越せと、奪おうとする略奪者になったのだ。


「君のを見ていたら食べたくなった。ここ座っていいか?」


「ええ。勿論」


 事前に予想していた彼の言葉にふふ、と自然な笑みが浮かんだ。誤魔化せていると思っているけれどわかりやすい相手の素直さに癒される。

 新聞を畳んでから彼のおしゃべりな声を聞きながら、整えた爪先で耳に髪をゆるりとかけた。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。両親達が体を交換してあげればいいのにしないところがお察しです

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― 新着の感想 ―
入れ替わり魔法チート過ぎますね、面白かった 身体も隣国で療養したら日常生活支障なくなったようだし良かった良かった。両親はベタベタに甘やかすだけできちんと治療しなかったのかもね…。 家族は、例えば孤児と…
場面転換の境界、曖昧。物語進行の説明、雑。……よくこんなのにポイント渡すね皆様。
やりたいシチュエーションの舞台装置にしても次女の病気の設定がガバガバ 生まれてすぐは「死ぬかもしれない」 のわりに気が向いたときに好きに社交はできる 入れ替ってからの姉の認識では「病弱、いや虚弱」 姉…
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