第51話 珈琲撮影
午前10時。
俺と蜜柑は、比較的店が空いている時間帯を狙って、珈琲のイメージカットの撮影を開始した。
「つばさくん。角度はこっちから!」
「違う! もうちょっと上から煽って!」
蜜柑が珈琲を淹れる手元を撮るために、俺がカメラを構える。
的確な指示が飛んでくるが、俺はなかなかその要求に応えることができない。
「……ここから、こういう感じか?」
「うーん……。一回お手本を見せるから、代わりにつばさくんがコーヒー淹れてみて」
持っていたカメラを蜜柑にひったくられ、俺は手を引かれるままにドリッパーの前に立たされた。
――いや、俺、まともに珈琲なんて淹れたことないんだけどな
蜜柑はカメラを構え、今か今かと俺の手元を待ち構えている。
仕方ない、見よう見まねでやってみるか……。
そう思ってポットを傾けた瞬間、鋭いダメ出しが飛んできた。
「沸騰したてのお湯を、注いじゃダメだよ!」
「それじゃ風味が死んじゃう!」
「ほら、注ぐ順番が違うってば!」
俺は、撮影方法についてアドバイスをもらっていたはずが、いつの間にかスパルタの珈琲淹れ方講座になっていた。
「蜜柑、珈琲の淹れ方は今度ゆっくり教えてくれ。……今は、撮影のアドバイスを聞いても良い……?」
「え、あぁ……話が逸れちゃったね」
蜜柑がどれだけ、珈琲の淹れ方を勉強してきたか、その熱量が痛いほど伝わってきた。
俺は、蜜柑がこれだけ興味を持ったことであるから、今度ちゃんと教わってみようと思った。
「じゃあ、改めて撮影について教えるね」
「ありがとう! 蜜柑先生」
蜜柑が真剣に撮影についてレクチャーをしてくれていた。
蜜柑が普段どのような意識で撮影をしているか。
その意識の片鱗を、俺は少しずつ理解し始めていた。
「この角度でレンズを向けると、珈琲の液面の『照り』が綺麗に見えるでしょ?」
蜜柑が誇らしげに、自分がテスト撮影した映像を見せてくる。
そこには立ち上る湯気も見え、俺が撮ったものより数倍美味しそうに見えた。
「本当だ……すごい……」
珈琲を淹れるのも、撮影するのも蜜柑に任せたくなってくる。
「じゃあ、今のを意識して、つばさくん。本番お願いね」
「お、おう……任せてくれ……」
不安しかないが、やるしかない。
蜜柑が手際よく珈琲を淹れ始め、俺は彼女の教えをなぞるように、必死にカメラを動かした。
◇
「よし、一通り撮れたね。じゃあ、チェックしてみようか」
「ああ……頼む」
撮影した映像を2人で確認する。
さっきよりは格段に良くなっている気がしたが、蜜柑は何度も同じ箇所を巻き戻し、厳しい表情で映像を見つめていた。
「うーん……」
蜜柑から小さな唸り声が漏れる。
――上手くいかなかったか……?
「ちょっと、ピントが合ってないところがあったから、もう一回、撮影してみようか」
「ピントか……ごめん。どうやって撮影すれば良い?」
俺と蜜柑は、カットごとに意見を出し合い、納得がいくまで撮影を繰り返した。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
最近、この作品を執筆してから、珈琲の淹れ方について、本格的に勉強しております。
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