表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
珈琲を焙煎してたら恋琲になっていました  作者: エンザワ ナオキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/27

第3話 賄宴(まかうた)

 夜も更け、昼間は賑わいを見せていた商店街も、シャッターが降り、静寂せいじゃくに包まれていた。

 初日は失敗続きの、喫茶『alive』でバイト2日目であったが、がむしゃらにウェイターとして仕事をした結果、急成長を遂げ、店長にも褒められていた。


 その結果を称え、喫茶『alive』の恒例行事の賄宴まかうたが開かれようとしていた。


 料理ができるまでの時間、雫ちゃんを除く4人は、更衣室にあるボードゲームをしていた。

 更衣室にボードゲームがある理由がようやく理解したつばさであった。

 厨房からのいい匂いで、お腹を空かせていた。

 ただ、このボードゲームを空腹を忘れるぐらい楽しんでいた。


「出来たわよー! 持っていくから、誰か手伝って」


 ついに、料理の準備を進めていた雫ちゃんから、料理ができた合図が届く。

 「待ってました!」と素早く立ち上がり、川昇かわのぼりと店長が、料理を運ぶのを手伝いに行く。

 「俺も手伝います」と手伝いに行こうとするが、「つばさくんは今日の主役でしょ」と、川昇に止められる。


「つばさー、お前ボードゲーム下手だなぁ」


 俺は、結局ボードゲームは最下位となった。

 1位の田島先輩が「コツを教えてやろうか?」と煽ってくるが、「次は負けませんよ! もう覚えましたから」と言い返す。


 数々の雫ちゃんの手料理が運ばれてくる。

 その中には、お店の定番料理が多く並んでいた。

 俺は、その手料理を見て、ひとつ疑問に思った。


「川昇先輩、あまり気づかなかったけど、『alive』の料理って鶏肉料理多いですね」


「そうだよ! 雫ちゃんは鶏肉が大好物で、考えた料理がほとんど鶏肉料理になったんだって」


 雫ちゃんは鶏肉料理が大好物であった。


「中学の時から、私は鶏肉大好きだったよ! つばさくんとは、班が一緒になること多かったから、覚えていない?」


 中学の昼ごはんは給食ではなく、お弁当を持参する形であった。

 思い返してみると、雫ちゃんは唐揚げや、チキンライスなど鶏関係の料理が多かったような……と確信は持てなかった。

 曖昧な返事で誤魔化すと「覚えてるわけないよね」と厨房に飲み物を取りに行った。


 料理が並び、賄宴の準備も完了した。

 店長が乾杯の音頭を取る。


「つばさくんの歓迎会も含めて、乾杯!」


「これって歓迎会も含めてるんですね」と俺は田嶋先輩に聞いたが、「あぁ歓迎会をすれば、お店辞めにくくなるでしょ?」と冗談混じりで、笑いながらつばさに言う。


「そんな冗談言うなし」


 店長は笑いながら、田嶋先輩を注意する。



 俺は、仲の良い田嶋先輩と店長。

 2人はすごく仲が良いんだろうなと思った。

 すると、隣に雫ちゃんが座って来た。


「つばさくん、これ食べてみて」


 さっきまでは、隣には田嶋先輩が座っていたはずだが、まるで瞬間移動したかのように、雫ちゃんは隣に座っていた。


「うん、食べる」


 俺は、唐揚げを口に運んだ。

 その唐揚げは、衣がサクッと中はジューシーであり、テンプレートの感想がぴったりと当てはまる美味しさであった。


「この唐揚げ、美味しすぎる」


 雫ちゃんに素直に感想を伝えた。

 あまりの美味しさにほっぺが落ちそうであった。

 すると、雫ちゃんは満足そうに言った。


「良かったー! これでリベンジは出来た」


「美味しい! ってリベンジ??」


「そう! 中学の時のこと覚えてない?」


 俺は、中学の思い出を振り返るが、何も思い出せなかった。

 雫ちゃんに「何かあったっけ?」と聞くと、雫ちゃんは不満そうに言い返した。


「私が作ったお弁当の唐揚げをあなた食べたけど、味が濃いだの、衣の油が切れていないだの、生焼けだの散々言われたのよ」


 俺は、当時の自分に「なんでそんな酷いこと言ってるんだ」とツッコミたくなった。


「同時の私は、料理全く自信無くて、初めて作った唐揚げをあんな風に言われて、いつか見返そうと思ってたのよ」


 雫ちゃんは、俺の辛口レビューにバネに料理の腕を上げていたようだ。


「つばさくん、最低だねー」


 他の店のメンバーも聞いていた。

 俺は、後ろを向いた雫ちゃんに対し、当時の無礼を謝る。

 

「なんちゃって、もう怒ってないよ」


 雫ちゃんは振り返り、俺の目を見て、笑顔で続けた。


「つばさくんが、素直な意見を言ってくれたから、今の私がいると思うから」


 俺は、その笑顔を見て思い出した。


 遠いけど、ほのかに甘酸っぱく、ほろ苦い記憶。

 なによりも忘れたい記憶。


 ◇


 あれは、中学3年の時だった。


「……つばさくん、今度お弁当作るから、食べてみてくれない?」


「私、好きな人がいて、その人にお弁当を作りたいと思ってて」


「私が作った唐揚げ、美味しかった??」


「ひ、酷い、そこまで言わなくていいじゃん!」


 俺はその日、雫ちゃんに好きな人がいることを知ったのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ