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珈琲を焙煎してたら恋琲になっていました  作者: エンザワ ナオキ
住み込みバイト編

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第52話 失念

 俺と蜜柑みかんは、珈琲の撮影をなんとか完了した。

 結局、リテイクを5回ほど繰り返すことになった。

 蜜柑が淹れたコーヒーは、常連客の方々に事情を説明して、無料で提供した。


 蜜柑も、少し呆れている様子であったが、撮影が終わってホッとしているようだ。

 俺も、撮影方法について少しだけコツを掴んだ気がした。


「蜜柑、ありがとう!」


 時刻は正午。

 店のランチタイムでもあるため、午後からシフト予定の俺と蜜柑は、2階へ戻った。


「蜜柑、撮影の協力ありがとうね」


「うん、つばさくんも撮影少しは上手くなったね」


「これも、蜜柑の協力のお陰だよ」


 俺は改めて感謝を伝えたが、蜜柑は軽く頷くだけだった。

 普段なら「でしょー?」と元気に返してくれるはずだ。

 しかし、今の彼女はどこか心ここにあらずといった様子だ。


「蜜柑……何かあったか?」


「え……。いや、何でもないよ」


 いや、その雰囲気は絶対に〈何か〉ある。

 女性が、そっけない態度を繰り返す時、男はこれまでの行いを死に物狂いで振り返らなければならない。


 俺は、住み込みバイト1日目から振り返ることにした。


 初日。俺はまだ、蜜柑への無礼な発言を謝ることができていなかった。

 蜜柑の課題を手伝って……。


 そういえば、お風呂のくじ引きなんてこともしたな。


 ――いや、思い出に浸っている場合ではない


 その後、俺は正式に謝った。


 そして、3日目の午前中に映画を一緒に観にいく約束をした。


 ――あ! 映画の約束……


 今日はその〈3日目〉。しかも、正午を回っている。


 簡単に振り返れば、蜜柑との約束を思い出せた。

 勿論、お店のPV映像を作るのに、必死ではあったが、忘れては行けない約束であった。


「蜜柑……。映画の約束、忘れてた。本当にごめん」


「……あ、やっと思い出したんだ」


 蜜柑の声色に覇気はなく、どこか諦めたような、寂しげな声であった。


「PV撮影に夢中になりすぎた……ごめん」


 最近、俺は蜜柑に謝ってばかりである。

 蜜柑の大切な時間を、俺の都合で振り回して、本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。


「つばさくん。……顔を上げて」


 蜜柑の静かな声が、俺の耳に届いた。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


つばさと蜜柑、親しき中にも礼儀あり。


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