第81話 気が効く妹と親友からの忠告
「ただいまー」
俺は、蜜柑を背負ったまま、実家の玄関を開けた。
「おかえり、お兄ちゃん……って蜜柑姉さん? また酔い潰れているの?」
俺は、予め『今から蜜柑と友人が実家に行く』と連絡はしていたからか、杏樹が駆け足で、玄関まで迎えに来てくれた。
「蜜柑さんにお酒飲ませちゃ駄目だって、兄ちゃんに前言ったよね?」
「ご、ごめんなさい……これには事情がありまして、まずは下ろしたいので、ベッドまで運んで良いでしょうか……」
蜜柑のこととなると、杏樹は途端に俺への風当たりが強くなる。
「はいはい、言い訳はいいから早く運んで」
俺を煽るかのように、杏樹がズイッと奥の部屋へ案内する。
……俺が飲ませた訳じゃないんだけどな。
ふと背後を振り返ると、妹に怒られている俺を見て、由宇希がクスッと笑い声を漏らしていた。
「な、何笑ってるんだ? 由宇希」
「い、いや……ごめんごめん。賑やかな家だなって思ってさ」
さっきまで険悪なムードが漂っていたが、妹のおかげで少し空気が和らいだようだ。
俺は、物置きにあるベッドの上で蜜柑を下ろした。
シーツはすでに綺麗に整えられている。
杏樹が手早くベッドメイキングをしてくれていたらしい。
俺が「蜜柑を連れて行く」と連絡した時点で、酔い潰れていることを予測したのか……はたまた、純粋にお泊まり会をしようと計画していたのか。
真意は不明であるが、出来る妹に違いはない。
「もう一杯……オレンジサワーを……」
ベッドに寝かせると、蜜柑は呑気な寝言をこぼした。
この状況を作った張本人だが、この寝顔を見ると責める気も起きない。
俺は静かに布団を掛け、部屋を出た。
由宇希は廊下から、薄暗い部屋の中で眠る蜜柑を少し寂しそうに見つめていた。
「由宇希……俺の部屋に来れるか?」
「お、おう……」
自室に案内し、俺はゲーミングチェアに由宇希を座らせ、自分はベッドに腰掛けた。
そして、なぜ俺があの映画館にいたのか……桃果ちゃんとの〈偵察〉の一件を、ありのまま由宇希に伝えた。
状況を一つ一つ説明するたびに、由宇希は驚いて目を見開いたり、呆れたように目を細めたりしていた。
◇
「つまり、つばさと一緒にいた女の子が『桃果さん』っていう方で、横にいた二人は偶然居合わせたお前の友達ってことか」
「そういうこと」
俺は、小さく頷いた。
「一緒にいた子が、つばさに告白したっていう、桃果さんか……」
「え? そのことも蜜柑、言ってたの?」
「う、うん……」
蜜柑が酔った勢いで、洗いざらいどこまで話したのかが気になる。
以前も蜜柑は、お酒が入ると思っていることを吐き出してしまう癖があった。
あの時も、「雫ちゃんは危険……」と俺に訴えかけていたっけ。
「でも、桃果さんの悪口は言っていなかったよ?」
「!」
「『彼女はとってもいい子。料理も美味しくて、好きな人のためなら、さり気無い気遣いも欠かさない……。私にはない良いところが沢山あって、きっとつばさも彼女のことを意識して、好きになっていっちゃう……。』って」
由宇希は、蜜柑の言葉を思い出しながらポツリポツリと語る。
「『告白をされたら男の子は意識するって言うでしょ? 私はどうしたら良いんだろう』って……そのあと、涙目になって寝落ちしちゃったんだよ」
かなり細かく話していたようだ。
ただ一つ、桃果ちゃんのことを悪く言っていなかったことには、ひどく安心した。
「そんな風に言っていたのか……」
「お前は、意外とモテモテで羨ましいよ」
由宇希がジト目で俺を睨んでくる。
確かに、蜜柑の言う通り、好意を向けられれば意識してしまうのは当然のことだ。
しかし、それは桃果ちゃんに対してだけではない。
蜜柑のこともかなり意識をしている……その結果が、今回の映画館の〈偵察〉に繋がったからである。
「つばさ……俺は、二人の女性に同時に告白されたことがないから、お前が答えを出さない理由は分からない。だけど、二人の女性を振り回すなら、早いうちに結論を出した方がよいと思うぞ?」
それは、親友としての痛烈で、しかし真っ当な忠告だった。
俺のパソコンの電源を勝手に入れながら、由宇希は少しだけ自嘲気味に笑う。
「まぁ誰を選ぼうと、親友でいるから安心してくれ……さぁて、一勝負〈オーバーウィッチ〉やらせてもらうぞー」
最後まで読んでいただきありがとうございました!
もし「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】から評価やブックマークをいただけると、執筆の励みになります!




