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珈琲を焙煎してたら恋琲になっていました  作者: エンザワ ナオキ


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第40話 住み込みバイト 〜過去〜

 俺は、ホコリの被った棚から、3人の男女が写った写真を見つけた。

 そこには、高校生の雫ちゃんらしき人物と、店長とおばあちゃんが写っていた。

 その写真の日付を見ると、約5年前。

 雫ちゃんが、確か1年前から働き始めて、メニューを考案したと話していた。


 ――5年前だと知り合っているはずはない


 何かがおかしい。


 しかし、思い返すと不自然な点は他にもある。

 この店の料理は、閉店間際の店を立て直すために、1年前に雫ちゃんが考えたと言っていた。

 それに、今回の住み込みバイトの件も、そこまでする必要があるのかと疑問に思う。


 雫ちゃんは、来年の4月からは就職である。


 これは、俺たちには言えない隠し事があるのか、それとも言っていないだけなのか……。


 果たして、どちらであろうか。


「つばさくん、その写真見つけたのね」


「え? し、雫ちゃん??」


 俺は慌てて振り向くと、雫ちゃんが店のエプロンを付けながら、こちらを見ていた。


「ご、ごめん、棚からはみ出してたから、どんな写真か興味があって、見てしまったの……」


「そうなんだ」


 俺が写真を持ちながら、立ちすくんでいると、雫ちゃんは静かに写真を取り上げた。


「まぁ、いいの。この写真はいずれ、皆んなに見せようと思っていたから」


「そ、そうなの?」


「うん、この1週間で、4人には話そうと思っていたの」


 俺は、ちょっと怖かったが、勇気を出して聞くことにした。


「雫ちゃん、なんで5年前の写真に店長がいるの?」


 すると、雫ちゃんは一呼吸溜めて、打ち明けた。


「それはね……。店長は従兄妹いとこだからね。」


 ――店長が従兄妹??


 あれは少しびっくりした。

 従兄妹という考えはなかった。


「私はね、高校生の時に両親と縁を切ったの」


「え、縁を切った……??」


「そう、両親がすごく借金を抱えていてね、両親側から、私に迷惑をかけたくないってことで、おばあちゃんに引き取られて、従兄妹の店長が私に居場所を作ってくれたの」


 俺はあまりの衝撃に空いた口が塞がらなかった。


「そ、そんな過去があったの……」


 なんて声をかければ良いかが分からなかった。


「だけどね、最近連絡があって、両親が借金を返済したらしくて、また一緒に住まないかって」


「そ、そうなの?」


「うん、だけどね……理由はどうであれ、私を一度捨てた両親と一緒に住むことなんて出来ない……。だから、私はどうするべきか、3人に相談するつもりだったの」


「な、なるほど……」


 想像以上に重い話であった。

 そんな簡単に解決する問題ではない。


 経験がないことは、踏み込んで質問をしにくい。

 だが、雫ちゃんが話そうと思ってやめた訳は、話の内容が重いからであろう。


 ――それなら、なんとか解決してあげたい


 だけど、生半可はアドバイスは出来ない。


「全く身勝手だよね」


 雫ちゃんは、震えていた。

 当たり前だ。どんな理由であれ、一度捨てたのだから。


「私、おばあちゃんに感謝しているの」


「おばあちゃんって、この写真に写っている人?」


 そう聞くと、雫ちゃんはコクリと頷いた。


「おばあちゃん、元料理人なの。料理学校のお金を出してくれたし、鶏肉料理もおばあちゃんが教えてくれた。今でも、関わりの浅い私を可愛がってくれている」


 店長が、雫ちゃんを信頼している理由がわかった。


「だから、これからもずっと、一緒に住んでいるおばあちゃんのそばにいたいなって。おばあちゃんも歳だから、これからいっぱい恩返ししたいって思ってるの」


 雫ちゃんは、優しい人である。

 俺も雫ちゃんと同じ立場であったら、おばあちゃんと住みたい。


 俺は、自然に涙が込み上げて来た。


「あれ……?」


 その理由はきっと、強いと思っていた雫ちゃんが、裏でこれだけの苦労を抱えていた。

 俺は、彼女のことを何も知らなかったのだ。


「なんで、泣いてるのよ」


 雫ちゃんが、不思議そうに俺を見つめ、その後困ったように軽く微笑んだ。


「やっぱり、あなたは優しいよね」


「そんなことないよ」


「うんうん? 一緒になって泣いてくれる人なんて、今までいなかった。同情はしてくれるけどね」


「同情じゃない……これまで、1人でずっと頑張ってきたと思うと、自然と込み上げてきちゃった」


 俺は今まで、1人で抱え込んでいた雫ちゃんの精神的強さに、改めて強く感心したのであった。

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