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珈琲を焙煎してたら恋琲になっていました  作者: エンザワ ナオキ


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第47話 文化祭:前編 蜜柑の責任感

 遡ること、3年前……。


 俺と蜜柑みかんが、高校2年生の時だった。


 朝のホームルームの時間に、担任の先生が、連絡事項を共有した。


「皆さん、もうすぐ文化祭があります。今日の午後のホームルームで、文化祭実行委員を2人決めたいと思います」


 ――もうそんな時期か。


 イベントごとは嫌いじゃないが、俺にとって文化祭はあまりいい思い出がない。


 去年の文化祭は、率先してお化け屋敷の内装製作に取り掛かった。

 本気になった理由は、雫ちゃんが遊びに来ると、噂を聞きつけたからである。


 しかし、前日から季節外れのインフルエンザに感染したため、自宅を出ることすら叶わなかった。


 そのため、あまり文化祭にいい思い出はない。


「つばさくーん? 一緒に実行委員やらない?」


 声をかけてきたのは、今の派手なオレンジ髪ではなく、大人しめの黒髪だった頃の蜜柑であった。


「えー? なんで俺なの? 他の人を誘いなよ」


「いいじゃん! 一緒にやろうよ!」


 正直面倒くさいと思った。

 しかし、蜜柑は真っ直ぐな目で見つめてくる。


「でもな……」


「やろうよ!」


 何と言っても「やろうよ!」と言ってくる。

 〈いいえ〉と選択しても、無限に〈はい〉と選択せざるを得ない状況になった。


「わかったよ……代表は、蜜柑に任せるからね」


「やったー! ありがとう!」


 蜜柑のゴリ押しに負けた。


 ◇


 それから、1週間。


 俺たちは、クラスの出し物は、前年に引き続き「お化け屋敷」に決まった。

 1年と2年でクラス替えもなかったので、全員が「去年を超えるクオリティを」と一致団結していた。


 俺たちは、ホームルームで、どういうお化け屋敷を作るかを相談していた。


「それなら、モニターを使ってホラー映像を流すのはどう?」


「映像か……それなら、編集する人が必要だよね。誰か編集できる人いる?」


 クラス中が静まり返る。

 当時の俺たちにとって、動画編集なんて未知の領域だった。


「……それなら、私と西城くんで試してみます」


「え? 俺も?」


「当たり前でしょ? 私1人にやらせるの?」


 蜜柑に振り回される俺の姿に、クラス内に笑いが巻き起こる。

 こうして、俺と蜜柑の「映像制作」の日々が始まった。


 右も左も分からないまま、放課後は学校で打ち合わせ、帰宅後は電話を繋いで朝まで編集ソフトと格闘した。

 今思えば、俺たちが同じ専門学校に進んだきっかけは、この時の不眠不休の作業だったのかもしれない。


 ◇


 しかし、文化祭まで残り5日。

 お化け屋敷の制作のペースが、あまりよろしくない。

 ホラー映像の作成にも、想定より時間がかかってしまっている。

 映像が完成しないと内装のイメージが固まらず、クラスメイトたちのモチベーションも目に見えて低下している。


 俺と蜜柑は、打ち合わせも兼ねて、一緒に通学をしていた。

 焦りとプレッシャーが漂う通学路。

 隣を歩く蜜柑が、決然とした口調で言った。


「つばさくんは学校に残って! 作ってる人が現場にいれば、内装のイメージも伝わりやすいでしょ。……映像は、私が明日までに完成させるから」


「明日までにって……まだ、未完成が2本あるんだよ? 徹夜確定だよ?」


「無理じゃないよ、やり遂げる。だから、つばさくんは、つばさくんの仕事を進めてほしい」


 ふと、蜜柑の顔を見ると、目の下にはクマが出来ている。

 それでも、その瞳だけは強い光を失っていなかった。

 この時、蜜柑が持つ「土壇場での底力」を、魂に刻み込まれた。

 

「蜜柑……わかった、任せたよ」


「うん! 期待して待ってて」


 最後までやり遂げるという、蜜柑の意思が伝わってきたのであった。



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