第76話 緑のワンピース
俺は、桃果ちゃんと洋服屋へ向かう。
さっきまでの曇った表情とは打って変わり、桃果ちゃんの笑顔は雲ひとつない晴天のように輝いていた。
「つばささん、まずはこのお店でいいですか?」
「おぅ、いいよー」
最初に出向いたのは、カジュアルな洋服が並ぶお店だ。
普段の桃果ちゃんの趣味とは少し違う気もしたが、彼女が興味津々に手に取ったのは、緑色の花柄ワンピースだった。
住み込みバイトを始めて気づいたが、桃果ちゃんは、ワンピースが好きなようだ。
プライベートや寝間着も基本ワンピースが多い。
「この洋服、どうですか?」
「うん! その色、桃果ちゃんにすごく似合うと思うよ」
桃果ちゃんの髪型は、ふんわりとしたショートボブ。髪色は柔らかなミルクティーベージュだ。
その髪色と緑色のワンピースがマッチして、とても映えるだろう。
「ありがとうございます。し、試着してみます」
桃果ちゃんは、ニコリと笑いながら、試着室へ向かう。
カーテンが閉まり……よし、今だ。
俺はふと周りを見渡し、レジ横のアクセサリーコーナーに目をつけた。
そこには、白くて小さな花の髪飾りが売っていた。
――きっと緑色のワンピースに似合うだろう
俺は、その髪飾りを、桃果ちゃんが試着している間にこっそりと購入することにした。
洋服をプレゼントするのは約束通りだが、これはさらに花を添えるサプライズ計画だ。
俺は慌てて会計を済ませ、ポケットに隠した。
急いで試着室の前へ戻ると、ちょうどカーテンが開くところだった。
彼女は、キョロキョロと周りを見渡している。
不安げな顔で俺を探していたが、目が合うと「はっ!」と声を上げた。
「つ、つばささん……どこに行っていたんですか?」
「ごめんごめん、ちょっとね」
桃果ちゃんが口を尖らせ、俺の肩をポカポカと叩いてくる。
俺はそんな彼女の姿を、改めて頭のてっぺんから足先まで眺めた。
「桃果ちゃん! めっちゃ、似合っているよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん! 今の髪型ともマッチして、とても可愛い」
俺の言葉に、桃果ちゃんは頬を緩ませ、満足そうに鏡の前でくるりと回ってみせた。
「つばささん……」
「ん?」
「とても気に入ったんですけど、いったん保留で、次に目をつけているお店も行って良いですか?」
桃果ちゃんは、申し訳なさそうに俺の顔を覗き込む。
なるほど……即決せずに他とも比較したい。
買い物上手な彼女らしい選択だ。
もちろん、俺としても桃果ちゃんのいろんな服装を見てみたい。
「是非、行ってみよう!」
「はい、ありがとうございます」
そう言うと桃果ちゃんは、試着室へ戻り、カーテンを閉めた。
◇
その後、俺たち二人は洋服屋を三、四軒ほど見て回った。
色々と試着はしたものの、結局、最初に入ったこの洋服屋へ戻ってくるのであった。




