第59話 カタワレドキ
眠い目を擦り、俺はソファで寝ている蜜柑に、肌掛けをそっと掛けた。
少しだけ服装が乱れていたので、意識して視線を逸らす。
ふと見ると、彼女の手元には二つのコップが置かれていた。
コップの表面には結露した水滴がびっしりと付き、飲み物が置かれたままになっている。
俺が出てくるのをずっとここで、冷たい飲み物を用意して待っていてくれたんだろうか。
「ん……つばさ……?」
「あ、ごめん! 起こしちゃった?」
「お、起きてたよ……」
そう強がる蜜柑の声は、明らかに寝ぼけていた。
蜜柑の寝起きの顔は何度も見る機会があったが、今日、月明かりの下で見る彼女は、いつもとは何かが違った。
「蜜柑、おはよう! 部屋でゆっくり休みな?」
「あ、ありがとう……今何時?」
俺は蜜柑に「朝4時だよ!」と伝えた。
蜜柑は少しがっかりしたように、力なく下を向いた。
「……そう。つばさ、編集は順調なの?」
「うん。あとはみんなと最終チェックをするだけだよ」
「そっか……」
進捗は順調であり、なんとか期限日までに編集は終わらせることができた。
「私、少しは役に立ったかな……」
ソファに座り直し、膝を抱えながら俺に問いかける蜜柑。
「少しどころじゃないよ。蜜柑がいなかったら、このPVは完成してなかったと思う」
蜜柑のサポートのお陰で、カメラワークも整い、演出で悩んだ時にも、アドバイスをもらえた。
「それならよかった……あと」
「ん?」
「変なタイミングで、告白しちゃってごめんね」
「な、なんで謝るのさ……」
確かに、俺の心はかき乱された。
けれど、真剣に想いを伝えてくれたことに対して、謝られるのは違う気がした。
俺は、今この瞬間に返すべき言葉を、自分の中で固める。
「俺は、蜜柑に告白されて嬉しかったよ!」
蜜柑の肩が、微かに震えた。
一番身近にいる異性から、好意を寄せられているのは、純粋に嬉しかった。
「ごめん。まだ、付き合うとか、そういう気持ちにはなれないんだ」
「そ、そっか……」
俺はこの生活を壊したくない。
雫ちゃんが愛し、守りたがっているこの〈居場所〉を、俺の不用意な返事で変えてしまうのが怖かった。
「まぁ、いいよ。今は、良い返事はもらえると思わなかったから」
「え?」
「雫の過去の話を聞いて、つばさが無責任な返事はしないってわかってたから。つばさが初恋の相手を、悲しませる原因になるようなことはしないってのもわかってたから」
蜜柑も雫ちゃんの過去を本人から聞いていたようだ。
それなら、蜜柑が動画の撮影にあれだけ積極的だったのは、理解できた。
「それなら、なんで告白したんだ?」
そこまでわかってるなら、告白する必要はなかったであろう。
蜜柑は、口元を枕で隠しながら呟いた。
「だって、桃果ちゃんが告白してたから、焦っちゃって……そんなの言わせないでよ……」
「な、何?」
俺は蜜柑の声を聞き取れなかった。
すると、蜜柑は枕を俺に投げながら「馬鹿! 私はもう部屋に戻る!」と言い捨てて、彼女は足早に部屋へ向かった。
しかし、途中で足を止め、蜜柑は再び俺の方を向いた。
「また、いつでも返事待ってるからね……何年でも待つから」
そう言うと、再び歩き出し、部屋に戻って行った。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
私は、修学旅行で眠すぎて仮眠をしたら、がっつり寝た記憶があります。
その日は、すごく後悔しました。
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