第53話 私を見て
俺は、蜜柑の声に応じて、顔を上げた。
すると、そこには互いの吐息が触れ合うほどの近さに、蜜柑の顔があった。
「蜜柑……どうしたの? 顔、近いよ?」
「つばさくん。……私はいつも、後回しなんだね」
蜜柑の声には、力がなかった。
指摘されて、胸が痛む。
確かに俺は、彼女の厚意と信頼に甘え、何でも後回しにしていた。
謝罪だってもっと早くできたはずだし、もしこれが蜜柑以外との約束だったら、忘れることなんてなかったはずだ。
「ごめん……。そんなつもりじゃなかっ……んっ」
言いかけた俺の唇を、蜜柑が人差し指でそっと押さえる。
「あなたは、いつも謝ってばかりだね」
至近距離で見つめてくる蜜柑の瞳。
そのあまりの大人っぽさに、俺は言葉を失った。
こんな時、謝罪しないといけない時に、俺はドキドキしていた。
「つばさくん。……少しは、ドキドキしてる?」
「……っ。そんなわけ、ないでしょ」
俺は、蜜柑に細い声で、見え透いた嘘をついた。
「私は……ドキドキしてるよ」
「えっ……」
蜜柑のその告白の意味を、理解しようとした、その瞬間だった。
「蜜柑……ちょっと待って……ん!」
強く胸ぐらを引かれ、視界が大きく揺れる。
直後、唇に柔らかくて、驚くほど熱い感触が押し当てられた。
「いつも後回しだけど、今回は先を越すね」
俺は頭が真っ白になった。
蜜柑の感情のこもった強引なキス。
ほんの数秒のことだったはずなのに、永遠に続くかのような錯覚。
一階からは、ランチタイムの賑やかな声が微かに響いてくる。
しかし、今の俺にその声は届かない。
「私も、女の子なんだから、後回しにしないでね……もっと私を見て……」
蜜柑の顔は、まるで林檎のように真っ赤になっていた。
「返事は、今はいらないから……」
そういうと、蜜柑は自室に戻って行った。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
蜜柑の告白……それは、つばさにとって意外なものであった。
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