第2話 喫茶『alive』の恒例行事
ゴールデンウィークも終わりを告げ、学校も再開となった。
学校に登校した俺は、由宇希や友達のゴールデンウィークの思い出を聞いていた。
「俺の視聴者さん、ついに同接千人超えたんだよ!」
由宇希は、配信活動を満喫していたようだ。確かに由宇希の配信は面白い。
「私は、おばあちゃん家に、帰省していたよー! これ、お土産ね!」
蜜柑は、遠くのおばあちゃん家に帰省をしていたようだ。お土産として、みかんを持ってきていた。
各々が「遊園地行ってきた」や「ライブ。楽しかった」など、思い出を振り返る中、蜜柑が俺にも、ゴールデンウィークの思い出を聞いた。
「つばさくんは、思い出出来た??」
思い出を振り返った。
――風邪を引いていた記憶しかない
「木ノ下さん、つばさはずっと風邪引いてたんだよ、最終日もバイトだったみたいだよ」
「え、そうなの? もう風邪は大丈夫なの?」
由宇希は、蜜柑に俺がゴールデンウィーク中に風邪を引いて寝込んでいたことを伝えた。
「私お見舞いに行ったのに」
風邪を引いたことは蜜柑には伝えていなかった。
蜜柑は面倒見が良く、高校なとかも俺がインフルエンザにかかった時、家に来ていたからだ。
その後、蜜柑にもインフルエンザが移っており、俺は責任を感じていたのだ。
心配してくれた蜜柑に「ありがとうね」と感謝の気持ちを伝えた。
「それだと、つばさは思い出できなかったの?」
蜜柑が俺に向かって、心配そうに話した。
俺は、喫茶『alive』で、初恋の相手が働いていたことを話すか迷った。
〈初恋相手が働いていた〉
と言うのは、簡単であるが、相手は彼氏がいることを雫のメッセージからの情報で知っている。
1ヶ月前には、茜への告白失敗もあった。
それに、由宇希と蜜柑は振られたことを知っている。
すぐに他の人を好きになったと、思われるのは御免であった。
「んー初バイトが楽しかった事くらいかな?」
「ふーん、可愛い人とかいたの??」
「か、可愛い人?」
「そうだよー? 蜜柑はつばさが落ち込んでること知ってるから、新しい出会いとかはなかったのかなーって」
女の勘は鋭い。
蜜柑とは、高校からの付き合いであったが、お互いの恋愛についても相談をするぐらい仲が良かった。
「女性はいたけど、そんなこと考える余裕はなかったかな」と誤魔化し、つばさはトイレに向かった。
「可愛い子いたんだね……嘘つくのが下手だね、つばさくんは」
放課後のチャイムがなると、カバンを肩に掛け、教室を後にした。
――久々の学校は疲れるな……
バイト初日を散々な結果で終えたが、次の日には、すぐに2日目のバイトを控えていた。
失敗が続かないかが、それだけが不安であった。
――今日は頑張るぞー
初日の失敗をくよくよしたって仕方ない。
太陽が西に傾き始める午後3時。
俺は意気込み、喫茶店の扉を開ける。
「お疲れ様です」
扉を開けると店長からの挨拶と同時に、美味しそうなカレーの匂いが店内に漂っていた。
「おぉーお疲れ様」
「お疲れ様です、店長。今日は、川昇先輩と田嶋先輩は、いらっしゃらないんですか?」
「あぁー彼らも学生だからね。今日は平日だし、浦島さんとつばさくんと2人だけだよ」
「そうですか」
バイト2日目にして、雫ちゃんと2人きりになるとは、思いもしなかった。
俺は、厨房の奥にある更衣室へ向かう。
「つばさくん、お疲れ様ー」
すでに、雫ちゃんは出勤しており、厨房で料理の下準備を進めていた。
手元にはカレーの具材があり、雫ちゃんが作っていたのだろう。
「お疲れ様! あ、改めてよろしくね」
「うん……こちらこそ、よろしくね」
ぎこちない会話を続ける二人であった。
俺は小走りぎみで、着替えのため、更衣室へ向かった。
――うーん、やばい……意識しないようにしてても、意識してしまうと言うか、そう考えてる時点で、意識しているのではないか??
頭の中は、完全に邪念でいっぱいであったが、俺にそんな余裕はない。
――こんなことを考えてる余裕はない
――今日はウェイターワンオペ。そっちに集中しなきゃだめだ!
俺は、ふと周りを見渡すと、多種多様のボードゲームやゲーム機があることに気づいた。
――初日には気づかなかったけど、ここボードゲーム多すぎないか?
休憩時間は、羽を伸ばせそうだ。
俺もボードゲーム好きであるが、知らないものも多くあった。
――いかん、そんなこと疑問に思ってる場合ではない
とりあえず、冷静さを取り戻すために、持っていたペットボトルの水を頭からかけた。
「つ、つばさくん? 何してるの??」
「川昇先輩!! 何故ここにいるんですか?」
「何故って、あなたが入って来る前からいたんだけど……返事返ってこなかったし、音楽でも聞いてるのかなと思って」
頭から水を被った姿を川昇先輩に見られていた。
川昇先輩は、昨日の失敗を見て、忙しい時間帯だけでも、シフトに入ってくれるようだ。
就活を控えてる川昇先輩は、「私はここが落ち着くんだよねー」と伝え、更衣室で勉強を始めた。
それだけでも肩の荷が降りた気がしたが、なるべく川昇先輩に迷惑をかけないように頑張ろうと心に誓った。
「先輩、ウェイターで失敗しないコツは何ですか?」
「そうね、当たり前だけど、焦らないこと。焦らずに一つずつ確実に仕事を終わらすこと」
「余裕のある時は、店内を見渡すこと。おかわりを欲しがってる人がいないか、この店は呼び出しベルがないから、私たちを必要としてる人がいないかを確認すること」
川昇先輩は、面倒見が良く、つばさに身振り手振りを交えて教える。
「1番大事なのは……」
「大事なのは??」
「自分も過信しすぎないこと……かな??」
確かに思い当たる節はある。
「自分はできる」と思い込むことは、スーパーのバイトでも、ミスに繋がったことがあった。
川昇先輩のアドバイスを胸にしまい、運命のバイト2日目が始まった。
「カルボナーラとコーヒーのセットお願いします」
「はい! カルボナーラとコーヒーのセットですね!」
幸いなことに、昨日のランチタイムよりは人は少ない。
「ここを乗り切れないと、この先ウェイターは厳しいぞ」と手に汗握る。
店内は20席ほどあるが、半分は埋まっている。
「つばさくん……」
店長が心配そうに見つめてくる。
その視線を感じつつ、俺は必死にオーダーを取る。
「つばさくん……何があったんだ」
「はい? 店長、視線送るのやめてください」
「い、いや? 昨日より格段に手際が良くなってるよ? 1日でこんなに良くなる??」
店長が驚くほどの手際の良さであった。
夜18時になり、夜のディナータイムが近づき、店内は客で賑わう。
それでも、手際良くオーダーを取り、料理を出し、空いた皿を片付けるように心がけた。
「私、来なくても大丈夫だったみたいね」
着替えを終えた、川昇もつばさの姿を見て感心した。
「美代先輩! 厨房のヘルプお願いできますか?」
「はいよ! 私に任せなさい!」
川昇先輩は、雫ちゃんのヘルプに向かった。
ウェイターの仕事を安心して、任せてくれたのであった。
……2時間後
「つばさくん……あなた、覚え早いね」
本日の営業も終了し、更衣室にみんなが集まる。
川昇のサポートも多少はあったが、混雑するディナータイムをほぼひとりで乗り切った。
「今日は久々に賄宴するか」
「賄宴? なんですか??」
「賄宴はね、店員が素晴らしい働きをした時に行う、食事会みたいなものだよ」
喫茶『alive』には、店員の意欲を上げるために、良い働きをした店員がいた時は、みんなでご飯を食べる習慣があるらしい。
「店長? 賄宴するなら、早く行ってくださいって毎回言ってますよね?」
「浦島ちゃん、ごめんって」
そういうと、雫は厨房に向かった。
「俺も手伝うよ」と厨房に向かう雫を追いかけた。
「今日の主役でしょ? ご飯は私に任せなさい」
そういうと、雫は俺の背中を叩いた。
「ならお言葉に甘えて」と言い、更衣室に引き返そうとした。
すると雫は、俺の優しくの袖を引いて、「あのね、ひとつだけ聞いてもいいかな?」と尋ねた。
「もしかして、つばさは、私がここで働いていることを知っていたの?」
雫は、真意を問いたいかのような眼差しを向けた。
「知らなかったよ? 昔から喫茶店で働くのが夢だったから、家も近いしここにしたんだ」
俺は、喫茶『alive』を選んだ理由を雫に伝えた。
そう聞いた雫は納得するかのように頷き、料理を始めた。
「よぉー西城! 大活躍だったみたいだな」
更衣室に戻ると、今日は休みだった田嶋先輩が、椅子に腰をかけていた。
「田嶋先輩、今日休みじゃなかったんですか?」
「あぁ〜賄宴だって聞いたからな、従業員は可能な限り、絶対に参加することが必要なんだよ」
「可能な限り絶対って……強制じゃないですか」
賄宴は、喫茶『alive』にとっては、それだけ大事な行事のようだ。
「でも、店長? 不定期開催はやめてください。俺、部活途中で切り上げてきたんですよ?」
「仕方ないだろ? 活躍する従業員は、いつ生まれるかわからないんだからなぁ」
「西城、お前も可能な限り、強制参加だからな!」
「は、はい……参加します!」
更衣室では、盛り上がりを見せていた。
みんな気さくな人たちなのは、初日で理解していたが、ここまでお喋りな人たちとは思ってもいなかった。




