第68話:番外編 とあるゲーム
俺たちが、喫茶『fish and coffee』で昼食をとっていた時の出来事であった。
「つばささん、このゲームしませんか?」
桃果ちゃんが指差したのは、メニュー表にあった〈フィッシュゲーム〉という遊びだった。
表が白、裏が黒の魚の形をした駒。
説明書きを見る限り、ルールは完全にオセロそのものである。
このゲームで店員に勝つと、喫茶店限定のストラップが手に入るらしい。
「このストラップ可愛いですよね」
「それなら、俺が桃果ちゃんにプレゼントしよう」
そう提案すると、桃果ちゃんから笑みが溢れた。
「もしも、つばささんが勝ったら、映画館のポップコーンは私がご馳走しますね」
「よし! 負けたら俺がご馳走するよ」
俺は自信に満ち溢れている。
オセロは喫茶店でも鍛え、学校でも鍛えている。
――負けるはずがない。
そう、高を括っていたのだ。
「つ、つばささん……」
盤面が埋まった瞬間、俺は桃果ちゃんから初めて氷のように冷たい視線を感じた。
ショックで肩を落とす俺の背中を、桃果ちゃんが申し訳なさそうにポンポンと叩く。
「つ、つばささん……私と指スマしましょ?」
唐突な指スマの提案。
桃果ちゃんは両手を握り、親指を立てる準備をして待っている。
「な、なぜ急に指スマなの?」
「これで勝った方が、映画館のフードをおごることにしましょう」
別に会計は俺が払っても良かったのだが、これは彼女なりの、負けた俺への気遣いなのだろうか。
俺は桃果ちゃんと指スマで戦い、その勝負に勝利した。
こうして俺は、めでたく(?)「奢る権利」を手に入れたのである。
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