第56話 田嶋砲
オセロ対決で盛り上がり、時刻は午後10時を回っていた。
田嶋先輩を含めた五人で、ようやく温め直した夕ご飯を食べていた。
「ごめんね、桃果」
桃果ちゃんは、料理やご飯を何度も温め直していた。
盛り上がり過ぎて、田嶋先輩がオセロのコツをみんなに教える〈オセロ講座〉が開かれたのである。
「ま、全く……にいにいだけのせいじゃないです」
そういうと、桃果ちゃんはチラッと雫ちゃんの方を向いた。
「いやーごめんね、桃果ちゃん」
そう……田嶋先輩が〈オセロ講座〉を開き始めたのも、雫ちゃんが起点であった。
雫ちゃんは、俺にも蜜柑にも一度も勝てなかったのである。
オセロは、俺と蜜柑が通っている専門学校で一時期ブームになっていた。
授業中もアプリで対決をして、先生に怒られる人もいた。
「だって、みんな強いんだもん……」
どうにかして、勝ちたいと思ったのか、田嶋先輩にアドバイスを求めたのである。
雫ちゃんが、小皿に乗っている唐揚げをツンツンして、少しいじけてしまった。
「せ、せめてご飯食べてからにして下さい」
「はーい、ごめんなさい」
この光景を見ていると、どちらが年上なのかがわからない。
子供が食事前にゲームをやめさせる両親の気持ちがわかった。
「そういえば、つばさ。今日の撮影は順調だったのか?」
「ゴホッ、は、はい……順調に進んでますよ」
田嶋先輩から、今日の撮影について聞かれ、軽くむせてしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ……ゴホッ」
むせた俺に対して、田嶋先輩がお茶を汲んで、渡してくれ、むせてる俺の背中を、桃果ちゃんがトントンと叩く。
――桃果ちゃんの面倒見の良さは、にいにい譲りなんだな
この兄にしてこの妹あり。
そう感心していると、黙々とご飯を食べていた蜜柑が口を開いた。
「うまく撮影も出来たので、あとはつばさ次第だよね」
「うん、パソコンには取り込んで、カットも終わってるから、後は字幕と演出のみです」
今回も蜜柑は、俺を呼び捨てで呼んでいる。
何度呼ばれても、違和感がすごい。
この違和感を感じたのは、俺だけではなかった。
「あれ、木ノ下さん。つばさのこと前から、呼び捨てで呼んでたっけ?」
田嶋先輩は、ニヤリと違和感にすぐ気付いた。
この勘の鋭さは、田嶋家伝統なのか。
ふと、桃果ちゃんを見ると、俺に対して細い目……ジト目で睨んできた。
「つばさとは、高校からの付き合いなんで、もう呼び捨てでいいかなって……ね? つばさ」
「えぇ? まぁ……俺も、蜜柑のことは蜜柑って呼び捨てで呼んでいるんで」
蜜柑は平然を装っているが、確信犯だ。
あのキスの後で、一気に距離を詰めにきている。
「そ、それなら、私も西城さんのこと、つばささんって呼んでも良いですか?」
桃果ちゃんが、顔を赤くしながら提案をしてきた。
俺は、「うん、良いよ!」と、返事を返すと、彼女は笑顔になった。
少し動揺をしながら、味噌汁を啜る。
ふと、耳元で小さな声で田嶋先輩が囁く。
「モテる男は辛いね」
俺は、必死に誤魔化すが、田嶋先輩には、バレている気がする。
そんな中、雫ちゃんは考え事をしている。
「雫ちゃん、どうしたの?」
俺は気になって、雫ちゃんに声をかけた。
「……つばさくん! 角を取られないように意識してみるから、後でもう一度だけ戦って!」
「……編集あるから、一度だけね」
ちょっと張り詰めた空気が、逸れた気がした。
雫ちゃんは、何一つ変わっていなかった。
そんなことが、少し寂しかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
田嶋先輩の兄貴としての面倒見の良さを感じる。
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