第4話 笑顔
中学2年生の時だった……
俺は、初めて恋をした。
初恋の相手は『浦島雫』
目立つわけでもなく、目立たないわけでもないくらいの女の子だった。
部活は、バドミントン部に所属しており、大会でも結果を残すほどの実力者だった。
俺は中学の時は、バレーボール部に所属していた。
バレー部は人数が少なく、俺は身長も高く、それなりに運動神経も良かったので、レギュラーは掴めていた。
あまり接点はない2人だったが、親友の『赤見達也』が、バドミントン部に所属しており、その関係で浦島さんとも話すことが多かった。
中学2年生の時のイベントといえば、林間学校である。
林間学校は、男女2人ずつの1グループに分かれて、イベントをする時間がある。
俺は、達也から付き合っている『春風夏美』とグループを組みたいと聞いていた。
そして、春風さんと浦島さんは親友であった。
そのため、話を合わせ、俺と浦島さんは達也と春風さんと同じグループに入ることとなった。
林間学校の初日は雨であった。
そのため、ほとんどの行事が中止。
恋する男女のメインイベントである、キャンプファイアーも中止となった。
雨を恨む人々が多い中、俺は面倒な行事が中止になり、心の中では喜んでいた。
そんな中、林間学校の最初の夜が来た。
思春期の男女は、決まって寝る前に『恒例行事』を行う。
「つばさは、好きな人いるのか?」
そう、好きな人がいるかの話だ。
俺は幼稚園の時に、好きだった子はいた気はするが、名前も思い出せないぐらいの子であった。
「好きな人がいるのか」の質問は、毎回返答に困る。
いると言えば「誰?」と聞かれ、いないと言えば「嘘でしょ! 俺は言ったんだから言えよ」と言われる。
なので、そう言う話をする時は、最初に「俺は本当にいないからな」と釘を刺していた。
それでも聞かれた場合、俺はこう答える。
――笑顔が素敵な人がタイプかな。
恋愛に対して、興味がない訳ではないが、彼女は作ると面倒だと思い、消極的であった。
ただ、そんな冷めている俺の恋愛観を壊す、出来事が林間学校で起きたのだ。
◇
「ここはどこだよ」
初日の雨は上がり、曇り空の中、林間学校のイベント『オリエンテーリング』が行われていた。
4人グループに分かれ、チェックポイントを回り、そのタイムを競う催しが行われていた。
しかし何故か、木々に囲まれる道を2人の男女が歩いていた。
「達也たち、どこいったんだ??」
「急に走り出すから迷子になっちゃったね、夏美もどっかいっちゃったし」
「あの2人はすぐに、迷子になるんだから」
俺は、同じクラスの『浦島雫』と迷子になっていたのだ。
ただ、俺は冷静であった。
携帯は、持ち込み禁止であったが、手元には地図はあるし、食料と飲料はある。
今の場所さえ分かれば、帰ることはできるだろう。
ただ、浦島さんの顔色は少し悪く、帰れるかが心配なのであろう。
「西城くん、どうやって帰ろう」
あたりも少しずつ暗くなり、不安そうな浦島さん。
早く帰り道の目印を見つけないと、あっという間に夜になると思い、現在地のヒントになりそうなものを探す。
「西城くん、これってなんだろう?」
浦島さんは、道端にあった〈あるもの〉をしゃがんで見つめる。
俺は「なんだろう?」と覗いた。
すると目の前には、怪しげなキノコが生えていた。
――これはキノコ?? でも明らかに毒キノコっぽいよな
「浦島さん、これ毒キノコだよ」
「え、毒キノコ? こんなところに生えてるんだ」
「山の中だしね、キノコの1つや2つ、生えててもおかしくないんじゃない?」
「それもそうだねー」
キノコは、人と車も通りそうな道端に生えていた。
浦島さんは、そういうと立ち上がろうとした。
その時、浦島さんは体勢を崩してしまった。
慌てて手を掴み、転ばないようにと浦島さんの手を引いた。
「あ、ありがとう」
浦島さんは少し顔を赤くして、俺にお礼を言った。
持っていた地図はくしゃくしゃになっていた。
「ちょっとくらっとする、立ちくらみがする……」
浦島さんは、急に立ち上がり、目眩が起きてしまった。
慌てて、近くにあったベンチで休むことにした。
◇
「ごめんね、西城くん」
ベンチに座ると浦島さんは、俺に謝った。
俺は「体調が悪い時は、休まないとダメだよ」と言い、まだ開けていないペットボトルの水を紙コップに移して、浦島さんに渡した。
浦島さんは、少しずつ水を飲んだ。
「西城くん、あなたも水飲む?」
そういうと、浦島さんは紙コップの水を俺に渡してきた。
俺は「だ、大丈夫だよ! 俺のはこっちにあるから」と断った。
間接キスとかは気にならないのかなと横目で、浦島さんを見た。
「私のとの間接キス、意識したの?」
「意識してないよ、浦島さんが嫌でしょ」
「ふーん、私は別に気にしないけど、男兄弟もいるし、良く使い回してたから」
「同級生とかだったら違うでしょ」
俺は必死に理由をつけて断った。
しばらくすると、少しずつ元気を取り戻した。
浦島さんが休んでいる間に、俺は地図の目印となる看板を見つけた。
浦島さんが「そろそろ帰ろうか」と言うと、俺は地図の目印を頼りに、帰り道を歩く。
◇
10分も歩くと、スタート地点に帰ってきた。
2人は運動部なので、歩くのがとにかく早い。
遠目では、置いていった2人の姿も目に入ってきた。
――なんとか帰って来れたんだな
なんとか夜ご飯には、間に合いそうだ。
安堵していると、浦島さんから声をかけられた。
「西城くん、あなたが地図読める人でよかった」
「私ひとりだったら、きっと迷子になってたよ、ありがとう! 西城くん」
浦島さんの何気ないお礼と笑顔。
くしゃくしゃの地図を片手に、俺を初恋へと導いた。
――これが、鯉? いや恋か




