第77話 大人の魔法
俺と桃果ちゃんは、数店舗見て回った後、最初に訪れた、緑のワンピースが売っているお店に戻って来た。
「第一候補は、この緑のワンピースなのですが、他に私に似合いそうな服見つけましたか?」
「うーん、そうだな……」
数店舗回るうちに気づいたことがある。
桃果ちゃんは無意識なのか、今回のテーマとして、花を基調とした服を探しているようだ。
手に取る服は、どれも花柄のものばかりだった。
「これなんかどうかな?」
「どれですか?」
俺が手に取ったのは、いつも彼女が着ているような甘いデザインとは違う、落ち着いた灰色を基調とした花柄のワンピースだった。
一言で言うと、少し大人っぽい服である。
「私が持っていない、洋服の色です……似合いますかね」
俺が選んだ服を持ち、桃果ちゃんは首を傾げる。
「絶対に似合うと思う!」
「……わかりました。着てみます」
そういうと、桃果ちゃんは、試着室へ向かった。
今日の桃果ちゃんは、着せ替え人形のようであった。
本日何十回目の試着かわからない。
今回は、俺は試着室の前で待つこととした。
「つ、つばささん、いますか?」
「いるよー」
「ふふっ。今回は、いてくれたんですね」
試着室のカーテン越しに、桃果ちゃんは、俺がいるかを念入りに確認してくる。
さっき俺がいなくなって不安だったのだろう。
しばらく待っていると、シャッとカーテンが開いた。
そこには、普段あまり見ることのない、大人の雰囲気を醸し出した桃果ちゃんの姿があった。
「き、きれい……」
「……き、きれい、ですか?」
普段、桃果ちゃんに可愛いと思うことは多い。
ただ、今回は全く雰囲気が違い、大人のきれいさに目を奪われてしまったのだ。
予想外の言葉に困惑したのか、桃果ちゃんの顔が一気に赤く染まっていく。
「雰囲気が全く違って、すっごく似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます……きれいなんて、言われたことなかったので、嬉しいです」
そう言うと、桃果ちゃんは真っ赤な顔を隠すように、試着室のカーテンを早々に閉めてしまった。
……もっとその姿を脳裏に焼き付けておきたかった。
◇
数分後、桃果ちゃんが着替えを終えて出てきた。
「桃果ちゃん、どの服買うことにしたの?」
「そうですね……」
桃果ちゃんは、あごに手を当て、悩み始める。
そして、意を決したように顔を上げた。
「ど、どっちも買います」
「俺が選んだ服も買ってくれるの?」
「は、はい……。つばささんとまたお出掛けする時に……着たいですから」
自分が選んだ服を「次のお出かけで着たい」と言ってくれるなんて、これほど嬉しいことはない。
「桃果ちゃん、この二着、俺にプレゼントさせてよ」
俺は、桃果ちゃんから二着のワンピースを受け取り、レジへ進もうとした。
「え? いいですよ! 気を使わないでください」
「いや。今日は俺の我儘に付き合ってもらったし……二人でデートした記念だと思って、受け取ってほしい」
「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて。あ、ありがとうございます」
俺は手際よく会計を済ませ、二着のワンピースが入った紙袋を桃果ちゃんに手渡した。
「桃果ちゃん、あと……これも着けてほしいかな」
「は、はい?」
俺は、あらかじめ買っておいた〈白い花の髪飾り〉を手渡した。
「これって……このお店の入り口にあった、花の髪飾りですよね」
「うん。緑のワンピースにも、俺が選んだワンピースにも似合うかなって思って……」
桃果ちゃんは、その髪飾りを両手でギュッと胸元に握りしめた。
下を向いているが、隠しきれない笑顔がこぼれているのがわかる。
「あ、ありがとうございます……一生大事にしますね」
顔を上げた桃果ちゃんは、今日一番……いや、これまで出会ってから見た中で一番の、満面の笑みを浮かべていた。
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