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珈琲を焙煎してたら恋琲になっていました  作者: エンザワ ナオキ


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第46話 住み込みバイト 〜撮影開始〜

 俺たちは夕食を平らげると、早速厨房に向かう。


「よし、じゃあまず手始めに、みんな大好きな唐揚げから作っていくね」


 さっきまで自分も食事をしていたはずなのに、調理台に立つなり表情を引き締める雫ちゃんのプロ魂が凄い。


「お腹いっぱい……食べ過ぎた……」


「だから食べすぎるなよって言ったのに……ご飯何杯食べたんだよ……」


「だって、桃果とうかちゃんの料理が美味し過ぎたんだもん。2人の料理食べれるなら一生ここにいるわ」


 撮影は任せろ!と意気込んでいた蜜柑が、満腹で動きが鈍く、完全に置物と化している。

 そうなるのは当たり前であるが、蜜柑が食べすぎる理由もわかる。


「とりあえず、お腹を休めたら? つばさくん、お店から椅子を持ってきてあげて」


「大丈夫だって……撮るって言ったでしょ?」


 雫ちゃんの気遣いに強がる蜜柑だった。

 しかし、俺が持ってきた椅子を差し出すと、迷わず腰を下ろした。


「座るんかい」


「まだ下準備段階だからね……揚げ始めるまでは、カメラは回さないよ」


 確かに、下準備段階の映像は使わない。

 もっともらしい理屈だが、単に動きたくないだけに見える。


「雫……唐揚げってどうやって作るの?」


「蜜柑、気になるなら今のうちに手順を動画に撮っておけば?  勉強になるよ」


「おぉ、天才!  撮る撮る!」


 蜜柑は、椅子から立ち上がり、カメラを回し始めた。

 雫ちゃんが蜜柑に対して、自然と撮影する誘導をした。

 相手を乗せるのも上手な雫ちゃん。

 

「つばさくん、料理は他に何を紹介する?」


「そうだな……看板メニューのカレーライスは、外せないかな……」


 この店のナンバーワン料理のカレーライス。

 売り上げランキングに雫ちゃんの料理が並ぶ中、唯一店長が考案したものである。


「そうだね、後は、チキン南蛮とかどう? 私の1番自信のある料理なんだけど……」


「そうだね! 雫ちゃんが自信のある料理を載せるのが1番だと思う!」


 雫ちゃんは、慣れた手付きで唐揚げの下準備を進めていく。

 この3品を中心に動画を作り上げよう。


「蜜柑、あとはコーヒーを淹れるシーンも差し込みたいんだ」


「なるほどね……ここで、マヨネーズを入れるんだ……って、何? なんか言った?」


 蜜柑は唐揚げの撮影……というか、工程を見るのに夢中であり、俺の指示が全く耳に入っていない。


「コーヒーを淹れるところも撮るぞって言ったんだよ!」


「はい、コーヒーを淹れるね! 了解!」


 何故だろうか……ついさっきまでの期待が、少し薄まった気がする。


「下準備完了したから、次は、カレーを作っていくね!」


 雫ちゃんは、唐揚げの下準備を終え、カレーライスを作り始めた。


「ここも、撮影していくよー!」


 少し時間が空いたからか、蜜柑のやる気も戻ってきた。


 厨房で雫ちゃんと蜜柑が、夢中になって撮影を続けている。

 俺は遠くで、2人の様子を見守っている。

 すると、同じく遠くで様子を伺っていた桃果ちゃんが、小さな声で話しかけてきた。


「木ノ下先輩って、かなり気まぐれな方ですね」


「でも、やる時はやってくれるから……大丈夫だと思うよ」


「に、西城さんは、木ノ下先輩を信頼しているんですね」


 どこか寂しげな桃果ちゃんの視線に、俺は少しだけ言葉に詰まった。

 

「まぁ、信頼せざるを得ないというか」


 俺は、蜜柑が決めるときは決める姿を高校の時から何度も見てきた。


 あれは、高校2年生の文化祭の出来事であった……。

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