第58話 仕上げ
俺は自室に戻り、最後の編集作業に取り掛かった。
「カタカタカタカタ……」
先程の賑やかなオセロ対決から一転し、室内に乾いたタイピングの音が響き渡る。
ふと目を擦りながら時計を見ると、いつの間にか日付を跨いでいた。
――もう1時間経ったのか……
今日は早朝の珈琲撮影から始まり、蜜柑の告白、後半のバイトにオセロ対決……。
流石に疲労が限界を超え、眼精疲労からくる鈍い頭痛がこめかみを叩き始めた。
明日のシフトは、なんと田嶋先輩が変わってくれた。
今日は、徹夜で作業できる。
俺は、鎮痛剤とサプリメントを飲み、再び作業を再開する。
「コンコンッ」
しばらくすると、部屋をノックする音が聞こえてきた。
「はぁーい」
「映像見に来たよー!」
声の主は、お風呂上がりの雫ちゃんであった。
雫ちゃんは冷たいお茶とチョコレートを差し入れに持ってきてくれた。
俺はすぐに、雫ちゃんに現時点までで完成している映像を見せた。
「とても綺麗……! この映像見ればきっとお客さんも増えそうだね!」
「よかった……雫ちゃんの反応悪かったらどうしようかと思った」
雫ちゃんの反応が薄かったらどうしようと、一抹の不安はあったが、良い反応を見せてくれて、ひとまず安心した。
「なんかごめんね、せっかくの住み込みバイト…作業ばっかりで……。楽しめてる?」
雫ちゃんが、どこか不安げな瞳で俺の顔を覗き込んできた。
「う、うん! もちろん楽しめてるよ」
「本当に?」
俺はこの3日間、間違いなく充実していた。
ここのメンバーの新たな一面をたくさん見れている気がする。
しかも、撮影や編集の勉強まで出来て、お得である。
自分でも驚くほど、この場所が馴染んできているのを感じる。
「それなら良かった! 私……」
「ん?」
雫ちゃんが途中で話すことをやめてしまった。
「私……ここの喫茶店、大好きなんだ」
雫ちゃんは、笑顔で話を続けた。
「『alive』の意味って、〈生きている〉って意味なんだよ」
「そうだね……俺も、ここでバイトを始めてから、生きている実感があるよ」
「つばさくんも? 前にも言ったけど、このお店が私の居場所を作ってくれたの……だから、この店は絶対に潰したくない。少しでも売り上げを伸ばしたい」
一点の曇りもない、真っ直ぐな想い。
彼女は本当に、この店が好きなんだろう。
「バイトメンバーもみんな仲良く、笑顔の多いこの店が大好き! みんな大好き」
弾けるような彼女の笑顔。
口にすれば少し恥ずかしくなるような台詞を、彼女は躊躇なく、心からの言葉として紡ぐ。
「だから、映像の完成を楽しみに待ってるね」
「うん、頑張るよ!」
そう言うと、雫ちゃんは部屋を出て行った。
あまりにも真っ直ぐな彼女の気持ちに応えるために、俺は無我夢中で編集作業に取り掛かった。
◇
「とりあえず、ひと段落したか……」
時刻は明け方4時になっていた。
「久々に徹夜したな……」
俺は、数ヶ月前のゲームでの徹夜以来、久々の完徹だ。
徹夜はあまり好きではない。
なぜなら、次の日は何も出来なくなるし、疲労感が数日残る。
けれど、今は不思議と達成感の方が勝っていた。
俺は、リビングに飲み物を取りに行くことにした。
「ガチャ」
廊下もリビングも、まだ深い闇に包まれている。
暗闇に目を凝らしながら一歩踏み出すと、窓からの微かな月明かりに照らされたソファに、違和感を見つけた。
「ん? 誰だ?」
ふと顔を覗き込むと、そこには蜜柑が静かな寝息を立てて眠っていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
蜜柑との深夜の密会。
つばさは、何と返事をするのか……。
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