第50話 三日目
雫ちゃんと蜜柑が、撮影した動画をパソコンに取り込んで、俺は編集作業を進めていた。
「つばさくん! かなり綺麗に撮れたよ!」
「今回の料理は、かなり美味しく出来たよ! 明日の夜ご飯も楽しみにしておいてね」
撮影に手応えを感じたのか、雫ちゃんと蜜柑が機嫌よく俺の部屋に入ってきた。
さっそく2人が撮影した動画を見た。
画質が綺麗なのはもちろんだが、何よりも料理が美味しそうであった。
「おぉー……! これ、めちゃくちゃ美味そう!」
俺は思わず、独り言のように感想を漏らした。
「だよね! 最近で一番の出来かも」
雫ちゃんも俺の感想に喜んでいたが、なにやら、その隣から蜜柑の鋭い視線を感じた。
「私が綺麗に撮ったからだよー?」
映像の質について先に言及しなかったのが不満だったのか、蜜柑が少し拗ねたように唇を尖らせた。
「いやいや、分かってるって。動画が綺麗に撮れているから、雫ちゃんの料理もより美味しそうに見えているんだよ」
そうフォローすると、蜜柑は満足したように、静かに微笑んだ。
「じゃあ、私は後片付けあるから、厨房に戻るね」
「うん、ありがとうね! 雫ちゃん」
撮影が順調に進んだのも、雫ちゃんが夜分に料理を作ってくれたおかげである。
そして、明日のご飯が楽しみである。
あとは、この最高の素材をどう料理するか、編集者の腕の見せ所だ。
「蜜柑、ここのテロップだけど、これで良いかな?」
俺は、候補に挙げていたテロップを蜜柑に共有した。
そのテロップは、かなりポップでゆるふわなデザインのものにしてみた。
老若男女、そしてカップル客も増えている喫茶『alive』には、少し遊び心のあるデザインが合うはずだ。
「うーん、良いんじゃない?」
蜜柑は一通り目を通すと、短く感想を述べた。
「じゃあ、動画素材を取り込んで、編集始めますか」
俺は、改めて気合を入れ直し、マウスを握る手に力を込めた。
「何か手伝えることがあったら、私にも言ってね」
「うん、助かる。ありがとう」
そう言い残し、蜜柑は部屋を出て行った。
「さて……気合い入れていきますか!」
俺の編集作業は、深夜遅くまで続いた。
画面の中のタイムラインと向き合い、1フレーム単位でカットを微調整する。
……気がついたときには、俺は机にもたれかかるようにして意識を失っていた。
◇
朝7時……
「あれ……寝ちゃってたのか」
カーテンの隙間から差し込む朝日……徹夜明けの目に染みる。
進捗と言うと、料理の紹介部分は完成した。
だが、まだ先は長い。珈琲の紹介とお店の雰囲気紹介の作業に取り掛からなければならない。
ベッドに移って二度寝をしようか迷った……しかし、期限も近い。作業を進めないと間に合わなくなる。
また、蜜柑に撮影をお願いしなければ……。
俺は、部屋を出て、蜜柑にこの後のスケジュールを伝えに行った。
「蜜柑、おはよう。部屋いるかー?」
俺は、蜜柑の部屋のドアをノックしながら、声をかける。
すると、部屋の中から声が返ってきた。
「はぁーい……おはよー」
ゆっくりと開いたドアの隙間から、眠そうに目を擦る蜜柑が顔を出した。
「蜜柑、昨日はありがとう! 今日も撮影をお願いしたいんだけど……」
「え、あ……うん、いいよ……」
まだ寝ぼけている蜜柑。
出来れば、開店前にお願いしたいが、この様子ではちょっと厳しそうである。
「後でお願いしても良い??」
「うん……。つばさくん……」
蜜柑が何か言いたげに、眠たげな視線をこちらに向けてきた。
「うん? どうした?」
「まぁ、動画撮影頑張るね!」
「あぁ、よろしくね」
蜜柑がこの時、何を言いたかったのか、冷静に考えれば、すぐに気づけたはずだった。
今日は映画を2人で見る予定だったのだ。
◇
第50話:番外編 雫と蜜柑
「蜜柑、唐揚げ味見してみて」
「うん! じゃあ、この小さいのいただくね……」
つばさが2人に撮影を任せて、2階に上がったその直後の出来事である……。
厨房では、雫と蜜柑がカレーライスと唐揚げの動画撮影を続けていた。
「……何これ。衣が信じられないくらいサクサクだよ」
「そうでしょう? 自分でも驚くくらい、今までで1番サクサクなの」
雫は、自画自賛したくなるほどのクオリティに仕上がった唐揚げに、満足げな笑みを浮かべていた。
しかし……
「……どうしよう。こんなにサクサクなの、普段は安定して作れないかもしれない。これじゃ、詐欺みたいにならないかな?」
「ん? どういうこと?」
蜜柑は、雫の言わんとすることがすぐには理解できなかった。
「だって、このサクサクを求めて、お店に来て、実際はサクサクしてなかったら、クレームにならないかなって……」
「雫……料理の映像だけじゃ、サクサク感までは伝わらないんじゃない?」
「確かにそうね……」
雫は、料理のことになると周りが見えなくなるようだ。
柑は、雫の意外なほど天然な一面を、初めて目撃したのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
予定を忘れてしまったつばさ。
二人には、波乱が待ち構えていた。
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