第83話 謝罪と本音
食卓に並ぶ、これぞ朝食というようなプレート。
スクランブルエッグとソーセージ、そして食パン二枚。
「いただきまーす!」
杏樹の元気な挨拶が、静かなリビングに響いた。
俺も蜜柑も、つられたかのように、「いただきます」と挨拶をした。
俺は、食パンにスクランブルエッグを乗せ、ひと口頬張る。
「……!」
優しい味付け……口の中に広がる、バターの香り。
蜜柑の料理スキルが、確実に上がっている。
「美味しい……」
「美味しい! 流石、蜜柑姉さん」
俺と杏樹は、むしゃむしゃと食べる。
蜜柑は、どこか満足そうな顔をしていた。
◇
朝食を食べ終えると、杏樹は自室へ戻って行った。
どうやら、合宿に夢中になりすぎてしまい、部屋の中がとんでもないことになっているらしい。
杏樹はリビングを出る際に、「兄ちゃん、絶対に部屋に来ないでね? 開けたら、ソフトボールの練習付き合ってもらうからね」と釘を刺してきた。
リビングに取り残される俺と蜜柑。
彼女に何から説明をすれば良いかと考えていた時、蜜柑が口を開いた。
「つ、つばさ……昨日は、ごめんなさい」
「え?」
「む、迎えに来てくれたんでしょ? 杏樹ちゃんから聞いたよ」
蜜柑は、目を瞑りながら、深く頭を下げた。
「い、いや……蜜柑が謝る必要はないよ?」
「そ、そんなことないよ。映画館の件も、冷静に考えれば、私と桃果ちゃんと、三人では行きにくいよね……私、一人で空回りしちゃって」
「そういうわけじゃ……」
蜜柑は、ギュッとエプロンの裾を握りしめた。
「それに……私、酔っ払って由宇希くんにも迷惑かけたし……つばさの愚痴みたいなことも、言った気がする……。本当に、ごめんなさい……」
消え入りそうな声で謝る蜜柑。
彼女は、自分が一方的に悪いと思い込んでいる。
ここで誤魔化してはいけない。
昨日の夜、由宇希にすべてを話したように、蜜柑にもちゃんと真実を伝えなければ……。
「謝らなきゃいけないのは、俺の方なんだ」
「え……?」
「昨日、俺と桃果ちゃんが映画館にいたのは、偶然じゃないんだよ。……実は俺たち、蜜柑と由宇希のデートを〈尾行〉してたんだ」
俺の言葉に、蜜柑はポカンと口を開けた。
「び、尾行……? どうして……?」
「二人のデートが気になったんだと思う……。だから、桃果ちゃんが見に行きたいと言っていた映画を利用して、付き合ってもらったんだ。結果的に蜜柑を傷つけて、由宇希も巻き込んでしまった。……本当にごめん」
俺は勢いよく頭を下げた。
自分の器の小ささと、嫉妬深さが心底情けない。軽蔑されても仕方がない。
リビングに、再び静寂が訪れる。
どれくらい経っただろうか……。ふと、上から「ふふっ」という小さな笑い声が聞こえた。
恐る恐る顔を上げると、蜜柑は怒るどころか、少しだけ頬を赤く染め、嬉しそうに微笑んでいた。
「……そっか。つばさ、私のこと気にしてくれてたんだね」
「あ、いや、それは……その……」
「馬鹿だなぁ、つばさは。……というか、桃果ちゃんがかわいそうだと思わないの?」
どこかの夫婦にも言われたっけ。
「桃果ちゃんも、つばさのこと好きなんだから、あの子の気持ちも考えなさい」
「は、はい……」
返す言葉も見つからない。
「全く馬鹿なんだから……。そんなの怒れないよ」
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