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第二章


 阿呆、阿呆、阿呆…………。


 私の人間関係は阿呆で満ちている。


 ノーベル賞受賞者の人数が名高いこの京の都の国立大学は、どうやら賢者の学舎という分厚い装甲を被った、阿呆の巣窟だったようだ。



 今日はその変人たちを、私の平凡な学生生活の、七月のある日を通して描写しようと思う。



 私の居住地は、現在、大学敷地内の下宿である。




 まず、私は朝起きて着替え、洗面所に向かう。四畳半の室内に風呂や便所はなく、これは一階に共有のものが存在する。

 一通り支度が終わると、軽い荷物と共に私は外に出る。


 そこで私は、この下宿の住人の一人に出くわす。



 私の真上の部屋に住まう文学部出身の大学院生、浅上栄。


 ボサボサの髪に藍染の浴衣を着て、口に常に煙管キセルをくわえている、長身の、細くも太くもないがっしりした体格の青年。

 顔立ちも整っており、夏目漱石やら宮沢賢治やらの作品に手を染めていたり、実際に詩や短篇小説を雑誌に載せたりと、割と気品のある紳士である。


 ただし………。


「ようツンデレちゃん、そのスク水が似合いそうな顔もいつも通りだねぇ」

「あたぁ!!!!」

「ひでぶぅ!!!!」


 私は、この変態生命体の金的を蹴り飛ばしてやった。浅上はその場に膝を抱えてしゃがみ込む。

「ぎゃう、いたいよぉ〜」

「貴方が悪いんですよ、貴方の存在がね」

 といって私は彼の後頭部に液体窒素のような視線を送ってやる。


 どうやらこの変態は、私に、恋愛シミュレーションゲームとやらのお気に入りのキャラクターを投影しているようで、会う度にこうしてセクシャルハラスメントをしてきやがるのである。


 ていうか、スク水が似合いそうな顔ってどんな顔だよ…………。




「ところで、今回はどんな御用ですか?」

「うぐぅ………まぁいいよ」


 浅上栄(以下変態)は起き上がった。


「意外と寛容ですね、貴方が書き溜めている小説の原稿を焼却していいなら、水着くらい見せてあげても構わなくてよ?」

「え、ホントに!?げぶぅ!!!!」


 今度は顔を近付けて来やがったので鼻を鉄拳で殴った。


 この変態は中でも重傷なMという種であり、異性に暴力を受けると歓喜の悲鳴を上げるそうだ。

 この男もある程度調教すると満足して帰っていくものだが、もし彼の背中から触手が生え始めたら、その時は逃げなければならない。

 変態は無機質なコンクリートの上に仰向けに倒れ、鼻から、るるるると鮮血をながしている。


「げぼげぼげぼ」


ついに嘔吐し始めた。


「私はあなたなんかと付き合う気はありません。さよなら」


私は未だげぼげぼと吐き続ける変態を放って大学に向かった。


以上、私の日常、朝の一コマである。


他にも阿呆が居る。


それは私の左に二つ向こうの部屋に住む二十九歳の(何回浪人してんだ!?)大学四回生。


 磐井闇画。


 この女は全身を悪役の魔女のような黒服に包み、常に一つは人間の頭蓋骨を象ったアクセサリーをつけて歩き回る。


 その上妄想癖が半端なく、


「私は日本政府に雇われている工作員なのよ!!」


 と大真面目な顔で言われては、呆れざるを得ない。


 というか、秘密なら喋るな。


「でね、敵に気付かれないようにわざと質素な暮らしをしてるわけよ。日夜テロ組織と闘って………」

「闘わないでください!!!!」


 もしくは殉職して下さい。


「貴方も空から地球の青さを見てみるといいわ」

「飛行機に乗ったこともない奴がよく言いますね」


 もっとも、ジブリ映画に出てきそうな悪役の魔女みたいな外見だから、背中から翼を生やしてバッサバッサと飛んでいくのかも知れませんが…………。



「とにかく、私は貴女の妄想に付き合うほど、暇ではございませんので。ごきげんよう、とっとと精神病院に直行して下さいな」


「まぁ、貴女、そんなことじゃ男が出来ないわよ」

「あんたより早く出来るから結構です」


 魔女と話していても、埒が明かない。

 私は、自分が日本政府の工作員であると言い張る黒魔女を放って逃走した。



 これはさっき、浅上栄(人間記号は変態)を撃退し、自転車で敷地内(町のようだ)を移動している最中に、隣に自転車で追い付いてきた磐井闇画との会話である。



 その他、こいつらはもしかすると人類の新種ではないかと思われる不思議生命体たちが登場するが、世界三大宗教の一つの開祖は、「汝の敵を愛せよ」といったそうなので、私は出来るだけ、一応同じ下宿の人間としての義理を以て、彼らを愛してやるつもりである。



≠≠≠≠≠


 それにしても、私の数少ない友人の中で、一番親しい人間といえば、やはり脳幹に横紋筋がぎっしり詰まった、いいや、全身の血液やら神経細胞やら何やらが全て筋繊維で出来上がって、骨格以外全て筋肉といってもいい新種のホモサピ……。



 その名は灯籠坂鋭次。


 彼は人類の神話であり、人類最悪の阿呆なのである。





 前章で述べた通り、私には友人が少ない。


 私があんな人間を友人とするのは、調度酒が好きな人がエタノールが無いときに仕方なくメタノールを摂取するようなものなのである。


 では、ついに灯籠坂鋭次の全貌を、私の視点から、きめ細かく描写させて頂こうと思う。




 私はそのまま、農学部の微生物機能学研究室に向かった。


 扉を開くと、先に来た灯籠坂が顕微鏡を覗いているところだった。


「なに見てるんだ?」

「タニシの足の裏」

「阿呆が」


 私は教授から小型の手提げ鞄に入ったファイルから、教授に渡された提出物の数々をもう一度数え直した。


 何も問題はなかった。


 我々が行なっている研究というのは、微生物の機能を環境管理に応用しようというもので、毎日近所の土を漁ってはサンプルを培養し、顕微鏡を覗いて新種の菌を探す。



 探したら今度はどんな機能があるのかを確かめる。


 そんな毎日である。


 ただ、微生物が有機物を分解するときの化学反応式が、何分有機化合物なので、唯一つ面倒くさい。


「学者には知的好奇心が重要なのだぞ、芹沢研究員…」


「上からモノを言う根拠が、アウストラロピテクスにあるのか?」

「俺は猿人かよ」

「猿人さ。十九歳にもなって英語も話せぬ奴は猿人だとも」

「きつい御言葉だね。もっと優しく言えないのかい?」

「言えないさ。言葉を選ぶのは苦手なんだよ」

「フランス語も英語も話せるのに?」

「あんなもの、下手くそだよ。辛うじて意味が通じているだけなのさ」

「なるほどね……」

「タニシの裏、見てもいいかい?」

「なんだ、見てえのかよ………」


 灯籠坂は椅子から立ち、顕微鏡を私に譲った。


 よく、見えなかった………。


「なぁ、レポート写させてくれや」

「構わんが、何が解らんのだ?」

「浸透圧」

「!?」


 今確信した。こいつはきっと、体内に含まれる炭素とシリコンの比率が常人と真逆であるに違いない…………!!


「貴様は高二で習うような知識さえ忘れているのかっ!!!!」

「それを言うなら貴様、古典の助動詞を全て暗唱できるのかい?」

「ひぐぅ………!!良いのだ、私は理系人間なのだからな!!!!」



 文系教科で得意なものと言えば、漢詩と英語だけという極限の理系人間である。


 それに、灯籠坂のように理系の癖に古典や現文をカードにしてくる阿呆も、ミジンコと同等な気がする。


 そして、そんな屁理屈に顔を赤くしている私も惨めである。


「おい、アウストラロピテクス」

「なんだ、火星人」


 またこの阿呆………私が一番気にしている頭でっかちの体型をカードにしやがった…………!!!!


「おい君たち、授業始めるよ」


 黒縁の眼鏡を掛けた、坊主頭の、がっしりした体格の長身の男が入ってきた。

 その男、研究室の頭領、戌亥貴人教授である。


 


 淡白ですね………また、設定資料でも書こうと思います。

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